シント=トロイデンVVのオンライン施策を活用したパートナーシップ事例(DMM松岡昌平)

画像提供=STVV

広告価値換算では見出せない特別なステータス

DMM.com(DMM)がシント=トロイデンVV(STVV)の経営権を取得したことで分かったことがある。欧州でサッカークラブ経営に携わるということは、日本で想像する以上に社会的ステータスが高いということだ。

試合前にはスタジアムのVIPルームでフルコースのディナーを対戦相手の経営陣と食べながら、互いのチーム状況や、注目している選手などの話で盛り上がり、他の部屋でも地元の経営者同士、サポーター同士がテーブルを囲んで試合前の時間を楽しむ。

週末の社交の場として、スタジアム全体に和やかな空気が流れるのだ。もちろん試合が始まると雰囲気は一変するが…

欧州に駐在している日系企業の方々は前述の環境に触れる機会が多く、サッカーの虜になって帰任するという話を耳にしたことがあるが、私もホームスタジアム、アウェースタジアム含め多数のスタジアムを訪問し、各クラブ自慢の手厚いホスピタリティに感心したのを覚えている。

日本企業の欧州クラブへのスポンサーシップは一般的になりつつあり、各国のスター選手がスターティングメンバーに名を連ねるビッグクラブへのスポンサーシップも珍しく無くなってきている。しかし、潜在顧客にSTVVの魅力を伝える上で一番のストロングポイントは何かと考えると 、「日本企業がオーナーを務め、挑戦できる環境が整うサッカークラブ」であるだろう。今回はそのポイントを生かした2つの取り組み事例をご紹介したい。

物理的制約の壁を取り払うファントークン

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一つ目はSTVVファントークンの発行である。コロナ禍の影響はベルギーも例外ではなく、昨シーズンは全試合が無観客開催となり、チケットやグッズ・飲食などの興行収入の激減がクラブを直撃した。そのダメージは我々のような中小規模のクラブにとっては死活問題となるのだが、それ以上に、スタジアムに応援に行きたくても行けないサポーターとクラブの距離をどう保つかが喫緊の課題であった。

多種多様なエンターテインメントが溢れる世の中で、一度離れたサポーターに再び戻って来てもらうのは相当難しいからだ。その問題を解決するため、チームのビジネススタッフを中心にSTVVファントークン発行にチャレンジした。

ファントークンはデジタル資産の一種で、その所有者はクラブが用意するファン投票券をはじめとしたアクティベーションに参加する権利を得ることができる。STVVではキャプテンマークに記入するメッセージを決める、歴代のお気に入りユニフォームに投票しグッズショップで販売復刻するなどのイベントを用意し、多くのサポーターに楽しんでもらうことができた。

またこのファントークンは、年会費などを支払うファンクラブなどとは異なり、一度購入すれば売却などによって手放さない限り何度でも権利を行使することができ、半永久的にクラブとの接点を持ってもらうことができる。スマホやPCから簡単に購入可能なので物理的な距離の制約を受けることもなく、選手の出身国がアジア、欧州、アフリカなど14ケ国にもわたるSTVVのトークンは全世界で取引されていた。

ビジネスとしての可能性も大いに示してくれた。発売当時1ファントークン2.4ドルで売りに出されたが、一時は20倍もの値をつけて取引されることもあり、マーケットキャップの時価総額で見ると、商圏規模やサポーターの数で大きな差があるイタリアのASローマや、トルコのトラブゾンスポルのようなビッグクラブと肩を並べられている。

裏を返せば純粋なSTVVサポーターの他に、仮想通貨投資家などから純粋な投資対象して購入されているのである。そしてSTVVに縁もゆかりもなかったこれらの投資家が、トークンを購入することで試合や選手をチェックするなどといったポジティブなユーザー行動を見せ、実際チームのSNSフォロワー増加に繋がったのである。

今後は、トークン保有者と企業をダイレクトに繋げる施策にもチャレンジしたいと考える。保有者のイベント参加率が高い点に目をつけて、例えばウェアに掲出する企業ロゴを選ぶイベントを実施すれば、自ずと企業ロゴが目に触れることになるし、チームと一緒に戦っている仲間としてサポーターの認知度は間違いなく上昇していくはずだ。

スポーツチームの収益の多くは、企業からのスポンサーや、試合開催日のチケットやグッズ・飲食収入といった消費的なお金の使い方からのリターンに依存する割合が大きいが、ファントークンは権利を所有するといった投資的なお金の使い方の側面が強い。

消費から投資へ。クラブのブランドや理念に共感いただきクラブの価値が上がればファンもクラブもメリットを享受する。ファントークンがスポーツチームの新たな収益源の柱になる可能性を秘めているといっても、もはや過言ではないだろう。

世界屈指の音楽イベントとのコラボレーション

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二つ目は世界三大音楽フェスの「TOMORROWLAND」(※1)とのグローバルパートナーシップ締結である。2020年にベルギー・アントワープにあるCNRレコード(※2)の社屋にて、ベネルクス三国に本社を置くナショナル企業を招待して「Gate to Japan」と銘打ったイベントを開催。ここでの出会いをきっかけに、DMMはコロナ禍の影響でオンライン開催されたイベント本番の日本国内チケットの独占販売権を取得し、今現在も良好な関係が続いている。

オーナー企業であるDMMのブランドという観点では、ありがたいことに日本国内では一定の知名度を得ることができ、多種多様な会社から新規取引のリクエストなどもいただけるにまで成長してきているが、欧州の地ではまだまだ無名に近い存在である。そのような状況下で「TOMMOROWLAND」の権利を譲渡してもらえたのは奇跡に近く、サッカークラブを保有する企業に対する与信に驚いたものである。

またDMMがSTVVのオーナーになった年から、在日ベルギー王国大使館、ベルギー・フランダース政府貿易投資局の皆様とは連携を取らせていただいており、在ベルギー企業が日本進出を検討したいと貿易投資局に相談が持ち込まれた際に、そのカウンターパートとしてDMMをご紹介いただくなど、単純な資産価値換算だけでは測れないサッカークラブ保有の恩恵を多数いただけている。

人と人をオンラインで繋ぎ、物理的な制約を受けないという共通点を持った2つの施策を一気に推進できたのはクラブのオーナー企業がDMMだった点も少なからず追い風になったはずだ。DMMはゲームや金融商材なども扱う総合エンタメ企業でプラットフォームビジネスを得意としており、両施策の成長イメージが想起しやすかったのである。

DMMとSTVVは表裏一体で、潜在顧客のニーズや課題に合わせて多種多様な手法を用いながらアプローチしていくことを得意とする。欧州は地理的にも日本から遠く、またアジア各国のように今後の人口増加なども見込みづらい地域であるかもしれないが、そもそもオンライン施策であれば物理的な問題は発生せず、ちょっとしたアイデアや工夫で如何様にでもソリューションを構築することは可能だ。

今回紹介した事例からもわかるように「スポーツ×デジタル」を駆使していけば、アウトバウンドや海外進出といった枠組みを超越した取り組みが実施可能であり、サッカークラブというソリューションを存分に活用して、その可能性をさらに追求していきたい。

※1:毎年7月に開催される世界最大級のEDMの祭典。世界中から有名なDJが参加することもあり観覧者は音楽イベントとしては最大規模の40万人にものぼる。チケットは発売後1時間で即完売する。

※2:TOMORROWLANDを主催するベルギーのエンターテインメント企業

matsuoka

◇松岡 昌平(まつおか・しょうへい)

合同会社DMM.com フットボール事業部長

大学卒業後、スポーツ新聞社に入社。カメラマンとして国内外のスポーツ取材を経験。その後、広告代理店に転職。スポーツトーナメントやアスリートのPRイベント運営に携わった後、2015年11月にDMM入社。経営企画室、ライツ管理部などを経てフットボール事業部に異動。セールス業務などを主に担当し現職に至る。


[問い合わせ先]

スポーツ庁「令和3年度スポーツ産業の国際展開促進事業」

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