パラアスリートを支える「スポーツ用義足」。義足エンジニアが陸上・為末大と歩む“社会課題解決”の道

近年、パラアスリートの活躍はめざましく、特に義足のアスリートの短距離種目や走り幅跳びは健常者の記録に追いつきつつある。その足元を支えるスポーツ用義足を開発するのがXiborg(サイボーグ)だ。日本発の企業で、国内外のパラスポーツの選手強化や普及活動サービスの展開を進めている。

スポーツ庁による日本のスポーツ産業の国際展開を支援するプラットフォーム「JSPIN」にて、同社代表取締役社長の遠藤謙氏が、その取り組みを紹介する。(初出=JSPIN

2020年東京パラリンピックに向けて始まったプロジェクト

2012年、ロンドンで歴史上はじめて義足アスリートがオリンピックに出場した。そのころから義足アスリートやスポーツ用義足、ブレードへの注目が高まり始め、そして2014年、東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催されることが決定した。

Xiborgは2020年に活躍が期待されるパラアスリートのためのブレード開発を目標として、義足エンジニアの筆者・遠藤謙とオリンピアン為末大氏によって2014年に創業された。

当時から日本を代表する陸上のパラアスリート、佐藤圭太、池田樹生、春田純の3選手がチームに加わり、選手の強化と同時にブレードの開発が進められた。選手の運動計測から始め、どのような走り方が必要とされるかなど、選手だけでなくコーチ・義肢装具士とも議論が繰り返され、2016年、初めてのプロダクトXiborg Genesisが完成した。

同年、リオパラリンピックで佐藤圭太選手が100mで当時のアジア記録を更新し、4x100mリレーで銅メダルを獲得することとなる。

2017年には、佐藤圭太選手の活躍をみたアメリカのジャリッド・ウォレス選手がXiborg社のブレードを使い始め、同年の世界パラ陸上競技大会の100mで銅メダル、200mで金メダルを獲得。その後もXiborgは新たに増えた海外選手含むアスリートたちの運動計測やデータ解析を続け、2018年には新しいブレード「Xiborg ν」を開発、販売を開始した。

そして迎えた東京2020パラリンピックではアメリカのジャリッド・ウォレス選手とオランダのキンバリー・アルケマデ選手が200mでそれぞれ銅メダルを獲得し、その技術力が世界に通じることを証明した。

障害者がスポーツを楽しむための敷居の高さ

Xiborg Genesis

パラリンピックを通じて、パラスポーツをテレビなどで見ることが増えた一方、一般障害者がスポーツを楽しむための敷居は依然として高いままである。その理由の一つは義足などの用具が高価であることだ。

そこで、Xiborgはこれまで行ってきたカーボン成型のノウハウを生かし、アスリートでなくても一般義足使用者が手軽に使用できる安価なブレード「Xiborg Joy」と子供用「Xiborg Joy Jr.」を開発した。

一方でブレードが安価になったとしても、多くの義肢装具士がブレードを使ったことがないことや、走るための練習方法がわからない、走る場所がないなど、多くの課題は残ったままである。

そこで、Xiborgは、全国各地の義肢装具士や関連施設と連携し、地元の義足使用者向けにランニングクリニックを開催し、ブレードのつけ方から走り方のレクチャーを行った。これまでに延べ500名を超える義足使用者がランニングクリニックに参加している。

F-1モデルのパラスポーツ版

Xiborgのビジネスモデルは、ブレードの販売などのBtoCモデルではなく、企業から選手強化などのスポンサーを集め、トップアスリート向けの技術開発とその強化を行いながら、その一部をパラスポーツの普及に回すBtoBモデルが中心である。

これは、モータースポーツの最高峰F-1のチームがレースで勝つためにスポンサーを集め、最先端技術開発を行い、その技術を乗用車に応用する技術開発サイクルに近いものである。

パラスポーツにおいては、Xiborgがこれまでに得たアセットは、

  1. ブレードや関連プロダクトの開発技術(Xiborg Genesis, Xiborg ν、Xiborg Joy, Joy Jr.など)
  2. 義肢装具士のスポーツ用義足を作るためのスキル
  3. ブレードを用いた走り方のコーチングスキル

などがあげられる。

これらのアセットを用いて、選手の強化やパラスポーツの普及サービスを国内外に展開し、障害者がスポーツを気軽に楽しめる環境を広げていくことが今後の挑戦となる。

これまでの海外展開

また、スポーツに国境はないという信念のもと、海外展開も積極的に行っている。

パラスポーツの環境は国によってことなり、課題も異なる。例えば、ラオスやブータンでは国内に一人もブレードで走る人がおらず、義肢装具士がブレードを触ったことがない状況であった。また、現地で使用されているソケットの素材も日本のものとは異なり、プラスチック製で強度が劣るものであった。

我々はプラスチック製でもブレードを十分な強度で組み立てることができる手法を開発し、現地の義肢装具士へのレクチャーを行い、国で初めてのブレードランナーの誕生に寄与した。

ブータン初のブレードランナー

フィリピンでは、ドラゴンボートや障害物レースなどの種目では、現地のNPOを中心にサポートする環境があり、パラアスリートが活躍する場がある一方で、ブレードを使って走る競技のパラアスリートがおらず、義肢装具士もブレードに触れることがあまりない。

ブラジルやインドでは、すでにブレードで走り世界で活躍するパラアスリートはいるものの、一般義足使用者がブレードで走ることができていない、日本と同じような状況である。我々はこうした課題に対し、現地の義肢装具士と連携し、現地の義足使用者を集めて、「Xiborg Joy」と「Joy Jr.」等を使ったランニングクリニックの開催を行っている。

社会課題の解決につなげる

パラリンピックのような世界大会への参加は、国の経済状況が大きな影響を与えている。例えば、リオパラリンピックや東京パラリンピックではOECDが定める最貧国から陸上100mへ参加した義足アスリートはいない。

これは競技のための用具が高価であることや、その国において障害者がスポーツをすることの敷居が高いからという文化的な背景が大きな原因である。

ただ、走ることは、本来、だれもができる最も敷居の低いスポーツであり、それが障害や経済的な理由であきらめるということはあってはならない。Xiborgの活動はパラスポーツの訴求だけでなく、これらの社会課題の解決にもつながるビジネスであり、世界に広げていきたいと考えている。

(文=株式会社Xiborg 代表取締役社長 遠藤 謙)

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