スポーツ業界でのキャリアは狭き門と言われている。スポーツを仕事にしたいと思う人は多いが、クラブやリーグ、協会などは性質上数に限りがあるからだ。欧州サッカーや北米スポーツなどグローバルな組織で働くとなれば、その難易度はさらに高くなる。
ただし、正しくキャリアを形成し、準備をすれば決して不可能ではない。スポーツビジネス界で採用サービスを展開し、これまで多くのミドル〜ハイクラス人材の転職を支援してきた、HALF TIME株式会社 代表取締役の磯田裕介が、欧州ビッグクラブの歴代日本人ビジネスパーソンの実態を分析し紹介する。(文=HALF TIME代表 磯田裕介、構成=野口学)
世界最高峰のクラブやリーグで働くチャンスは確実にある
近年、サッカー日本代表は目覚ましい進歩を遂げています。その原動力は、フィールド上で数多くの選手が海外へと活躍の場を移したことにあるといえるでしょう。
一方、ビジネスという観点では、リーグで見れば日本のサッカービジネスは欧州から大きく後れを取っています。同じ1990年代に創設されたJリーグとイングランド・プレミアリーグは、当時ほぼ同等の売上高でした。
しかし30年あまりの年月を経て、Jリーグの1,517億円(2023シーズン)に対し、プレミアリーグは60億5800万ポンド(約1兆1,500億円/2022-23シーズン)と7倍以上に。市場環境の違いなどもあり単純比較は難しいですが、大きな差が開いています。
日本のスポーツビジネスがさらに成長するためには、より多くのスポーツビジネスパーソンのグローバル化が必要です。
サービス開始から5年を迎えたHALF TIMEでは、取り扱い求人件数が累計1,000件を超え、約2万3,000人のユーザーが登録しています。求人案件の中には、マンチェスター・シティを運営するシティ・フットボール・グループ、マンチェスター・ユナイテッド、ブンデスリーガ、そしてNBAなど、グローバルなリーグ・クラブの求人もあり、数多くのスポーツ組織とビジネスパーソンのマッチングを支援してきました。
そこで今回、どのようにすればグローバルに活躍するスポーツビジネス人材になることができるのか、どのようなキャリア戦略を描けばいいのかについて、これまでの経験を基にご紹介します。
最も可能性が高まるのは「30代までに営業として入社」
まずは、欧州サッカー界で働く、または働いてきた歴代の日本人のデータを紹介します。
当社独自調査で、直近20年間で欧州5大リーグの主要クラブに採用された日本人は18名(オフィスワーカーに限る、クラブ間で転職した方もいるため延べ人数)。うち7割以上はプレミアリーグのクラブです。日本人を採用するのは基本的には日本市場を狙えるような規模のクラブになりますので、必然的にサッカー界で最も稼いでいるプレミアリーグが多くなっています。
職種に関しては、約4割が営業です。やはり直接的に売上につながるポジションのため、比較的採用されやすい傾向にあるといえます。
入社時の年齢は、20代後半から30代が8割以上を占めるというのも特徴です。新卒で入社したのは1名のみで、これはかなり例外と見ていいでしょう。基本的には即戦力で活躍できるスキル・経験を持っていることが前提となります。
また、入社前のキャリアを見てみると、半数以上が何かしらスポーツ業界でキャリアを積んでいることが分かります。
募集ポジションと直近の経歴や業務内容に親和性が高ければ、採用される可能性も高くなるのが一般的です。ビッグクラブで言えば、グローバルな経験(英語能力も含む)×スポーツビジネス界での経験×該当職種の経験が必要だといえます。
一方で、それらの親和性が低い場合は、海外大学院でMBAやスポーツマネジメント修士を取得することが近道となります。これらの条件を満たせば、ビッグクラブで働ける可能性が高くなってくると言えるでしょう。
世界に羽ばたく「希少価値の高い人材」になる方法
これからの世の中、スキルとパフォーマンスで評価される時代になっていくのは間違いありません。これはスポーツ業界も同様です。
特に欧州サッカー界をはじめとする、グローバル・スポーツビジネスの最前線で活躍できるのは、「100万人に1人の希少価値の高い人材」です。そうした希少人材になるには、キャリアにおいて「大三角形」を形づくる必要があります。これは、日本の教育家である藤原和博氏が提唱しており、耳にしたことがある方もいるかもしれません。
最初にやるべき第1ステップ(20代の5~10年)は、「左足の軸」(三角形の基点)をつくることです。海外ジャーナリストのマルコム・グラッドウェル氏が提唱しているように、1万時間をかけて一生懸命に取り組めば、どんな人でも必ずその分野のエキスパートになれます(「1万時間の法則」)。まずは最初の1歩目で「100人に1人」の存在になることを目指しましょう。
第2ステップ(30代の5~10年)では、「右足の軸」(三角形の底辺)をつくります。第1ステップと同様に1万時間をかけて新たな分野のエキスパートを目指します。この2歩目でも「100人に1人」になり、左足と右足の軸を固めることができれば、「1万人に1人」の存在になれます。
最後の第3ステップ(40~50代)では、さらにもう1万時間をかけて三角形の頂点をつくります。ポイントは、できるだけ遠くに踏み出すこと。1歩目、2歩目との距離が近いと、三角形の面積が小さくなってしまいます。これまでとできるだけ違う世界にチャレンジすることで、三角形の面積が大きくなる=「希少性」が上がり市場価値が高くなるのです。
CFGに転職を果たした人物の実例
例えば、当社が転職をサポートした事例を挙げると、シティ・フットボール・グループ(CFG)の日本支社、シティ・フットボール・ジャパンに転職を決めた山口祐二さんの場合、20代で化学品の専門商社で営業に従事し、30代でタイ駐在を経験して、「三角形の底辺」をつくりました。
ただし、スポーツ業界で働くにはキャリアの親和性が低いと考えたご本人は、会社を辞めてレアル・マドリード大学院でスポーツマーケティングを学んだ後、30代~40代にかけ、日本のラグビークラブで勤務しました。
ここまでのキャリアでつくり上げた営業としての実績、グローバルな経験、そしてスポーツビジネスの経験という「大三角形」をもとに、世界的なビッグクラブへの入社を実現させたのです。
どんな人でも、“正しく”努力すれば、「100万人に1人」になることができます。そうすれば、目指しているキャリアに当てはまる組織からの需要にも応えられ、まさに理想のキャリアを実現できる人材になれるでしょう。
逆算式のキャリア設計は、変化の激しい時代に即さない
また、キャリアに対する考え方もアップデートしていく必要があります。
これまでは、いつまでにどうなりたいか“具体的な目標”を定め、そこに向けて日々のアクションに落とし込む、「逆算式目標」がキャリア形成の考え方の主流でした。しかし変化のスピードが速い現代社会では、目標そのものが世界からなくなってしまうことも起こり得るようになってきてしまいました。
そこで求められるのは、自分が社会で何を成し遂げたいのか、何に情熱を捧げたいのか、そういった自分の理念を掲げ、キャリアの“方向性”を決めること。そして、進みたい方向に向かっているか、どのくらい進んでいるのか、何が足りないのか、何をするべきなのかを見定めるために、自分の“現在地”を客観的に把握することです。
スポーツビジネスを志している方の中で、20代で第1ステップ、第2ステップでキャリア形成を図っている方であれば、まずは今の分野でエキスパートになることを目指しましょう。30代で「三角形の底辺」が出来上がっている方であれば、スポーツ業界への転職を検討してみてはいかがでしょうか。すでに「大三角形」を形成している方であれば、世界的なビッグクラブやリーグへ挑戦するタイミングといえるかもしれません。
将来スポーツ業界でグローバルに働きたいと思う人は多くいます。ただしそれは“ドリームジョブ”と呼ばれている通り、競争率は非常に高い。「今」努力し、やるべきことを先延ばしにせず、継続できる人のみが、ドリームジョブを手に入れられます。
皆さんが夢に描いたキャリアを実現できるように、本稿がその一助になることを願っています。
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<資料内のコンテンツ>
- 歴代日本人が勤務先してきたクラブの一覧
- 職種の分類
- 入社時の年齢
- 出身企業の一覧
- 出身大学の一覧
- 前所属企業の一覧 等
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