スポーツ業界のフロントランナーに選書をいただく本企画。今回は、今年2年目となるスポーツビジネスサミットを、北海道、欧州、九州と次々と展開した一方、バレーボール・Vリーグのヴォレアス北海道の社外取締役にも新たに就任し、アカデミックの立場からスポーツビジネスを支援し続ける、九州産業大学准教授の福田拓哉氏。2020年に向けて、スポーツビジネスパーソンが読むべき3冊を挙げてもらった。
『CHANGE 僕たちは変われる 日本フェンシング協会が実行した変革のための25のアイデア』
革新的な施策を成功させ、その存在価値を高め続けている日本フェンシング協会。ネガティブニュースが数多く報道された我が国のアマチュアスポーツ界において、まさに稀有な存在であり、学ぶべき対象と言えます。
本書はその改革をリードする太田雄貴会長のリーダーシップと、それを具現化する仕組みについて書かれたものです。「太田雄貴」という人間の戦略的思考と、それを支える組織や外部資源との関係が整理されており、多くの報道で目にする特徴的活動の狙い・背景・成果を構造的に理解できる内容になっています。
厳しい環境で、あるべき未来を見据え、過去を適切に分析し、その結果を今どう活かすのか―。決してメジャーとは言えない競技団体の急成長を牽引した五輪銀メダリストでもある筆者の観察力、決断力、集中力、巻き込み力は、多くのスポーツ組織をはじめ、根本的な改革が求められる組織にとって多くのヒントとなるでしょう。
『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』
経営危機に瀕していたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字回復させ、その後の最多来場者記録更新の礎を作られたお二人による「数学マーケティング」の理論と実例書。ビジネスにおける統計の重要性と、その威力を理解できる一冊です。
統計は過去と向き合うことで未来を予測する便利なツールであり、その使い方と論理的背景を押さえておくことは、あらゆる分野で今後の共通言語になっていきます。そのため、統計的な素養を持った人材を育成・獲得することや、そうした人材が活躍できる組織を構築することが重要です。この本の特徴は、「数学マーケティング」の使い方と効果、理論だけでなく、そうした組織のあり方に言及しているところでしょう。
また、消費者や組織人の感情や感覚といった「質的データ」の価値や使い方にも言及しており、一見対立する2つのデータを如何に融合させるかという点の重要性に触れられるのも魅力の一つです。
『FCバルセロナ 常勝の組織学』
我々は「組織として何をすべきか?」という「やり方」に着目する傾向がありますが、この本はFCバルセロナを題材に、「組織のあり方」とその作り方を解説しています。組織の根幹となる理念や文化の作り方、それが果たす効果、組織への浸透の仕方などが日々のニュースでよく見聞きする、世界的クラブの事例を通じて学べるので理解しやすくなっています。
英マンチェスター・メトロポリタン大学で組織心理学を研究する教授が書いていることもあり、事例の理論的背景の説明やリファレンスがしっかりしている点もおすすめです。スポーツを通じて組織論を学びたい方、論文を書きたい大学院生などに丁度いい一冊だと思います。
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この3冊を読むと、リーダーシップやデータ分析のあり方や効果だけでなく、それらを有効に機能させるための組織についても学べます。これらが有機的に結合したとき、日本のスポーツビジネスはより上位のレベルに到達できるはずです。それを実現する人材を目指す方は、是非読んでみてほしいと思います。
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