デジタルで切り拓くセカンドキャリア。Deloitte Digitalがアスリート人材と築く、新しい「キャリアモデル」とは?

東京ヤクルトスワローズで投手として活躍した久古健太郎氏は、現役引退の翌年、異例ともいえるコンサルティング会社への転職を果たした。アスリートの採用を決めたデロイト トーマツ コンサルティングでデジタルを駆使した価値創造を手掛けるDeloitte Digital Japan Leadの宮下剛氏、実業務を通して育成を担うアソシエイトディレクターの森松誠二氏を交え、3者にアスリート人材の採用と教育、キャリアビルディング、そして組織への影響を語り合ってもらった。

あくまで1人のビジネスパーソンとして採用

ビジネスが不確実性を増し、課題が複雑化する中で、それを解決する人材と組織にも多様化(ダイバーシティ)の波が訪れている。元プロ野球選手というアスリート人材を採用した背景には、どのような意図があったのだろうか?

宮下剛氏(以下、宮下):久古さんを採用するときに考えたことが3つほどあります。まず、当然ですが「元プロ野球選手を採用」といった一時の話題性を目的とした採用であってはいけないこと。キャリアチェンジにチャンレジする久古さん、今後キャリアチェンジを考えるアスリート、そして採用する会社、それぞれに意味をもつ採用になることを目指しました。

次に、「元プロ野球選手」という経歴をどの程度意識して育成するかを考えました。元プロアスリートというのは素晴らしい経歴であり、大切にすべきものだと思いますが、そこに固執しすぎてしまうと新しい一歩が踏み出しにくくなるため、そのバランスに留意しようと思いました。

そのためにも、最後は本音で語り合える環境を整えなければならないということを重視しました。採用を担当した私だけが理想を掲げてもダメで、一緒に仕事をする仲間と相互に理解を深められ、組織として受け入れられる体制を整えていかなくては、異色の経歴である久古さんが孤立してしまいかねません。

宮下剛:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員

久古健太郎氏(以下、久古):実は、目上の人と本音で話す機会は、これまでほとんど経験してきませんでした。アスリートから見た「上の人」というと監督やコーチですが、指導者とは一定の距離が必要という考え方もありました。

宮下:本音で語り合える環境づくりのために最初に決めたのが、「久(きゅう)ちゃん」という呼び方です(笑)。経歴をリスペクトするあまり、周りの人たちが話しかけにくくなってはいけない。まずは親しみやすい呼び方を決めました。

また、久古さんには、当時100名ほどの部署のメンバーの前で、自分の言葉でこれまでのストーリーやキャリアチェンジの想いを語ってもらいました。そしてその後、事前に準備したヤクルトの応援傘100本ほど全部にサインをしてもらって、みんなで「東京音頭」を踊りました(笑)※。

(※東京ヤクルトスワローズの応援では、傘を振って「東京音頭」を歌うのが恒例)

久古:馴染みやすい雰囲気を作ってもらえたので、そこに乗っかっていかせてもらいました。そういう意味では、とても恵まれていましたね。

元選手からの応募「おもしろいね」

宮下:もう1つ気になっていたのが、仕事に対するモチベーションです。プロ野球のピッチャーは「この1球にすべてをかける」という勝負をしてきたと思うのですが、これからの仕事では少しモチベーションの質が異なるところもあって、以前と比較して自分は全力を出していないなどと悩むことがあるのではないかと心配していました。

そのあたり、直属の上司になる森松さんはどう見ていました?

森松誠二氏(以下、森松):少し時間を戻して話すと、宮下さんからある夜に「こんな人材から応募がきているんだけど、どう思う?」って電話をもらったんですが、すぐに「おもしろいね」と答えました。すると宮下さんは、「森松さんならそう言うだろうなと思いましたよ」と(笑)。

久古:そんなことがあったんですね(笑)。

森松:そう答えたのは、私たちがDeloitte Digitalをゼロから作っていく過程でもあったからです。新しいことに取り組んでいく「挑戦」では、第一線にいたアスリートが活躍できるんじゃないかと思ったんです。

ただ、多くのアスリートがセカンドキャリアを始めようとするときに「競技しかしてこなかったんで…」と自分を卑下してしまうということを聞いていたんです。「だから、一から教えて下さい」というなら、断ろうと思っていました。

ですから、面接の時には、「自分のこれまでのキャリアをどう活かすことができるか」と問いかけました。すると、ほぼ即答で「スポーツは目標を設定して、そこから逆算してトレーニングをしていきます。ビジネスにおいても、同じアプローチが活かせると考えています」という言葉が返ってきました。これで決まりでした。

プロスポーツの選手になるということは、ある意味、難関大学に合格することよりも難しい。人と違ったものを持っているわけです。目標をクリアするための独自の方法論は、スポーツにしか通じないものではないはず。それを新しい価値を作るコンサルティングに活かしてもらうことを想像すると、とてもワクワクしてきました。

左)森松誠二氏:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクター/カスタマーエクスペリエンスデザイナー

宮下:レジュメの内容も、とてもクリアでしたね。なぜこの仕事を目指すのか、ということがしっかり書かれていました。就活対策で準備したものかどうかは、実際に話してみるとわかります。久古さんの場合は、具体的な質問をすればするほど、自分の言葉で具体的な答えが返ってきました。つい2か月前までプロの世界で勝負していた人が、ほんの短期間で切り替えられたことが驚きでした。

久古:濃密な2か月でした(笑)。もちろん、自分のパフォーマンスが落ちてきて、引退が頭に浮かんだ頃からセカンドキャリアについては考えていましたが、具体的に次の道を探し始めたのは引退を決めてからでした。そこはケジメとして、そうしようと。

そこからは、がむしゃらに、本当に深堀りして考えました。「文字にする」という経験があまりなかったんですが、これからは欠かせないスキルですから、真剣に取り組みましたね。もしかしたら、アスリートの集中力がこんなところで活きたのかもしれません(笑)。

宮下:セルフマネジメント力があったんだと思います。これまで、アスリートとして何度も厳しい状況を乗り越えてきた経験が、活きたのではないかと思います。

「デジタルスキル」という壁に突き当たった

右)久古健太郎氏:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マーケティング&カスタマーエクスペリエンス スペシャリスト

森松:仕事に対するスタンスは申し分なかったけど、やはりデジタルスキルという面では、それなりの苦労もあったかな。

久古:そうですね(笑)。EXCELなどを仕事で使うという経験はありませんでしたし、なにより研修で使われる用語がぜんぜんわかりませんでした。入社して1週間は、同じタイミングで入社した他の中途入社の方たちと一緒の研修で、それに備えて自分なりにパソコン教室にも通ったんですが、ぜんぜん通用しませんでした。

森松:そこで、まずは新人の入社研修資料すべての項目をクリアするように求めました。かなりボリュームもある資料でしたが、わかるまで何度でもという方針で、やり直しもしばしばでした。基礎力を高めるということで、野球でいえばキャッチボールみたいなことでしょうか。でも、それを一切手を抜くことなくやり遂げましたね。

宮下:メディアでアスリート人材の「いま」を紹介されることは増えてきた気もしますが、それまでどのような経緯をたどってきたのかはなかなか知る機会がない気もします。本人はどのような壁を感じどう乗り越えたか、私たちはコンサルティング会社の育成ノウハウでどうスーパーバイズ(監督・管理)したか、そのプロセスを体系化することは今後のアスリートの方々のキャリアチェンジにも役にたてることもあるのではないかということで、日々の活動や気づきなどを記録していこうということになりました。

森松:取材も積極的に受けていこうと考えました。最初はキャリアチェンジの想いを、そして徐々にコンサルティングとしての実績で取り上げてもらえるようになろうという目標も話し合っていました。

久古:メディアへの対応は、それが会社のためになるのであれば、自分の役割として取り組んでいこうと思っていました。アスリートのセカンドキャリアのロールモデルのひとつになる、というのも自分なりの目標だったので、そのためにも必要なことだと考えていました。

成長度合いを見極め、慎重に育成

森松:コンサルタントの育成には、いくつかのパターンがあります。実際の業務で仕事を覚えてもらう「OJT(On-the-job Training)」もありますが、久古さんについては、異業種からの転職なので、焦らずじっくりと話し合って育成計画をたてています。久古さんのスキルレベルも確認しながら。

宮下:そうですね。お客様の課題解決をご支援するプロジェクトに参画するまでの準備期間は、長めに設けました。スポーツの経験を活かせればということで、ソーシャルインパクトパートナーであるFC今治との取り組みにも参加してもらいました。議事録をまとめたり、会議を仕切るような経験の中で、仕事の理解も深まった気がします。今後、多様な人材のマネジメントの必要性はさらに高まると考えているので、育成に関してもいろいろなパターンがあってよいと、改めて思いした。

久古:入社当初は、私もかなり前のめりだったと思います。自分の現在地を知らなくてはなりませんでしたから、きちんと話し合った上で育てていただけているのは、とてもありがたいです。

宮下:でも、順応性は高かったですね。最初はとまどいもあったと思いますが、例えばフリーアドレスに関してもすぐに慣れましたし。当社はフリーアドレスのため、隣に座っているメンバーが同じ組織や業務を担当しているとは限らず、質問したいときに一緒に働いている仲間が社内にいるのかどうかもわからないこともあります。

森松:ぜんぜん手厚い育成じゃなかった!?(笑)

久古:いやいや(笑)。すべてが初めてのことだから、そういうものだと受け入れられたんだと思います。

デジタルで創造する「キャリア」という新たな価値

宮下:Deloitte Digitalでは、デジタルスキルを身につけることでキャリアの機会や選択肢を広げ高めていく取り組みを行っており、久古さんにも参加してもらっています。元アスリートといっても個性もさまざまで、団体競技か個人競技かでも違いますし、プロかアマチュアかでも違うなど、ひとくくりでとらえてはいけないと思います。すべてのアスリートに当てはまるものでもないと思いますが、できるだけ普遍的なものにできればと思っています。

また、アスリートのセカンドキャリアやデュアルキャリアについて、いろんな取り組みが進められているため、それらと私たちの取り組みがうまくクロスしていけばいいなと思っています。

森松:私たちは「元アスリート」という特性を採用したわけではなく、「久古健太郎」という個人を採用したんですね。彼のバックグラウンドが「元プロ野球選手」だっただけの話です。この不確実な社会で、デジタルスキルによるキャリアチェンジで、新しい可能性を作っていきたい。これまでのコンサルタントとは違った経歴の人材を採用することで、異なるキャリアからの気付きや刺激を得て、新しい考え方や発想、新しい価値を生み出すことが目標です。

久古:いま私は、いろんなことに「手探り」で取り組んでいるんですが、それが間違いじゃなかったとわかってとても安心しています。私なりのキャリアを活かして、新しい存在になれるように努力を続けていきたいです。

宮下:私は組織のカルチャーとして、「本音の会話、本気の遊び、本物の仕事」をポリシーにしています。「遊び」というのはシーンによっては「遊び心」という意味ですが(笑)。今回のチャレンジもアスリートのキャリアチェンジを起点に、さらに新しい何かを生み出していくための柔軟なアイディアを出し、本音で会話しながら一緒に形を創造していければと思います。

「アスリート人材」といっても、他の多くの中途入社の人材と変わらず、その人なりに努力をして経験を積んできた経歴を持っている。それを活かせるかどうかは、もちろん当人の努力も関わってくるが、受け入れる側のスタンスにも大きく左右される。Deloitte Digitalのデジタルを駆使した価値創造において、多様な、新しい人材がいかに活躍していくのか。ぜひ注目していきたい。

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