DUNLOPの好調なゴルフ事業を支える「ゴルフ科学センター」の存在と、ますます重要になる北米市場

1930年に国産初のゴルフボールを生産するなど、日本のゴルフシーンに馴染みの深いDUNLOPブランド。元来、ゴルフ自体が欧米を中心に人気が高く、また2017年に住友ゴム工業株式会社がグローバルで「DUNLOP」のスポーツ事業における商標権を取得したことから、海外展開はますます進む。

1994年には研究開発施設である「ゴルフ科学センター」を丹波市の市島工場に隣接して開設し、SRIXON(スリクソン)やXXIO(ゼクシオ)といった製品群を生み出してきた。そんなブランドのビジネスと研究開発について、同社に伺った。(初出=JSPIN

広大なフェアウェイと最新鋭機器の数々

住友ゴム工業のスポーツ事業に関する研究開発施設、スポーツ総合開発センターは兵庫県丹波市にある。ゴルフボールを生産する市島工場の隣にゴルフ科学センターがあり、昨年10月にはテニス科学センターも同敷地内に誕生した。

DUNLOPは、プロやアスリート志向のアグレッシブなプレーヤーが好むSRIXON、爽快な打球音とやさしい打感で、打ちやすく、打点のミスに強いXXIO、そして2007年に買収したアメリカのCleveland Golf(クリーブランドゴルフ)といったブランドを持ち、ボールとクラブを主力商品として、競技レベルやプレースタイルに合わせて幅広いラインナップを展開している。

そんなDUNLOPの「ゴルフ科学センター」には400×75ヤードのフェアウェイが広がり、一般的なゴルフコースにあるようなバンカーやグリーンもある。飛距離や弾道、打撃音まで計測できる独自のスイングマシンが設置され、さまざまなテストが行われている。

住友ゴム工業 商品開発部 スポーツ実験グループで同科学センターを統括する加藤聡氏が説明する。

「ゼクシオのクラブは爽快な打球音が特徴なので、ここで周波数や残響を計測して開発に持ち帰っています。ボールについても最新のデジタル機器を使って、飛行性能や空気抵抗を測定し、ディンプル(ボール表面のくぼみ)の設計に役立てています」(加藤氏)

ゴルフ科学センターの隣に位置する市島工場では、ゴルフボールの製造からパッケージングまで行っている。計測で得たデータを開発に落とし込み、製造するまで一連の工程がここで行われている。

ゴルフ科学センターにはプロゴルファーも訪れ、実打やパッティングの計測も行なっている。スリクソンと契約する松山英樹選手も学生の頃から訪れては計測を行い、パターやドライバー音の解析に熱心に耳を傾けていたという。

「ゴルフ科学センターでは詳細なデータが取れるので、“データで意思決定できる”のが非常に大きい。プロゴルファーの感覚をどう製品に落とし込んでいけるかが大事なので、プロが打った感触という定性的な情報と、その裏側の定量的なデータを結び付けるという大きな役割があります」(加藤氏)

住友ゴム工業 商品開発部 スポーツ実験グループ 課長 加藤聡氏

アメリカという巨大市場、転機になった現地企業買収

住友ゴム工業のゴルフ事業の海外展開が目立ってきたのは1990年代から。スリクソンブランドが立ち上がり、東南アジア(96年)、北米(97年)、欧州(01年)、オセアニア(02年)と次々と販売子会社を整備していった。

そんな矢先、転機になったのが2007年のクリーブランドゴルフの買収だ。住友ゴム工業 ゴルフビジネス部でゴルフクラブビジネスを統括する飯島賢一氏は、こう証言する。

「もともとアメリカに拠点はありましたが、より拡大していくことができたのはクリーブランドゴルフを買収してからです。一緒に仕事をするようになって、そこから急速に社内のグローバル化も進んでいきました」(飯島氏)

現地会社の買収で、まず、販売において重要なカギを握る「販路」が拡大。また現地メディアとのネットワークやアメリカに拠点を置くPGAツアーとの距離感も縮まるなどの効果も得られた。

商品開発については、クラブの中でもウエッジ(短い距離を打ち分けるクラブ)やパター(グリーン上でボールを転がすクラブ)に大きな強みを持つクリーブランドゴルフのノウハウは他ブランドにも活かされた。日本のゴルフ科学センター内にあるスイングマシンと同様の機器が米国のクリーブランドゴルフにも導入されており、日米でデータを共有することも可能になっている。

屋内には様々な機器が配されフェアウェイを望む。左手には市島工場も。画像提供=住友ゴム工業

こうした商品開発や販売、渉外・広報といった機能面以外にも、企業文化という点でも大きな影響を受けたという。

「住友ゴム工業は“慎重な協議を重ねて多層的な意思決定を行うスタイル”でしたが、クリーブランドゴルフは“トップマネジメント層が大きな権限と責任を背負ってスピード感を持った意思決定を行うスタイル”でした。クリーブランドゴルフが持つ意思決定の速さを取り入れていくことで、グローバルで生き残るのに必要な意思決定スピードが身についていきました」(飯島氏)

通常、海外展開を自社だけで行うのには時間と労力がかかる。住友ゴム工業のように、現地で既に認知度があり、体制も整っているブランドを買収するというのもひとつだ。「米国のクリーブランドゴルフの拠点を活用して現地で企画、開発を行うことで、そのほかのDUNLOPブランドのゴルフ製品においても、米国市場にあった商品を提供できています。」(飯島氏)

DUNLOPならではの海外展開アプローチを

2010年代からは、住友ゴム工業は特に、世界最大のゴルフ市場であるアメリカの攻略に向け、プロゴルファーとの契約に力を入れてきた。

先出の飯島氏は「アメリカではプロとの契約でマーケティングストーリーを作り、市場シェアを取っていくのが主流。そこにどう入っていくのかを考えないと、なかなかビジネスは伸びません」と指摘する。

2021年にはメジャー選手権5度制覇のブルックス・ケプカ選手(アメリカ)と契約。長年スリクソンを使用する松山英樹選手、シェーン・ローリー選手(アイルランド)などスリクソン契約選手を「TEAM SRIXON」と呼び、スリクソンブランドのさらなる認知の獲得に努めている。

画像提供=住友ゴム工業

ただ、従来スリクソンブランドが牽引してきたDUNLOPの北米ビジネスだが、ゼクシオブランドのビジネスも好調だという。飯島氏が補足する。

「ゼクシオは、北米でも日本と同じマーケティングストーリーです。気持ち良く、ゆったりゴルフをしたいという方々に対して、試打会を開催したり、丁寧に接客するなどして、じっくり売っていくスタイルで伸びてきています」(飯島氏)

スリクソンとゼクシオ。異なるターゲット層のブランドだからこそ、マーケティングのアプローチも異なるわけだ。

海外展開といっても、闇雲に全ての市場を狙えば良いということではない。各市場に合った戦い方や、強みを発揮できるブランドは違う。各市場を見極めて、会社としてどうビジネスを伸ばすか考えていかなくてはならない。

住友ゴム工業の直近の決算(2023年12月期、連結)によれば、ゴルフとテニスからなるスポーツ事業は3期連続で増収増益。ゴルフビジネスにおける北米市場での売上は近年右肩上がりで、現地通貨ベースで2015年比の約4倍まで成長している。2024年は将来のさらなる飛躍のため、投資を行っているとのこと。

「私たちは派手なマーケティングで成功してきた会社ではありません。強みは、お客様一人一人と対峙して、何を望んでらっしゃるか、何に困っているかを丁寧に拾い上げて、それを解決すること。自分たちのアイデンティティーを忘れずに、粘り強くやっていくことが今後も必要だと思っています」(飯島氏)

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