【ABeam Sportsコラム#3】スポンサー営業の「課題解決型」アプローチ(前編):営業ターゲット選定、アポイント成功のヒント

初回のコラムで、スポーツ界が取り組む課題として、大きく6つの課題が挙げられた。その中の「多様化する資金調達方法への対応」として、コンテンツホルダーにおけるスポンサー営業のあり方について、これから2回(前編:確度の高い営業ターゲット選定とアポイントの取り方、後編:課題解決型スポンサーメニュー提案の考え方)に分けて考察する。【第3回】(文=アビームコンサルティング マネージャー 澤井 一人)

伸びしろが見込める財源は何か

クラブ・リーグ、中央競技団体(NF)といったコンテンツホルダーは、強い選手・チームをつくることで魅力を高める以外にも、ファンとのコミュニティづくり、スタジアム、アリーナの空間演出、企業とタイアップした新たな商品やサービスの提供など、様々な方法で魅力の向上に取り組み、保有するコンテンツの強化に努めている。

こうした活動は全て「投資」が必要であり、いうまでもなく、「財源」が必要となる。財源として、近年では、クラウドファンディングやNFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)、ファントークンなどによる資金調達も広まりつつあるが、多くのコンテンツホルダーにとって、主な財源となるのは「入場料収入」、「放映権収入」、「スポンサー収入」である。

この中で、伸びしろがある財源は何だろうかと考えると、入場料収入は、「スタジアム・アリーナの収容人数×試合数×チケット代」で上限が決まる。また、放映権収入は競技自体の人気に左右され、短期的にはコントロールが難しい。

一方でスポンサー収入はコンテンツホルダーがコントロール可能な項目といえる。もちろんコンテンツホルダーの営業リソースによって制限されることはあるが、外部の影響を受けにくく、自分達でマネージしやすい項目である。そのため、我々はスポンサー収入をどのようにしたら増やせるかということを財源確保の最重要課題としてクラブ、リーグを支援してきた。なお、本コラムは、チームスポーツを展開するクラブやリーグのスポンサー営業を対象に記載しているが、個人競技や大会スポンサーであっても基本的な考え方は同様である。

スポンサー営業部隊の現状

「スポンサー収入」を増やすため、コンテンツホルダーの営業部隊は、活動拠点となる都道府県、市区町村の企業リストを入手し、一斉にメール配信したり、自転車に乗って地域の企業・商店をローラー作戦でドアノックしたり、様々な方法で機会を掴もうと努力している。

しかし、多くのコンテンツホルダーにおいて、営業部隊の人数は潤沢ではなく、また、大半が営業活動のみならず、スポンサー企業のアクティベーション(権利の活用)支援も兼務しているため、アップセルや新規営業に労力を割けない状況に陥っている。

このような状況で、数千社の企業に一律にアプローチし、スポンサー契約を獲得することは非常に難しい。そのため、当然のことではあるが、確度の高い営業先を選定し、アポイント獲得率、初回訪問後の再訪問率、成約率を上げることが重要となる。

当社が考えるスポンサーモデル

それでは、スポンサー営業において、確度の高い営業先選定をどのように行えばよいのか。その解説に進む前に当社が考えるスポンサーモデルを説明しておきたい。 企業がスポンサーをする形態として、我々は「パトロンモデル」と「ビジネスアライアンスモデル」という2つのモデルを定義している。

「パトロンモデル」とは、企業が、応援したいというエモーショナルな理由がメインでスポンサーするモデルであり、企業ロゴのユニフォームや看板への掲出が主な対価となっているモデルと定義している。これはファンとのエンゲージメントが強いスポーツでは主流のモデルであった。スポンサー企業には、認知度の向上がメリットになり、直接的なビジネスへの貢献を大きく期待するというよりは、例えば、地元企業だから、地元の選手を応援したいから、という理由でサポートしている企業も多い。

一方、「ビジネスアライアンスモデル」とは、直接的な事業への効果を期待するモデルである。看板への掲出による認知度向上は、スポンサーの事業に直接的な貢献をしているか可視化がしにくい。そのため認知度向上の必要性を疑問視される一方で、より直接的な事業貢献への期待は高まっており、実際我々もそうした声を多く聞いている。また、協賛金を「投資」と位置付けると、認知度向上だけでは株主・投資家を含めたステークホルダーに投資の理由を説明することが難しくなっているともいえる。

ビジネスアライアンスモデルは、言い換えると、「コンテンツホルダーの保有する様々なアセットを活用し、企業が抱える課題を解決するスポンサーモデル」ということができる。

コンテンツホルダー側からみれば、企業が抱える課題を理解し、企業側の事業そのものに作用するスポンサーメニューを提供することで、協賛金という投資に対する具体的な効果を提供する、ということになる。

あるべきスポンサーモデルと確度の高い営業先選定方法

それでは、今後、パトロンモデルではなく、ビジネスアライアンスモデルに100%シフトするかというと、我々もそうは考えていない。実際には融合された形態になるものと考えている。

企業がスポンサーを決断するにあたっては、「認知」、「興味・関心」、「選択」というプロセスが存在する。このプロセスの「認知」、「興味・関心」では、当然「応援をしたい」というエモーショナルな訴求が重要で、その共感がなければスポンサーになることはないだろう。

例えば、三重県(執筆者の出身地)の企業に対して、三重県のクラブと、三重県外のスポーツチームがスポンサー営業を行った場合、三重県のクラブに「興味・関心」を持つことは、感情として当然であろう。

その上で、「選択」において、「投資に値するものか」という判断が働くのだが、例えば、企業に対して「応援をしたい」と思っている複数のクラブが提案をしてきた場合、企業側は、お金を払うなら、自身の事業に対して直接的な貢献する方を選ぶ判断を行うだろう。これは企業において、社内の関係者・経営層、ステークホルダーに対しての説明責任を果たす上で当然の判断といえる。

つまり、コンテンツホルダー側は、「認知」、「興味・関心」という段階では、「応援したい」という気持ちに訴えかけ、共感を生み出し、ステークホルダーの最終投資判断となる「選択」というタイミングで、企業の課題解決につながる提案を行い事業上のメリットを感じてもらう必要がある。

したがって、あるべきスポンサーモデルはパトロンモデルとビジネスアライアンスモデルの融合であり、確度の高い営業先の選定において、この点を強く意識する必要がある。

そのために必要なステップについて当社の実績に基づき説明する。

①コンテンツホルダーが持つアセットの整理

これまで、コンテンツホルダーが使用していたアセットは、看板やユニフォーム、配布用のチケットが主軸であったと思われる。しかし、企業に最終的な投資判断を仰ぐにあたっては、課題解決を目的にした提案を行うため、コンテンツホルダーが持つ全てのアセットを活用できるか検討する必要がある。

当社がコンテンツホルダーのアセットを整理する際には、下記のようなフレームワークを活用している。「使えるものは使う」という精神で幅広に抽出しておくことが、この後のステップでアイディアを出す際に有効である。

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②アセットと営業先ニーズ/業界の紐づけ

アセットを整理したら、どのような業界の、どのようなニーズをもつ営業先にそのアセットが紐づけできるかを考える。例えば、「小売業界に属するスポンサー企業を多く有している」というアセットを保有している場合、「小売業界のスポンサー企業とつながり、自社の製品やサービスを売り込みたい」というセールス強化のニーズのある営業先が候補として考えられる。そして、そのニーズを抱える業界は、食品メーカー、雑貨製造、アパレルなどが挙げられるだろう。

当社はこれまでの支援実績に基づき、スポンサーに対する企業のニーズは概ね以下のような分類になると考えている。

③紐づけした業界の企業リストを作成・評価

ステップ2で紐づけた業界を基に、調査会社から業界に属する企業一覧を入手する(帝国データバンク、東京商工リサーチ、SPEEDA等)。ただし、企業一覧を並べると、我々の過去の経験上、数千社程度になることが想定されるため、全企業に対してアセットとマッチした提案を考えるのは、非現実的である。したがって、「応援したい気持ちの有無」という観点でまずスクリーニングする必要がある。

なお、「応援したい気持ち」は定性的で、調査会社のデータで判断することは難しいため、例えば、ホームタウンに本社や店舗を出店している企業が選定基準になると考える。社長のインタビュー記事なども参考になるかもしれない。その上で、「投資をする体力のある会社」を評価する。

その時の経済状況によるが、「利益」は重要な評価項目となる。当然ながら、利益のない企業が、新たな投資を行うにはステークホルダーへの説明にかなりの労力を要し、面談にすら漕ぎつけない状況も想定されるからだ。

次に「販管費(もしくは広告費)」である。恒常的に販管費が多い企業は、新たな販管費支出に対し、社内決裁の工数がかかることは少ない一方で、販管費の少ない企業が、スポンサーにより販管費が増額となれば、社内決裁に時間を要することが想定されるからだ。

その他にも評価軸はあるが、その時の時勢に応じて変更する。例えばコロナ禍においては、売上増減率を評価軸に入れることにより、コロナ禍で成長した企業かどうかを評価項目にすることも有効である。

このような手順でリスト上数千社上がった中からスクリーニングを行い、ターゲットリストを作成することになるが、後続の工数を鑑みると、最終的に10社~15社/営業1人ほどに絞り込むのが妥当と考えている。

ターゲットリストに基づいて何をするべきか

上述のとおり、アプローチする企業数はそれほど大量にリストアップする必要はない。各営業スタッフはただひたすらアポイントをとるのではなく、IR資料や業界トレンドの調査を通して、ターゲット企業が抱える経営上の課題を抽出し、上述した営業先ニーズを参考にしながら、アプローチを進める必要があり、そのための工数を確保しなければならない。

例えば、ターゲット企業のIR資料で「海外からの観光客の需要から地域住民の需要への転換」という企業課題が示されている場合、コンテンツホルダーが抱えるファン層や、パートナー企業の社員を送客するセールス強化の提案を行う、という方向性(初期仮説)が考えられる。このような初期仮説検討を終えてからコンタクトを開始することになる。

コンタクトにあたっては、「とりあえず広告宣伝部にコンタクト」をするのではなく、提案の方向性に対応する部署にコンタクトをすることで、アポイントの確度がより高まる。例えば「セールス強化」であれば、営業企画やマーケティングの部署、「R&D強化」であれば、経営企画や開発の部署にコンタクトすることで、相手側もパートナーになった際のイメージが湧きやすく、アポイントも取りやすくなる。

一方で、提案内容と関係が薄い部署にコンタクトをすると、部署間の取次が滞ったり、こちらが話した内容が十分に伝わらずに連絡が途絶えてしまったりするケースがある。

そして、初回提案時には、汎用のセールス資料ではなく、ターゲット企業毎の経営課題に対応するメニューを提案し、ニーズを探り、次回提案のアポを取る。そして次回提案でニーズを満たす提案を実施する、という流れが、スポンサー獲得の確度向上に繋がるアプローチと考えている。

上記のアプローチに基づき、当社にて、あるプロスポーツクラブにて営業支援を行った実績を以下に示しているが、当該クラブでは、アポイント獲得率24%、初回訪問後の次回提案進展率75%と、当社の支援前の数値と比較して高い実績を残すことができた。他の支援実績においても、似たような傾向となっている。

本コラムでは、課題解決型スポンサー営業における、確度の高いターゲティング方法について解説してきた。次回コラムでは、引き続きスポンサー営業をテーマとして、「提案内容の考え方」について、昨今のトレンドを交えて詳しく解説する予定である。

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