今年5月、東京で2年目となるABB FIA フォーミュラE世界選手権が開催。それに先立ち、参戦チームのスポンサーの一社である長瀬産業と、レース開催地の東京でまちづくりを手掛ける三井不動産が共催したイベントが、「東京ミッドタウン日比谷 サステナビリティ・ウィークエンド powered by NAGASE」だ。
フォーミュラEの実車展示やシミュレーター体験、トークショーやシンポジウムなどに2日間で4万人以上が来場し、大きな成功を収めた。このアクティベーションへの取り組みについて、コミュニケーションデザインカンパニーのSplat Inc.が解説する。(文=Splat Inc.)(初出=JSPIN)
地球のために創られた新たなモータースポーツ
「フォーミュラEは、世界が新たなレースシリーズを必要としたからではなく、地球のために創られた。」この言葉は、フォーミュラEのサステナビリティ責任者Julia Pallé氏が語ったものだ。
世界のCO₂排出量の約4分の1を占める交通分野の脱炭素化が急務となる中、フォーミュラEは2014年に誕生した世界初の電気自動車による世界最高峰のレースシリーズであり、技術革新と環境意識を融合した、次世代型のスポーツプラットフォーム(枠組み)である。
フォーミュラEが掲げるビジョンは「電動レースの力で、持続可能な人類の進歩を加速させる」。このビジョンのもと、競技性とサステナビリティを両立させる仕組みを構築している。フォーミュラEの特徴は以下の点にある。
- 開催当初からネット・ゼロ・カーボンを達成:2014年の創設以来、ネット・ゼロ・カーボンに認定されている
- 都市中心部でのレース開催:人々の日常生活の中に環境意識を呼び起こしている
- 技術移転の促進:レースで得た知見を市販車開発に反映
- 包括的な環境・社会的取り組み:ISO・FIA環境認証の取得、ESG報告、女性参画や地域連携など
フォーミュラEは単なるモータースポーツの枠を超え、「移動の未来」を先取りする実験場であり、企業や社会がサステナブルな価値を共有・発信するためのプラットフォームとしての役割を担っている。
フォーミュラEは単なるモータースポーツではなく、サステナビリティがその中心にあります。フォーミュラEがレースで培う技術や知見は、都市の交通、企業の活動、人々の意識にまで波及するものです」(Julia Pallé氏)
長瀬産業と三井不動産、異業種2社の共創
2025年5月、そのフォーミュラEの東京開催2年目を迎えるタイミングで、日本企業が主導する新たなコラボレーションが東京ミッドタウン日比谷で実現した。
今回の「東京ミッドタウン日比谷 サステナビィティ・ウィークエンド Powered by NAGASE」では、化学系専門商社でサステナビリティ活動のグローバルな発信とブランドプレゼンスを高めたい長瀬産業と、不動産業者で森づくりや木の利活用を通じて社会課題の解決と事業成長を両立させる三井不動産との異なる領域で活動する2社が、サステナビリティへの共通の想いを軸にタッグを組み、フォーミュラEという国際的文脈のもとで共創の場をつくり上げた。
この取り組みは、単なるコラボレーションにとどまらず、両社がそれぞれのの目的を実現しながら、その姿勢を「世界に向けて発信」するためのアクティベーションでもある。長瀬産業はアンドレッティ・フォーミュラEチームへの協賛を通じて、企業の価値観や志をグローバルに伝える挑戦に踏み出し、三井不動産は都市と自然の共生をテーマに掲げて共創を牽引している。
こうした動きが立ち上がったのが、文化と歴史の交差点である東京・日比谷だった。多くの人が行き交うこの場で、未来に向けた新たなストーリーが静かに、そして確かに走り出している。
なぜ今、フォーミュラEを活用するのか?
実際、フォーミュラEは創設当初からネットゼロカーボンの認証を取得しており、都市の中心部でレースを開催することで、人々の日常生活の中に環境意識を呼び起こしている。その取り組みはISOやFIA環境認証の取得、ESG報告、女性参画や地域連携など、多層的に構成されている。
加えて、参加各チームはレースで得た知見を自社のEV開発に反映させている。たとえばStellantisはレースから市販車への技術移転期間を4年と公言しており、NissanもLEAFのバッテリー性能を181%向上させたと報告している。フォーミュラEは“移動の未来”を先取りする実験場であり、同時に、社会や企業がサステナブルな価値を共有し、発信するためのストーリーテリング(物語を通じた共感づくり)のメディアでもあるのだ。
こうした国際的に評価される文脈に、日本企業がどう向き合うかが今問われている。
日本国内でのフォーミュラEの認知度は依然として限定的である一方、NissanやLola Yamaha ABTといった日本企業の存在は、同シリーズへの関心と投資が着実に高まりつつあることを示している。国内でのフォーミュラE認知度がまだ限定的だからこそ、「伝える側に立つ」価値は大きい。
持続可能性とイノベーションをどう語り、どう実装するか。それは、日本企業が世界と対話するうえで、これからますます重要なテーマになっていくだろう。
<後編へ続く>
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