香川真司の衝撃から深まった絆。ドルトムントが考えるドイツ・日本サッカーの親和性

ドイツ・ブンデスリーガでは今まで、欧州5大リーグ最多となる60人以上の日本人選手がプレーしてきた。そして、半世紀にわたる日独サッカーの絆は、選手の移籍だけにとどまらず、クラブと地域、ファンコミュニティを深く結びつけるフェーズへと移っている。

ブンデスリーガが先月都内で初開催した「Bundesliga Business Reception」で、ドルトムントのアジア太平洋地域マネージングディレクター スレシュ・レッチマナン氏と、ブンデスリーガのアジア太平洋地域代表 ケヴィン・シム氏が語った。

数字と歴史が証明する日独サッカーの親和性

ドイツサッカーと日本選手・ファンの関係には、大きな親和性がある。1970年代に日本人初のプロ選手として挑んだ奥寺康彦氏から、香川真司、堂安律など現代のプレイヤーに至るまで約50年。60人以上の日本人選手がおよそ通算3,000試合に出場してきた。

モデレーターを務めたブンデスリーガのアジア太平洋地域代表 ケヴィン・シム氏も、「今日、日独の結びつきはかつてないほど強くなっている」と強調。

その背景には、サッカーに対する情熱や技術の追求、規律、リスペクト、そして地域社会を重視するコミュニティ意識など、日独両国に共通する価値観が存在する。

これまで欧州5大リーグで最多となる日本人選手がプレーし、今夏のFIFAワールドカップ2026北中米大会では、日本代表選手の所属リーグとしてブンデスリーガが最多を占めた。こうした事実は偶然ではなく、その歴史が積み上げてきたものだ。

ドルトムントが日本を最重要市場と位置付ける理由

ドイツと日本の関係性を象徴し、より発展させたのがボルシア・ドルトムントにおける香川真司の躍動だったことに、異論を持つものはいないだろう。

ドルトムントのアジア拠点の代表を12年務めるレッチマナン氏は、日本市場の重要性をこう振り返る。

「私たちのアジアにおける挑戦の始まりは日本でした。そしてその扉を開いてくれた一人の存在が香川真司選手です。彼との関係が、日本のみならずアジア全体への扉を開いてくれました」(レッチマナン氏)

ボルシア・ドルトムント アジア太平洋地域マネージングディレクター スレシュ・レッチマナン(Suresh Letchmanan)氏

香川の活躍によって、ドルトムントの名は日本中に浸透。そして今や、世界中のドルトムントファンのうち最大の割合を、アジアのファンコミュニティが占めているという。過去11年で4度、直近2年で2度の来日ツアーを実施しているのも、欧州クラブの中で際立った回数となっている。

レッチマナン氏は「日本へ来るのは、単に試合をすることだけが目的ではない」とも語る。

「最も重要なのはファンです。ファンがいなければクラブは存在しません。ドイツには『愛のために結婚する』という言葉がありますが、私たちの行うすべては心と情熱から始まっています。成長する市場の近くに存在し続け、ファン文化を共に築くことが私たちの目的なのです」(レッチマナン氏)

ONE PIECEコラボから産学連携までローカライズ

ドルトムントの日本戦略において特筆すべきは、親善試合の開催にとどまらない多角的なアプローチだ。同クラブは帝京大学との産学連携や大阪のNPOとのCSR活動など、スポーツの枠を超えた取り組みを日本国内で推進してきた。

中でもファン層の裾野を広げる施策として注目されるのが、日本のアニメカルチャーとのカルチャーミックスである。ドルトムントは『ONE PIECE』や『ブルーロック』といった人気アニメとのコラボも展開。特にONE PIECEに関しては、ユリアン・ブラントが大ファンでゴールパフォーマンスを行ってSNSで大きな話題を呼んだほか、試合の際に限定アイテムのプレゼント企画も実施した。

「日本においてプレミアリーグが大きな存在感を持つ中で、ただ手をこまねいているわけにはいきません。同じマインドセットを持つ異分野と組むことで、既存のサッカーファン以外の新しい層へアプローチできるのです」(レッチマナン氏)

スポーツ以外のカルチャーとの架け橋を作ることで、クラブとしても若い世代や新しいファンとのエンゲージメントを期待している。

ドルトムントは今夏も日本でのプレシーズンツアーを実施。右側はモデレーターを務めたブンデスリーガのアジア太平洋地域代表 ケヴィン・シム(Kevin Sim)氏

商業目的ではない、ドルトムントの「純粋な育成哲学」

欧州クラブ間でも日本の若手選手獲得競争が激化する中、ドルトムントは18歳の山本天翔(ガンバ大阪)を獲得するなど、若い才能にも熱い視線を注いでいる。しかし、その補強方針は徹底して一貫している。

「(香川)真司を獲得した時もそうでしたが、ユニフォームやグッズを売るという商業的な目的で選手を獲得することは絶対にありません。ビジネス目的の選手補強は機能しないからです。私たちが日本人選手を選ぶ理由は常に純粋なフットボールの実力と才能に基づいています」(レッチマナン氏)

さらにドルトムントは、ピッチ上の成功にとどまらず、社会的責任を果たすことにも深くコミットしている。ブンデスリーガが欧州主要リーグで初めて環境・社会的サステナビリティをクラブライセンスの必須条件とする中、同クラブは「BVB Foundation(ドルトムント財団)」を通じてアジア各地で恵まれない子どもたちを支援するプロジェクトを展開する。

「サッカーは華やかなビジネスや勝利だけではありません。地に足をつけ、地域や人々の心に寄り添い、謙虚であることが大切です」(レッチマナン氏)

1970年代から日独サッカーが共有してきた価値観。これをベースにボルシア・ドルトムントは、カルチャーへのアプローチや社会的価値の創出も重視して、日本のファンやパートナーと次の時代に向けた“持続可能な絆”を育み続けている。