欧州サッカー5大リーグのひとつドイツ・ブンデスリーガでは、パートナーシップの推進と多彩なアクティベーション(権利活用)が進む。企業にとっては、どのような思想のクラブと手を組み、実際に何ができるのかというのはスポーツ・スポンサーシップを検討する際に重要視する点だ。
岡崎慎司、酒井高徳、遠藤航など錚々たる日本人選手が歴代所属し、浦和レッズで選手・監督を務めたギド・ブッフバルト氏をOBに持つVfBシュトゥットガルトが、先月都内で開催されたブンデスリーガ主催のイベントでその取り組みを語った。
シュトゥットガルトが掲げる「地域の発展」
シュトゥットガルトが位置するバーデン=ヴュルテンベルク州は、ポルシェやメルセデス・ベンツをはじめ、世界的な自動車メーカーや製造業者が集積する一大拠点である。その地域を代表するクラブ「VfBシュトゥットガルト」は、スポーツ界でも極めて珍しい立ち位置にある。
通常、同業者が同じクラブに関与することは多くない。しかし、シュトゥットガルトではメルセデス・ベンツとポルシェがそれぞれ株主として支えながら、ポルシェは若手育成(アカデミー)のパートナーとしても取り組みを展開するなど、二大高級車ブランドが共存している。
クラブの国際部門で日本市場を担当する池田啓太郎氏は「ライバル同士ではあるが、“地域全体の発展”の共通ビジョンで結ばれているからこそ成立している構造です」と説明。「役割を明確にして衝突しないよう調和を保つことで、世界的にも珍しいモデルケースとなっています」と補足した。
ブンデスリーガで東南アジアの責任者を務めるティジャン・イバック氏は、ブンデスリーガ全体でのマーケティングについて、「私たちが目指すのは、各クラブが地元都市で活動し、世界中およびドイツ国内で望むブランドとつながれるようにすること」だと話す。
「リーグとしては、すべての人々を調和させるようなパートナーシップを促進し、クラブの成長をサポートしています」(同氏)と、リーグとしてのクラブサポートについても強調した。
元ドイツ代表、ギド・ブッフバルト氏の絶大な貢献
そのパートナーシップ活動においてシュトゥットガルトは、特に日本向けの施策を意識しているクラブだ。岡崎慎司から始まり、酒井高徳、細貝萌、浅野拓磨、遠藤航といった日本代表選手が所属してきた歴史がクラブにはあり、現在V・ファーレン長崎ともユース育成で提携するなど日本とは縁深い。
さらに、元ドイツ代表で1990年イタリアW杯優勝メンバー、浦和レッズの選手・監督としても活躍した伝説的レジェンド、ギド・ブッフバルト氏がクラブOBで、現在はクラブのアンバサダーも務めている。日本でのアクティベーションでも大きな存在感を示している。
2025年、ドイツ発の世界最大手清掃機器メーカーであるケルヒャー社がシュトゥットガルトの日本における地域パートナーとなった際には、ブッフバルト氏を起用した多彩な施策が展開された。
栃木県・松田川ダムで壁面アートをケルヒャーの高圧洗浄機を用いて洗い流すといったユニークなデモンストレーションや、カインズ浦和美園店でのトークショー、さらに横浜にあるケルヒャー日本本社での講演会など、対外的なプロモーション活動から社員のインナーブランディングまで大活躍。
池田氏は、その影響力の大きさについてこう言及する。
「私も驚きましたが、日本全国どこへ行っても人々はギド(ブッフバルト)のことを知っていました。本人にとっても現役を引退して年数が経つ今も、日本でこれほど歓迎されていることに感激していました。この影響力を企業と融合させることでBtoB・BtoC双方で大きな価値を生み出せました」(池田氏)
「話す前にまず聴く」ブンデスリーガのパートナーシップ
ブンデスリーガのグローバル展開において徹底されているのが、「話す前に、まず聴く(Listen before you speak)」という誠実な対話姿勢だと、先出のイバック氏は言う。
同氏はスポンサーシップに関する最大の誤解について、こうも指摘する。
「何億円もの莫大な予算がなければスタートすらできないと思われがちですが、それは違います。私たちはハードセラーとして高額なパッケージを売りつける気はありません」(イバック氏)
ブンデスリーガが貫くのは、「フットボールと地域コミュニティを最優先」にする姿勢。予算を押し付けるのではなく、相手企業が抱える課題や目的に耳を傾け、長期的な関係性を構築することがパートナーシップの出発点となる。
これらの取り組みが示すのは、スポーツにおけるスポンサーシップが、単なる「露出の切り売り」から脱却し、「人と人のつながり」を重視しつつある事実だろう。
池田氏はシュトゥットガルトというクラブの視点から、「選手獲得だけでなくドイツと日本、シュトゥットガルトと日本の都市を結ぶ“社会的架け橋”になりたい。今後も日本の地域コミュニティや自治体、企業との接点を増やし、足場を固めていきたい」と話す。
イバック氏はブンデスリーガとして、「『早く行きたければ一人で行け、遠くまで行きたければみんなで行け』との格言がありますが、重要なのはまさにその考え方。国際化に向かって進むクラブやパートナーと共に歩めることを、リーグは心から望んでいます」と指針を示した。
日本とドイツが、サッカーを通じて築いてきた深い信頼関係。その関係性は競技の枠を超え、企業や地域、両国のサッカーファンと共に歩む、持続可能なスポーツビジネスの未来を探すフェーズへと入っている。