【ABeam Sportsコラム#4】スポンサー営業の「課題解決型」アプローチ(後編):スポンサーメニュー提案の考え方

前回のコラムでは“多様化する資金調達方法への対応”として、課題解決型営業における確度の高い営業ターゲット選定・アポイントを成功させる方法を紹介した。今回は後編として、提案の進め方を考察する。【第4回】(文=アビームコンサルティング マネージャー 澤井 一人)

前回の振り返り

前回のコラムでは、課題解決型営業を踏まえた確度の高い営業先のターゲティング・アポイント方法について下記のポイントをお伝えした。

  • ターゲティング:コンテンツホルダーが持つアセットの整理および、強みを抽出した上で、どのようなことを営業先に提供できるのかを考えた上でターゲティングする
  • アポイント:営業先のIR情報や業界トレンドの調査を通して、営業先が抱える経営上の課題を抽出し、提案方向性を定めた上で適切な部署に連絡をする

アポイントをとって初回提案を行い、営業先が前向きにスポンサー契約を協議することになれば、次回提案=詳細提案に進んでいくことになる。本コラムでは、初回提案や詳細提案時にどのような提案を行えばよいのか、その方法について説明する。

初回提案における提案内容の考え方

アポイント後、初回提案前の段階では、営業スタッフは汎用のセールスシート(ユニフォームや看板へのロゴの掲出権利や招待チケットなど)を用いて初回提案をすることが多いように思える。

しかし、汎用のセールスシートでは、露出(認知度向上)以外のメリットを伝えることができないため、面談の相手が広告宣伝担当で、初回提案の時点でその必要性を感じていなければ、その後の進展は見込めない。

提案に魅力と説得力を持たせるためには、コンテンツホルダーをビジネス上どのように活用できるのかをイメージできるような提案をすることが必要となる。そして、そのためには「なぜその提案が有効なのか」という理由が必要であり、営業先が抱える課題の仮説を考えることが重要となる。

しかし、初回提案の前段階では、相手のことはよく分からない状態である。その状態で営業先の課題仮説をどのように検討すればよいのだろうか。

1)課題仮説の検討アプローチ

我々は、アポイント獲得後に再度営業先のIR情報(株主・投資家向け情報)を精緻に調査することから始める。特に上場企業の場合は、中期経営計画に会社が目指す方向性や経営上強化したいポイントなどが示されている。それらの情報を踏まえて、営業先が抱える経営上の課題を抽出していく。

その際、初回提案で面談する相手の立場を勘案することが重要である。

面談相手が総務、経営企画、広報などの場合、全社視点に関連する「ブランディング」、「採用・リテンション」、「社会貢献」に関わる課題を抽出するのが、 提案を行う上では効果的である。

一方、面談相手が開発、営業企画、マーケティングなどの場合、事業視点に関連する「R&D」、「プロモーション」、「セールス」に関わる課題の抽出が効果的となる。その際、事業視点の課題のみに焦点を当てて課題仮説を検討するのではなく、営業先の経営計画で取り上げられている課題と事業視点の課題を紐づけて課題仮説を検討することがポイントになる。

なぜなら、初回提案後に営業先の社内で稟議を進めていけば、経営層がスポンサーを行うかどうか判断することが一般的であるが、経営層は経営上取り組むべき重要課題かどうかでスポンサーの投資判断をするためである。

例えば、事業視点で取り上げる課題が、経営計画で取り上げられている課題であれば、会社として投資をするべきという判断がされやすいが、そうでなければ、会社の中で取り組む優先順位が低くなってしまうためである。営業先が経営層に上申の際、事業視点の課題を解決することが経営計画の達成につながることを示せれば、提案に対しての承認も取りやすくなるであろう。

2)課題仮説に対する提案の考え方

次に、コンテンツホルダーが持つアセットを活用することで、どのように課題を解決できるか考える。当社ではコンテンツホルダーが持つアセットを活用し、営業先が抱える課題を解決するメニューを提案することを推奨している。

営業先が抱える課題・ニーズは多様であり、スポンサー営業のメイン商材であるロゴ掲出は、会社名の認知向上に課題を抱えている営業先には有用だが、それ以外の課題を抱えている営業先にはマッチしない。

営業先の様々なニーズに応えるためには、コンテンツホルダーが持つアセットを総動員する必要があり、そのアセットが営業先への提供価値になる。営業先が抱える課題・ニーズに対する提案例について当社では以下の通りまとめている。提案メニューを考える際の参考にしていただきたい。

3)初回提案で確認するポイント

初回提案では、抽出した営業先の課題仮説とそれを解決する提案メニューを資料化し、営業先に訪問をする。

課題仮説とその課題に対応する提案メニューの説明を受けることで、営業先の面談相手は、自社が抱える課題を再認識し、スポンサーになることで、どのように課題を解決できるかをイメージしやすくなる。面談相手が活用のイメージを持てれば、詳細提案に向けてより深い議論を進めることが可能となる。

初回提案で心掛けること

なお、初回提案の際には、以下の内容を確認いただきたい。

・抽出した課題仮説・提案内容の齟齬と実現可能性の確認

抽出した課題仮説やそれに対応する提案内容に齟齬がないか、まず確認いただきたい。初回提案で営業先に提示する課題仮説や提案内容は、あくまで営業先の状況を踏まえた“仮説”であり、実際に営業先が抱えている課題と異なることは往々にして発生する。

しかしこのポイントに触れないままにしておくと、詳細提案や経営層への上申において、提案内容が説得力に欠け、受け入れられない可能性がある。初回提案の段階で営業先の課題・ニーズとの齟齬を確認することで、もし仮説が異なっていたとしても、その場で営業先の真の課題・ニーズの把握が容易であり、それに対応する提案内容の討議も可能である。詳細提案でより良い提案を行うためにも、この点はもれなく確認をお願いしたい。

また、提案内容の実現性も、営業先とあらかじめ確認しておくことが肝要だ。課題解決型のメニューは、露出型と比較しアクティベーションにおいて、工数がかかるケースが多い。 

例えばブース出展による販売促進の権利を与えた場合、販売員の確保をコンテンツホルダー側ですべて担うことは、現実的に不可能である。初回提案においては、営業先とアクティベーション工数を鑑みた実現性の確認をお願いしたい。

・詳細提案後の承認プロセス/予算感
初回提案の面談内容をふまえて、詳細提案の内容を作りこんでいくが、この段階では、承認プロセスを念頭において提案書を作成する。そのために、初回提案の段階で営業先の承認プロセスや予算感を確認しておく必要がある。

もし事業部レベルの承認であれば、事業視点にフォーカスした提案書と、事業部が持つ予算内での提案となる。全社レベルの承認であれば、全社視点を踏まえた上での提案書と全社的な予算内での提案となるため、この点も忘れずに確認した方がよい。

・詳細提案のアポイント
初回提案に相手が興味を持ったら、その場で詳細提案のアポイントを取ることを推奨する。また初回提案時の面談相手に決裁権がなければ、詳細提案時に決裁権を持つ方を同席してもらうように働きかけることが、詳細提案後の上申をスムーズにするうえで望ましい。

詳細提案の内容と進め方

初回提案で営業先の課題やそれに対応する提案メニューの確認を行ったら、詳細提案に向けて提案メニューの詳細化を行う。その際に意識をしていただきたいのは、「提案内容によって得られる定量的な効果」と「定量的な効果に基づく値付けの実施」である。

前回のコラムでお伝えした通り、営業先がスポンサーをすることは「投資」である。営業先の最終承認は、多くは経営層が関与するものであり、「投資」した金額が回収できる見込みがなければ、承認は得られない。

したがって詳細提案の段階では、提供するメニューによって、営業先にもたらされる効果を提示し、その効果に見合う価格設定を行っていく必要がある。効果の算出方法は、直接的な効果という面では、「売上増加」、「コスト削減」という点が挙げられる。

提案メニューや営業先の属する業界のビジネスモデルによって大きく異なるため、一概には言えないが、一般的に「売上増加」という点では、「コンテンツホルダーが持つネットワークから営業先の商材に送客出来る企業数・人数」×「営業先の売り上げ単価と利益率」という式で効果を算出する。

例えば、商業施設を運営する営業先に提案を行った際、商業施設に入居する可能性のある企業を洗い出し、営業先の1年でもたらされる利益額から、効果額を算出する。また、「コスト削減」という点では、提供するアセットにより営業先のどのコストが下がるかを、効果算出で明示しておくことが欠かせない。

2つ目の例として、社員のリテンション目的でスポンサーを行う場合、スポンサーになることで営業先社員の会社に対するエンゲージメントが高まり、離職防止につながると想定される。それによって削減が見込まれる、営業先が社員に行う投資額や、離職に伴う社員採用コストの金額によって効果額の算出が可能となる。

これらを踏まえた上で提案内容の最終化を行っていくが、詳細提案の提案書は、営業先の経営会議で使用される可能性があるため、その前提で作成をする必要がある。したがって、詳細提案書には初回提案時に提出した課題やそれに対応する提案もつけておくことが、経営者の理解を促すためにもベターであると考える。

また、押しの一手として、選手の同行訪問やサイン入りユニフォームをプレゼントすることなども、意思決定を促す上では有効である。ビジネス上のメリットを語ってはいるが、意思決定者も人間である。クラブや選手のファンであればなおさら効果は高い。

昨今のスポンサーメニュートレンド

ここまで、初回提案、詳細提案における提案内容の考え方について考察を行ってきたが、当社が複数のチーム・リーグに行った支援や、コンサルティング活動を通じて得た、昨今のスポンサーメニュートレンドについて紹介する。

最近注目度が高いのは、ここ数年よく耳にするSDGsに関連したスポンサーメニューである。SDGsは世界中に山積する社会課題をあらゆる角度から解決するため、2030年に向けた具体的な行動指針として17のゴールを設けている。「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、先進国も発展途上国も、行政機関・自治体・企業・NGO/NPO・教育機関そして個人も取り組むべき、全人類の共通目標である。

この流れを受けて、投資家は、投資先の企業が「社会/環境に付加価値を生み出すか」などの社会的インパクトを見定めるようになっており、仮に現在の業績が好調であったとしても、SDGs観点での貢献が乏しい場合は、投資家から将来性を低く見積もられてしまう時代となっている。

実際、日本国内で公募されたSDGs債発行額は、2016年が約450億円に対し、2020年は約21,539億円と約48倍に増加しており、投資家のSDGsに対する興味・関心が非常に高いことがこのデータからも伺える。

SDGsに取り組む企業の「課題感」とは

企業も投資家の要請に応えるべく、SDGsに関する活動に取り組もうとしているが、企業が抱える課題には大きく2つあると考えている。

1つは「何をやったらいいか分からない」という点である。投資家の要請に応じて、SDGsに関して何らかの活動を行いたいと思ってはいるが、社会貢献を行う団体とつながりを持っていない、自社事業と関わりのある社会貢献活動をどのように始めればよいか分からないといった理由で、何を行ったらいいか分からない状況になっている。

もう1つは「SDGsに関連する活動を行っているが、周知できていない」という点である。この悩みを抱える企業の多くは、活動内容をIR情報に掲載しているので、既存の投資家にはSDGsに関連する活動を周知できているが、新たな投資家には周知できていない。別の観点からは、SDGsに関連する活動を企業の社員自体が知らないケースもあり、周知・発信力に課題を抱えている企業が存在している。

一方でコンテンツホルダー、特に多くのスポーツクラブは、従来から地域貢献に積極的であったため、SDGsに関連する活動に近しいことを既に行ってきている。かつ、SNSによるものを中心に、スポーツクラブのファンによる情報発信も積極的に行われており、高い発信力を有している。

すなわちコンテンツホルダーは、企業がSDGsに関連する活動で抱えている課題に対して、対応できる土壌が整っているのである。

千葉ジェッツとSDGsのパートナーメニューを開発

当社はスポーツ×社会貢献の支援実績をベースとし、SDGs Partner Menu Frameworkを開発し、このフレームワークを活用して、Bリーグ所属の千葉ジェッツふなばしとともに、約100個のSDGsメニュー開発を行った。

ここで開発をしたメニューを中心に営業を行ったところ、SDGs関連のパートナー数が前年比で数倍に増えたとの報告を受けている。

SDGsメニューの開発にあたっては、ビジネスアライアンスメニューを提供する際と同様に、コンテンツホルダーが保有するアセットを起点に、どのような活動ができるか考える。SDGsへの取り組み要請を受けて、SDGsのどのゴールに取り組むべきかというマテリアリティ(重要課題)を設定する必要があるが、SDGsの17ゴールのうち、どこまでをカバーするかはコンテンツホルダーの考え方次第である。

様々な企業が抱えるSDGs関連の課題に対して広くSDGsメニューを提案するのであれば、SDGsの17ゴールを網羅するメニュー開発が求められ、一方コンテンツホルダー側でマテリアリティを設定して、そのマテリアリティに共感する企業のみにSDGsメニューを提案するのであれば、設定したマテリアリティに対応するメニュー開発が必要である。

前者においては、協賛金の獲得可能性は大きくなるが、アクティベーション時にコンテンツホルダー側の工数が増えることになる。後者においては、アクティベーション時の工数増加はある程度目算が立つが、マテリアリティに共感する企業は限定的となるため、協賛金の獲得可能性も小さくなる。この点は、コンテンツホルダーが抱えるアセットやアクティベーション人員を鑑みながら、どちらに舵を切るか勘案いただきたい。

最後に

2回にわたり、コンテンツホルダーにおけるスポンサー営業のあり方について考察した。

当社はコンサルティングファームという特性上、戦略策定や課題解決力には長けているが、テレアポでどのように成功率を上げるか等の方法論は、スポンサー営業支援を始めるまで、ほぼ知見がない状態であった。ここで書いた内容は、リサーチ等で得たものではなく、当社のスタッフが実際に営業の現場でコンテンツホルダーの支援や戦略策定を通じて得た、生の知見である。

最後に、直近で当社が支援を行った株式会社ジャパンサイクルリーグ 取締役 犬伏真広氏からの本コラムに寄せるコメントを紹介したい。

ジャパンサイクルリーグは、2021年に開幕した日本初のプロロードレースリーグです。

アビームコンサルティングには、開幕当初からジャパンサイクルリーグが持つアセット、提供価値の整理、営業先ターゲティングや、提案支援を行っていただきました。新興リーグが故に、保有するアセットが少ない状態でしたが、その中でもしっかりと提供価値を抽出いただき、実際新規スポンサーの獲得につなげることができました。

支援を通じて特に感じたのが、投資対効果の算出の点です。スポンサー営業において、投資対効果を営業先に提示することで、納得感を持って投資を行えるので、商談もスムースに進みました。この支援を通じて得た知見を以って、リーグとしてさらにスポンサー獲得を進めたいと思います。

画像提供=株式会社ジャパンサイクルリーグ

コメントにもある通り、アセットが少ない中でもしっかりと営業先の課題とアセットを整理して、スポンサーによる提供価値を見つけること、そして営業先に納得感を与える投資対効果を見せることで、新規スポンサーを獲得することは可能である。

多くのコンテンツホルダーは、課題解決型営業にシフトしようとしている。今回のコラムがスポンサー営業における課題解決型営業をより促進し、コンテンツホルダーの収益向上の一助になることを期待している。

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