【福田拓哉#2】世界をリードするBリーグのデータ・権益統合システムとは何か? 

崩壊寸前の危機的状況から、劇的なV字回復へ。日本のバスケットボール界は、世界的にも珍しい成功モデルとなった。その転機となったBリーグは、何を断行し、どこを変えたのか。躍進を支え続ける、日本初の新たなアーキテクチャを検証する。

前回コラム:【福田拓哉#1】Bリーグ誕生と躍進を支えた「ビジネスアーキテクチャ」

権益統合で乗り越える組織のキワ

世界のスポーツビジネスを概観すると、協会・リーグ・クラブといった各組織は利害が対立し合うことが多い。公式戦のアメリカ開催に関して対立するスペインサッカー協会とラ・リーガ、従来の春秋制か欧州型の秋春制かというリーグ戦期間で対立した日本サッカー協会とJリーグ、クラブワールドカップ参加チーム数に関して対立するFIFAと欧州クラブの例などは象徴的だ。

また、スポンサーに対する営業や権利の付与、協会やリーグが持つ各種権利の管理やその許諾、各種システムの構築・維持・管理などについては、相互の業務が重複する点が多く、この効率化も問題となっている。

しかし、日本バスケットボール界は、「組織のキワ」で発生しがちなこうした問題を起こりにくくする体制を構築している。それを理解するためのキーワードが「権益統合」だ。これはBリーグのビジネスアーキテクチャを語る上で最も重要な概念と仕組みになっている。

いくつか重要な取り組みがあるが、一例として、「リーグ統合型データベース」を挙げたい。これは、協会の選手登録者データベースと、リーグが管理する各クラブのファンデータベースを1つにしたものであり、それぞれの管理や情報発信だけでなく、相互のアプローチを想定している点が特徴だ。

例えば、競技者へBリーグ観戦を案内したり、Bリーグ観戦者に競技環境を紹介するものである。つまり、協会管轄の「プレーする者」と、リーグ管轄の「プレーをみる者」の橋渡しを1つのシステムで行う取り組みだ。新たなDMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)[1]の採用は、実は世界的にも極めて先進的なのである。

関連事業会社化とそのメリット

B League
表=葦原一正『稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである』を基に編集部作成

Bリーグでは、統合型データベース以外でも、組織間連携の体制づくりが進められている。関連会社のB.MARKETINGは、協会とリーグが保有する放送権や商品化権などの各種権利を一括で管理・販売する。

また、新たに設立されたバスケットボール・コーポレーション(B.CORP)はJBA、Bリーグ(B1、B2)、一般社団法人ジャパン・バスケットボールリーグ(B3)、そしてB.MARKETINGの人材交流・人材育成・人材登用などを一手に引き受けている。

では、こうした権益統合によって、どのようなビジネス上のメリットが得られるのだろうか。私は主に下記で示す5つの効果があると考えている。

(1)重複業務の解消

各クラブのウェブサイトのメインデザイン設計、リーグとクラブの権利販売営業、人材募集・採用・教育・転職支援などを一本化できる。

(2)コスト圧縮

上記によって各組織が個別にそれぞれを実施するよりも時間・費用・労力が大幅に削減される。

(3)買い手に対する交渉力向上

協会とリーグがそれぞれの権益を合わせ、外部にセット販売することで価格を高めることができる。また、協会とリーグが合同で交渉や契約を行うことで、購入先から有利な条件を引き出すことも可能となる。例えば、協会・リーグが主催する大会の放送権やスポンサーシップの高額化、用具用品代や旅費・宿泊費、宣伝費等の割引などがある。

(4)迅速な顧客対応

協会・リーグ・クラブ・選手が持つ権利を一括化することで、それらを利用したい顧客の要望にワンストップで対応することが可能になる。これらの管理が個々に及ぶと、利用者はその全てに利用申請を出し、許諾を求め、利用方法の確認を行い、支払いの方法や金額を調整・確認する手間が発生する。

(5)情報共有の円滑化

営業先の反応、効果的な人材募集・育成、クラブの成功事例等、内外の評判・課題・成果等に関する情報の集約が比較的容易になり、横展開しやすくなる。これらが事例集的に蓄積されることで、各組織が「次の一手」を考える際の情報が引き出しやすくなる。

これに加え、JBAとBリーグはともに公益財団法人であるため、その制約を乗り越えるために、双方の権利ビジネスを専門に展開する株式会社を別に持つことは理にかなっている。

このような協会・リーグ・クラブの権益統合を具現化する共通のビジネス基盤は、日本のプロスポーツ界では、Bリーグを中心とするバスケットボール界が最も強固である。ただし皮肉なことに、現在は消滅したBリーグ以前のバスケットボール2リーグを除き、日本国内では権益統合が進まないプロリーグ(プロ野球、Jリーグ)の方が人気・ビジネス規模で上位にあるのも事実だ。

しかし、今後の発展を考えると、協会・リーグ・クラブが一体となっているBリーグのアーキテクチャに期待せざるをえない。何より、新たな「キワ」のデザインが、Bリーグがこの3年で示した短期的な成功要因となったことは間違いない。

次回は、Bリーグの今後の成長に向けた、課題と機会を探りたいと思う。

◇参照

1. B.LEAGUE「男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」が考える競技人口・ファン拡大について」(2015年11月)


▶︎九州産業大学 福田拓哉准教授が解説する「Bリーグのアーキテクチャ」連載一覧は〈こちら