世界のトッププロからアマチュア選手、そして愛好家にまで広く親しまれているテニスブランドにDUNLOPがある。一昨年に誕生100周年を迎えたブランドは、同年、研究開発施設の「テニス科学センター」を兵庫県丹波市に新たに構え、さらに開発力を磨こうとしている。
すでに世界で指折りのテニスブランドにとって、なぜ今、研究開発施設が必要なのか?そして、今後の一層のグローバル展開に向けてどのような役割を担うのか?住友ゴム工業株式会社のキーパーソンを訪ねた。(初出=JSPIN)
テニス専用の研究開発施設が新たにオープン
テニスとゴルフを中心に展開する住友ゴム工業のスポーツ事業。その研究開発施設であるスポーツ総合開発センターは、兵庫県丹波市のJR市島駅から車で5分ほどの山あいに存在する。1994年にゴルフ科学センターが開設され、その隣にあるゴルフボールの生産を行う市島工場は1996年に操業を開始。同じ敷地に、一昨年、テニス科学センターが誕生した。
試打のためのテニスコートには、国際大会基準を満たす同じく住友ゴム製のデコターフを敷設しているほか、特注のスイングマシンや弾道測定器などが整備されている。実際にマシンがボールを打ち込むテストを見させてもらうと、ボールの速度、スピン、飛距離などが数値化されているのが分かった。スピン量など選手たちの感覚的な部分を数値化し、試作品のラケットでテストを繰り返し行なっている。
住友ゴム工業 商品開発部スポーツ実験グループでテニスのデータ計測手法を管轄する島根佑太氏が説明する。
「トッププロからアマチュアまで打球のデータを元に、スイングマシンで幅広いプレーヤーの打球を再現できます。また、開発したラケットの性能を2~3週間かけて評価していたのが2〜3日で評価できるようになりました」(島根氏)
テニスボールで培った評判をラケットに展開
DUNLOPのテニスボールはトッププロの世界でも評判が高い。四大大会の一つ全豪オープンとのオフィシャルスポンサー契約(2018年)、ATP(男子プロテニス協会)とのグローバルパートナーシップ契約(2019年)締結により、70近いATPツアー大会での公式球使用率は2019年の23%から2023年には44%まで拡大し、5年連続でシェアNo.1となった。「一貫性のある高品質なボール」への信頼は厚い。
「テニスはブランドの遍歴が複雑だったこともあり、これまではなかなかまとまった投資ができていませんでした。しかし2017年に住友ゴム工業が海外の“DUNLOP”商標権を買い取り、スポーツ事業では世界展開ができるようになったのです。“DUNLOP”というブランドを背負ってテニス界を盛り上げ、ブランドを世界へ広げていくために、現在では積極的に投資をしています」(島根氏)
現在、主力の製品ラインナップはボールだけでなくラケットにも広げている。住友ゴム工業でテニスビジネスのグローバルマーケティング&プロツアーを統括する鈴掛彰悟氏はこう説明する。
「ビジネス観点でもブランディング観点でも、多くの人の目に止まるラケットは大事です。そして、プレーヤーがどうしたらラケットを欲しくなるのかと考えると、トップ選手に使われているということが重要になってきます」(鈴掛氏)
従来、DUNLOPは他社に比べてラケットの契約選手の数が少ない傾向にあった。ウイルソン、ヘッド、バボラ、ヨネックスなどが使われる中、男子プロツアーのATPランキングトップ100の中でDUNLOPのラケットを使用する選手が「ゼロ」という時代もあった。
では、ラケットを使ってくれる選手を増やすためには何をすればいいのか? 情報収集を進めると「多忙を極めるツアー日程の中、束の間のオフの時間で選手にあったラケットを提供すること」の必要性に辿り着いた。それを実現できると、競合優位性になってくる。
トッププロの年間スケジュールは過密で、男子では、ATPツアーファイナルが11月中旬に終わると、年末から全豪オープンの前哨戦がスタートし、1月には全豪オープンが始まる。選手は世界中を転戦する中、「時間」は非常に重要なファクターになる。
「選手にとって、どれだけスピード感を持って良いものを提供できるかが重要になる。その理由から、市島のスポーツ総合開発センターに“テニス科学センター”をつくるという話が3年ほど前から始まりました」(鈴掛氏)
テニス科学センターがもたらした「成果」
テニス科学センターでは、アマチュアからプロまで様々なプレーヤーが訪れ、ラケットの打ちやすさ、コントロールのしやすさなどを総合的に測定し、解析・評価が行われている。
「テニス科学センターは、格段に時間軸の改善につながってきています」と鈴掛氏。世界でDUNLOPの存在感を高めてきたテニスボールと共に、今後ラケットという製品カテゴリーにも大きな期待がかかる。
現在では、ATP男子シングルスのランキングトップ100のうち4選手がDUNLOPのラケットを使用している。昨年全米オープンでベスト4に入り、ATPツアー大会での初優勝を含む2回の優勝を飾った注目の若手選手、ジャック・ドレイパー(イギリス)もその中のひとりだ。
また、DUNLOPはIMGアカデミー(米国)やムラトグルー・テニスアカデミー(フランス)といった一流のジュニア育成施設ともオフィシャルスポンサー契約を結ぶ。
選手は幼少期から慣れ親しんだ用具を変えたくないという思考が強いため、DUNLOPはジュニア世代にもアプローチし、プロまでの道のりを共に歩んでいる。彼ら、彼女らがトップ選手として活躍していければDUNLOPにとっては一般消費者の間で認知度がさらに上がり、店頭販売での売り上げにもつながることとなる。
このようにジュニア選手とも一緒に上を目指していくためにトップ選手やコーチからアドバイスを受け、長期的な視野で商品開発を行なっている。テニスプレーヤーとのコミュニケーションを大切にし、真摯に向き合い続ける。選手たちのニーズをすぐに商品開発へと落とし込む場所としても重要な役割を担っているのが、テニス科学センターというわけだ。
高度で柔軟性の高い製品開発、そしてトッププロとの契約からのジュニア、アマチュアへの広がり。DUNLOPテニスのグローバル展開は、これからますます進んでいく。
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