不動産バブル崩壊の一方で、新興メディアが乱立。中国「14億人市場」のサッカービジネス(Jリーグ 小山恵)

オリパラや中国スーパーリーグの会場でもある北京国家体育場(Beijing National Stadium)。画像=maoyunping / Shutterstock.com

バブルが崩壊した中国のサッカーマーケット

サッカー好きで知られる中国の習近平国家主席。中国政府はワールドカップへの出場、開催、そして優勝という目標を掲げ、国を挙げてサッカー強化策を打ち出してきた。政府は企業に対し、国策としてのサッカー強化への投資を求め、多くの企業がサッカー関連ビジネスへの巨額投資を進めてきた。

ところが、かつて“選手の爆買い”でも有名になった広州FC(旧広州恒大)のオーナー企業である恒大グループは今や債務不履行に陥る事態となっている。ここ数年の間に中国で何があったのか、時系列で整理してみようと思う。

2015~2017年頃の中国は、株式市場も活況で資本が新たな投資先を探していた。そんな中、習近平氏の率いる政府主導のサッカー強化国策化の動きもあり、多くの投資マネーがスポーツ、サッカーに集まった。スポーツコンテンツによってトラフィックを集め、そのビッグデータを活用して収益化するというビジネスモデルに、多くの投資家が賛同した。

その結果として、中国内のスポーツ、特にサッカーでは放映権料の急激な高騰が起きた。2015年まで年間30億円に満たなかった中国スーパーリーグの放映権料が、2016年からの契約で年間200億円を超える金額に跳ね上がった。

また、蘇寧グループが持つデジタル配信事業社PPTVは、2019年からの英プレミアリーグの放映権を、前回契約の10倍以上にあたる年間200億円以上で獲得した。

更にこの時期、中国資本による欧州サッカークラブの買収も相次いでいた。2016年に蘇寧グループが伊インテル・ミランを買収、2017年には中国の投資グループが伊ACミランを買収した。

規制強化の動きが広がる

2018年~2019年頃には、中国資本市場の規制強化が始まり、これまでに採算度外視で投資を続けてきたサッカー関連ビジネスの中にも、経営難に直面するところが増えつつあった。世界中のサッカーコンテンツを買いあさっていたPPTVも赤字幅が広がるばかりで黒字化は見えなかった。

2020年に入り、新型コロナウィルスによるパンデミックが発生し、当然中国経済にも大きな打撃を与えた。より短期的な収益確保が優先されるようになり、黒字化の見込めなかったスポーツ・サッカー関連ビジネスは市場から見放されることに。

蘇寧グループも本業に大きな打撃を受け、傘下のPPTVは英プレミアリーグを始めとする欧州サッカーコンテンツに支払うべき莫大な権利料の支払いを滞納。各リーグとの契約を打ち切られ、訴訟にも発展。蘇寧の保有する江蘇FCは2020年に中国スーパーリーグで優勝するも、莫大な債務を抱えてそのままクラブが解散するという前代未聞の事態となった。

加熱し過ぎた不動産バブルの状況を受け、中国政府が引き締めに動いたことによって、先述の恒大グループのように債務不履行に陥る不動産オーナーは更に増えるだろう。中国のサッカークラブのオーナーの多くが不動産関連であることを考えると、破綻・解散するようなチームは多数に上る可能性もある。

中国におけるJリーグの存在感

Jリーグのアジア戦略では、主に東南アジアを主要マーケットとして捉えているが、中国市場も当然無視できない。様々な調査を実施する中でも、中国におけるJリーグの認知度は非常に高い。

これはAFCチャンピオンズリーグや代表戦などで、頻繁に中国のチームと日本のチームが対戦することが多く、当然それらの試合は中国内でも放送・配信されるため、中国のサッカーファンにとって日本のチームはある種のライバルとして捉えられ、Jリーグの認知が高まっているからだ。

現在、中国においてJリーグはK-BALLというデジタルプラットフォームにて、明治安田生命J1リーグ・J2リーグの全試合が生配信されている。J2リーグの試合までもが定期的に放送・配信されているのは、日本を除くと実は中国のみである。

これまでバブル真っ只中にあった中国サッカー界は、選手への報酬も急激に高騰していた。多くの有名外国籍選手が高額で中国クラブに引き抜かれていた事実はよく知られているが、国内リーグでプレーする中国人選手の報酬も法外に高かった事実があった。ゆえに中国人のトップ選手がJリーグでプレーするようなことは皆無であった。

ところが先述のように中国内のバブルがはじけ、中国スーパーリーグは緊縮体制に向かっている中で、複数のクラブ経営が立ちいかなくなっている状況を考えると、今後は選手への報酬の大幅減額・解雇などが予想されると思う。そうなると優秀な選手(中国籍、外国籍)がJリーグに活躍の場を移すという可能性も否定できず、中国からJリーグへの注目が更に集まるということも考えられる。

Jクラブを株主・スポンサーとして支える大手日本企業の多くが中国市場でも事業展開をしており、中国でJリーグのプレゼンスが向上すれば、そうした日本企業への価値を還元することができ、中国でもJリーグ・クラブを活用いただける可能性がある。

中国で台頭する新興メディアプラットフォーム

Douyin(中国版TikTok)をはじめ様々なメディアがスポーツコンテンツに熱視線を送る。画像=Ascannio / Shutterstock.com

蘇寧傘下のPPTVの事実上の破綻に伴い、混迷を極めていた中国のスポーツメディアライツ市場であるが、既に新たなプレーヤーの台頭も見えつつある。

国営企業であり中国No.1のシェアを持つ通信事業社チャイナモバイルは、Migu Videoという動画配信サービスを展開し、スポーツライツへの投資を強化している。2021年に開催された東京オリンピックのデジタル配信も実施し、オリンピック級の国際スポーツイベントを大規模にデジタル配信するという、中国では初の事例となった。

Migu Videoは英プレミアリーグを始めとする欧州サッカーの放映権だけでなく、NBAの権利をも獲得し巨大なプラットフォームになっている。5G時代到来の中、強力なスポーツコンテンツを買い集めた中国最大の通信事業社が、その投資をどう回収してゆけるのか、非常に注目が集まっている。

Migu Video以外にも、バイドゥ(百度)・アリババ(阿里巴巴)・テンセント(騰訊)などの中国を代表するIT企業(頭文字をとってBATとも呼ばれる)も自社傘下にて動画配信サービスを展開し、スポーツのライブ配信に力を入れ始めている。

ネットサーチエンジン最大手のバイドゥはiQIYI Sportsを展開し、2021/22シーズンからの英プレミアリーグの権利を獲得。アリババは中国版YouTubeとも言われる動画配信サービスYOUKUを持ち、2018年のFIFAワールドカップのデジタル配信も実施した。中国最大のSNSであるWeChatを運営するテンセントは、Tencent Videoという動画配信サービスを展開。NBAを始めとする北米スポーツに注力して配信を続けている。

さらに最近は、Douyin(中国版Tik Tok)やKuaishouといった縦型ショート動画プラットフォーマーたちも、伸びが鈍化しているトラフィックのテコ入れを目的にスポーツライツへの投資をトライアル的に始めている。

さらに面白いことに、テンセント傘下のゲーム配信プラットフォームであるHuya、日本のニコニコ動画に似たBilibiliなどもこのスポーツライツ市場への参入し始めている。ライツホルダー側も、どこかに独占で権利を付与するというよりは、非独占で複数のプラットフォーマーと組んで放送・配信するという傾向が最近見られる。

14億人もの人口を抱える中国の市場ポテンシャルは巨大であるという前提であるが、市況のアップダウンがドラスティックであり、次から次へと新たなプレーヤーが生まれ乱立しているこの市場においては、1社と長期コミットするよりは、柔軟に複数のパートナーを持つという戦略が有効なのかもしれない。

中国でのカンファレンス・展示会

ご存知の通り、新型コロナウィルスのパンデミック以降、中国は徹底したリスク管理を行っているため、大規模なカンファレンスや展示会のリアルでの開催は難しくなっている。

それでも、コロナ前には複数の国際スポーツカンファレンス・展示会が中国でも開催され、中国地場のスポーツ関連企業・メディア関連企業等、中国市場を狙う世界からのスポーツ関連企業・団体が一堂に会していた。

中国においては、市場の流れ・浮き沈みのスピードが非常に早くダイナミックであること、また、ローカルのプレーヤーの移り変わりも激しいという特徴があるため、現地で開催されるカンファレンス・展示会などに頻繁に顔を出し、常にネットワークをアップデートしていくことが重要であると思う。

Leaders

英国発で、グローバルなスポーツ界でのリーダーを集めてカンファレンス・ネットワーキングイベントを開催。世界中からスポーツ団体、関連企業、メディア、放送事業社、代理店などが参加している。

もともとロンドンやニューヨークでのイベント開催が多かったが、2017年、2018年には北京で、2019年には上海でもThe Sport Business Summitという名前でイベント開催しており、私も2018年に北京で参加した。

当然ながら中国市場を主に意識したイベントであるため、中国市場の開拓に積極的な欧州サッカーリーグ・クラブ、北米スポーツリーグのCクラス幹部の多くが足を運び、スピーカーとしても登壇してPRに勤しんでいた。ローカル側からは、BATに代表されるようなインターネット起業、メディア会社、投資家、代理店など幅広い分野の参加者が集まり、インターナショナルなスポーツプロパティとのネットワーキングに熱心であった。

残念ながら日本からの参加者はほとんど見かけることは無かったが、コロナ収束後にイベントが再開されるようであれば、日本のスポーツ関連企業・団体にとっても現地の主要プレーヤーとのネットワーキングの場としては有効だと思う。

https://leadersinsport.com/

SOCCEREX CHINA

よりサッカービジネスに特化した国際カンファレンス・展示会イベントであるSOCCEREXもコロナ前には2018年に中国・珠海で、2019年には中国・海南省で開催されていた。中国でのサッカービジネスに関わる、ライツホルダー、スポンサー企業、メディア、代理店、テクノロジー企業、eSports関連企業などが1,000人規模で集まり、ネットワーキングや知見の共有を行う。

2019年のカンファレンスのトピックスは、中国サッカーの商業化、海外サッカーリーグ・クラブと中国市場の繋がり、eスポーツを含むデジタルでのファンエンゲージメント強化、ユース選手の育成とそのテクノロジーの進化などとなっていた。

中国のサッカー界や中国市場に根を張って活動を続ける欧州サッカーリーグ・クラブに対して、製品・サービス・ソリューションを提供できるような日本のスポーツ関連企業・団体にとっては、良いネットワーキングの場になるかもしれない。

https://www.soccerex.com/

Jリーグとしても、すぐ隣にある14億人の巨大市場は当然魅力的に感じている。中国でファンベースを増やしていくには、中国オリジナルのプラットフォーム(SNSや動画配信サービス)を使いこなし、移り変わりの早い中国ローカルの主力プレーヤー(配信事業社や代理店など)との関係構築を進め、常に情報をアップデートしていくことが重要である。

コロナ禍で日本のスポーツ界でも新たな収益化機会として話題になった、ライブ配信での投げ銭(ギフティング)機能も、中国では数年前から当然のようにスポーツ界でも活用されていた。最近では中国で、「ショッピング」と「ライブ配信動画」を掛け合わせたライブコマース市場が急速に拡大しており、スポーツ界にも波及している。この流れは、今後日本のスポーツ界にも到来する予感がしており、その動向には注視していきたい。

◇小山 恵(こやま・けい)

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 海外事業部 グローバルビジネス担当オフィサー

商社にて東アジア・東南アジアのマーケットを中心にセールス、マーケティング活動に従事。2012年に株式会社Jリーグメディアプロモーション入社、Jリーグのアジア戦略室立ち上げメンバーとして参画。現在、Jリーグの国際展開・アジア戦略を手掛ける。


[問い合わせ先]

スポーツ庁「令和3年度スポーツ産業の国際展開促進事業」

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