メルカリ・鹿島 クラブ買収の原理(3)クラブの未来を握る、買収後のステップとは

7月30日に発表されたメルカリによる鹿島アントラーズの経営権取得の一報は、スポーツ界のみならず世間でも驚きをもって迎えられた。しかしクラブが株式会社により運営されていれば、それは一般的な企業買収に他ならない。非上場株式を扱うプライベート・エクイティ(PE)ファンドの専門家でありプロスポーツ経営にも詳しい山田聡氏が、企業買収の原理原則とクラブ買収のポイントについて3回にわたって解説する。

前回コラム:メルカリ・鹿島 クラブ買収の原理(2)「16億」の根拠と、価値算定以外にも重要なポイント

買収後のプロセス 鍵になるPMI

第二回は、買収プロセスにおける価格算定と価格以外の条件を紹介したが、今回は最も気になる今後の道筋について解説していきたい。

ニュースとして価値が出て、世間的に盛り上がるのは買収発表の段階であるが、実際にその買収によって対象事業や買い手の本業に好影響があるかどうかは、その後のPMI(Post Merger Integration/買収後統合プロセス)次第といっても過言ではない。今回の場合、鹿島アントラーズというクラブ、そしてメルカリの本業であるフリマ事業へのインパクトと言える。

例えばPMIのプロフェッショナルであるプライベート・エクイティ(PE)ファンドでは、通常、買収後に「100日プラン」や「180日プラン」と銘打って、企業変革の為のアクションを矢継ぎ早に打っていく。これは買収によって買収先の社員やその他の関係者に変革の機運が高まる中、「鉄は熱いうちに打つ」ことで大きな変革の効果が生み出せるという経験則からくる背景がある。

鹿島アントラーズの経営権を取得したメルカリ。今後の方針が注目される。写真=メルカリ

新株主である買い手が支援を行う具体的な領域としては、通常、次の3つの側面があげられる。

  • 事業面:事業戦略や注力すべき領域の明確化、新株主からの事業上の支援
  • 組織面:新株主からの出向や採用支援、組織の変更による経営力強化
  • 資本面:大きな投資等の必要資金の提供

そして新株主の支援も得ながら、PMIでは次のような具体的なアクションを実施していく。

  • 会社としてのビジョン、ミッション、バリューや会社戦略の再定義
  • 組織強化(新たな外部経営人材の登用や経営目標と合致した報酬スキームの導入等も含む)
  • 中期経営計画の策定(上記のシナジー等も織り込まれる)
  • 事業戦略の見直しや実行計画の策定(大胆な投資やM&Aの実施も含む)

現在メルカリにおいても、鹿島アントラーズの経営改革への個別アクションが、PMIとしてまさに実行されているところと想像する。どういった大胆なアクションが出てくるか、今から楽しみである。

買収企業の将来 鹿島アントラーズの価値向上へ

最終的に買収がうまくいったかどうかの評価は、どのようになされるのだろうか?実は企業買収において、買い手が投資を回収する方法は実は3種類しかない。

  1. 買収先からの配当等での現金回収
  2. 事業シナジーによる本業での利益増加
  3. 対象事業の売却によるキャピタルゲイン(売却による売買差益)

今回の例で言うと、①を増加させるためにはそもそもアントラーズの利益を飛躍的に増加させ配当できる原資を作っていく必要がある。②のメルカリ本業での事業シナジーを増やしていく為には、アントラーズ自体がどんどんと新しいファンを獲得することで、メルカリの本業への送客のソースを確保していくことが前提条件となる。これにより、メルカリの新規顧客の獲得などにつながれば、利益増加が見込めてくる。

③についても経営が順調で売上・利益を増加させながら、クラブが強くなるように選手やスタッフ等に投資できている状態でないと、次のオーナーに高値で売却することはできないだろう。裏を返すと、例えば鹿島アントラーズがACL等でも常勝チームになれば、次の買い手にとってのオーナーシップ・プレミアムも高くなり、売却時のキャピタルゲインも得やすくなる。

ACLで戦う鹿島アントラーズ。強化と経営の両輪での飛躍が期待される。画像=mooinblack / Shutterstock.com

結局のところ、どの投資回収手段を取るにしても、鹿島アントラーズ事業自体の売上・利益の増加とチーム力強化への投資が必須条件であり、これをどこまでメルカリが今までに増して実現していけるかということに尽きる。

今後、メルカリが鹿島アントラーズの経営をどのように支援し、企業価値の向上を達成していけるのか、投資家の目線でもファンの目線でも今から楽しみである。そして、結果が上手くいくことで、スポーツ業界全体のオーナーシップの流動化に対する理解が進むことを期待している。

メルカリによる新体制の発表は今月末の予定。楽しみに待つことにしたい。

 
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