DMMとSTVVの化学反応が生んだコーポレートブランディング(DMM塩谷雅子)

画像提供=DMM.com

“棚ぼた”ブランディングだったSTVV

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STVV買収前の初期の計画書には、「移籍金」「分配金」「広告収入」「興行収入」等の収益源の記載はあるが、「ブランディング」「ロゴ露出」のような文字は一切ない。DMM.com(DMM)は、あくまでシント=トロイデンVV(STVV)への投資を「事業」と捉え、収益化できるビジネスだと考えたからこそ参入し、挑戦することを決めた。

DMMは規模の大小やジャンルに関係なく未来を感じるビジネスに投資し、事業を創出してきた事業会社だ。単純に「ブランディングに貢献する」、「広告宣伝価値がある」というだけでは、新規事業承認は下りない。

本稿のテーマは「スポーツ産業への投資をどのようにコーポレートブランディングに活かすか」であり、確かにSTVVはDMMにこれまでにないプラスのイメージをもたらしてくれている。だが、それは決して計画的なものではなく、“棚ぼた”的に舞い降りてきたブランディング貢献であったことをまずお伝えしたい。

事業を推進するブランド貢献

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前提として事業収益化ありきではあるものの、「サッカー×DMM」が思いもよらぬブランド貢献をDMMにもたらしたのも事実である。

もっとも大きな影響は、スポーツをきっかけとした門戸の広がりだろう。DMMは成人向けサービスで成長した歴史があり(2018年に成人向け事業は分社化)、その影響で取引先の窓口が開きにくい状況が少なからずあった。また、非上場企業であることから、経済メディアやビジネス媒体へのメディア露出も少なかった。

DMMはSTVVのスポンサー獲得のため数多くの日本企業に営業活動を行っている。「サッカークラブのスポンサー」というスポーツを媒介としたアプローチの効果は絶大で、多くの“ナショナルクライアント”と呼ばれるような企業や、官公庁とのネットワークが広がった。

DMMでは複数領域で複数事業を展開しているため、クライアント1社に対して提案できる幅が広く、窓口が開通することは企業全体にとってプラス要素だ。関係性が希薄な状態から単純なドアノックでドアをこじ開けるのは容易ではないが、「スポーツ」や「サッカー」という魔法のワードの影響は大きかった。

また、STVVのトピックスやニュースを通じて、NHKや日本経済新聞のような媒体への露出も実現した。サッカーの試合や選手に関するストレートニュースはもちろん、「海外サッカークラブでの日本企業の挑戦」というスポーツビジネスの文脈でお取り上げいただくことも多い。スポーツをテーマにしたカンファレンス等への登壇機会も増え、これらの露出を通してDMMを知らなかった層への認知拡大、DMMの新たな一面を知っていただく好機となった。

他にも、2020年冬から断続的に出稿しているDMM初のコーポレートブランドCM「なんでもやってるDMM」では、「DMM、サッカーはじめました」篇を制作。試合映像の権利はリーグ、国内放映権ホルダーと複雑だが、ベルギーリーグではオーナー企業によるブランディング利用は無償の範囲だったことも奏功し、印象的なクリエイティブを実現した。

六本木本社エントランスや来客スペースにSTVVのパネルやポスターを掲出しお客様との会話の糸口にしたり、コロナ禍以前ではあるが従業員のエンゲージメント向上を目的としたSTVV所属日本人選手の来社イベントも開催したりした。

上述のように、STVVはDMMに多方面でブランド効果をもたらしており、期末に行われる社内の事業監査ではブランディング貢献も指標の一つになっている。しかし、どこまでいっても事業は事業なのがDMMであるため、どれだけネットワークが広がろうがメディアに露出しようが、それが事業としての成果につながらなければ評価されることは難しい。

DMMのFootball事業に携わるメンバーはこのことを肌身に感じており、事業を推進するブランド貢献でなければ意味がないという意識は非常に強いと言えるだろう。

企業とクラブはともに成長する共同体

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棚ぼた的に舞い降りてきたブランド貢献であるが、運だけで成果が出たわけではない。

DMMとSTVVは「ここから、世界へ」をスローガンに掲げ、健全なクラブ経営を礎にしたチーム強化と、その先の選手のステップアップを実現するエコシステムを目指しプロジェクトを推進している。終始一貫して「健全なクラブ経営」=「事業として成立すること」というDMMの商魂が宿っているプロジェクトであり、だからこそ、DMMらしいブランディングとなった。

タラレバに過ぎないが、例えばこれがビッククラブや有名選手への投資だったとしても事業の中身がDMMらしくなければ同じリターンは得られなかっただろうし、「日本企業初の欧州1部リーグオーナー」という前人未到の挑戦はまさにDMMの企業イメージとマッチしており、DMMとSTVVが化学反応をおこして生まれたシナジーが、プラスのコーポレートブランドに帰結したと言える。

STVVへの投資を振り返ると、DMMは選手やクラブとともに成長した4年だった。企業のスポーツ産業への投資に対する網羅的な解はないが、投資を一つのプロジェクトとして捉えるならば、「ともに成長できるプロジェクト」であることが最も重要であるように思う。

「プロジェクトとともに成長する」という視点において、欧州のサッカー市場はまだまだ広がりと可能性に満ちている。別稿で欧州の市場規模の大きさとその可能性については述べたが、欧州クラブは通常のリーグ戦以外に、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの出場権がある。放映権料が別途発生するだけでなく、リーグごとにユニフォームスポンサーをわけるなど、収入源を増やすことも可能だ。

これは「欧州×サッカー」に限った話ではなく、他競技、他の地域まで視点を広げれば、未開拓の「スポーツ×企業」の市場は世界中に眠っているだろう。例えば、南米に親和性の高い企業が「南米×サッカー」を市場にした若い才能発掘プロジェクトも可能だろうし、野球やバスケット等の他競技でのプロジェクトもあり得るだろう。

また、今夏の東京2020大会での注目からもわかる通り、五輪新種目には伸びしろがあり、ともに成長するブランドイメージの活用という意味で、検討の余地は大いにありそうだ。重要なのは、企業とともに同じビジョンを描ける競技や地域であるかどうかであり、その視点で参入する競技、地域を検討すべきであろう。

昨今では従来型の知名度を活用するスポンサードでは、投資リターンが見合わないとされることが多い。一方的な支援型の投資では、企業名やロゴの認知を高めることはできても、新しい価値を創出することは難しいからだ。

スポーツが持つブランド力への相乗りではなく、企業がクラブと共同体となって価値を創出し、成長していく形が、これからのスポーツ産業への投資の理想形ではないだろうか。

◇塩谷 雅子(しおや・まさこ)

合同会社DMM.com コーポレート室 コミュニケーション推進グループ マネージャー

元雑誌編集記者。サッカーを中心にスポーツ系メディアに携わった後、日本スポーツ振興センターに転職し国立スポーツ科学センターに勤務。2016年11月DMM.com入社、デザイン本部、ブロックチェーン関連事業を経て、2018年7月よりFootball事業部に異動。STVVの日本広報責任者を務めた後、現職。現在は、DMMのインナーコミュニケーション、ブランド管理に携わる。


[問い合わせ先]

スポーツ庁「令和3年度スポーツ産業の国際展開促進事業」

JSPIN運営事務局:info-jspin-ext@nri.co.jp

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