ドルトムントとSCOグループが目指す、育成と健康の新たな関係。欧州トップクラブはなぜ日本のメディカルテック企業と手を組んだのか?

香川真司の活躍を通して日本で一躍人気クラブとなったドイツ・ブンデスリーガの名門、ボルシア・ドルトムント。チャンピオンズリーグの常連でもある欧州トップクラブは、2025年9月、東京・丸の内に本社を置くメディカルテック企業、株式会社SCOグループとのパートナー契約を締結した(“Regional Partner of Borussia Dortmund in Japan”)。

「医療・教育・スポーツを交差させた新たな社会価値の創造」を目指すというパートナーシップについて、株式会社SCOグループ 取締役社長の藤本公浩氏、ボルシア・ドルトムント アジア太平洋地域マネージングディレクターのスレシュ・レッチマナン氏らに話を伺った。

ドルトムントならではのユース育成、教育、地域貢献

――まずは今回の提携に至った経緯から教えてください。

藤本公浩氏(以下、藤本):きっかけになったのは2025年の3月、「IDS」という世界のデンタルショーに参加する際に、初めてドルトムントの視察をさせていただいたことでした。ドルトムントは人口60万人ほどの街ですが、スタジアムには8万人、その中でも『イエローウォール』と呼ばれるスタンドだけで2万5000人ものサポーターが集まります。

 この熱狂はどこから生まれているのか、それを支えるカルチャーは何なのかということに非常に興味を惹かれました。 またドルトムントのアカデミーは高名で、育成に長けたクラブとして世界的に知られています。最先端のトレーニングを通して一流選手を育て、また人格教育にも重きをおいている。そうしたところに共感を覚え、何か一緒にできないだろうかと思っていたところ、ドルトムントさん側も、弊社が取り組んできたスポーツとオーラルケア(口腔ケア)をかけあわせたプロジェクトに興味を持っていただきました。

 そこで日本に戻ってからもドルトムントさん側とオンラインミーティングを重ね、最終的に契約するに至りました。

株式会社SCOグループ 取締役社長 藤本公浩氏

スレシュ・レッチマナン氏(以下、レッチマナン):ドルトムントは10年ほど前から日本市場に深く関わってきました。香川真司という偉大な選手が扉をひらいて以来、クラブは日本で大きな存在感を維持していますが、SCOグループと協力することは日本との関係を発展させ続ける上できわめて重要です。

 藤本さんが話したように、私たちは「ユースの育成」に焦点を当てながら、人格形成も含めた教育や、スポーツを通じた地域社会への貢献も重視しています。この点において、私たちとSCOグループには共通のマインドセットとシナジーがあると感じたのです。

――これからどのようなコラボレーションが展開されるのでしょうか。

藤本:私たちはJリーグの各クラブチームと連携してオーラルケア自体の啓発や、オーラルケア専門のクリニックを展開していますが、海外の知見を得られることは日本への還元につながると考えています。アカデミーの運営やトレーニング、教育に関するフィロソフィーやノウハウを学ばせていただきたいと思います。

レッチマナン:私たちのようなグローバルなクラブと組むことで、新しい機会や扉が開くはずです。ドルトムントは2027年から2028年に向けてドイツにヘルスセンターを開設する計画を進めていますので、これはSCOグループにとってもドイツでの足がかりになるかもしれません。もちろんビジネス面だけでなくスポーツ領域も含め、緻密に連携していくつもりです。

ボルシア・ドルトムント アジア太平洋地域マネージングディレクター スレシュ・レッチマナン氏

従来型のスポンサーシップと異なる「パートナーシップ」

――両者が日本と欧州で積み上げてきた実績をもとに、シナジーを生み出すものになると。

藤本:日本と欧州とでは口腔内環境も違いますし、オーラルケアに対する意識も異なると思いますので、さまざまな知見が得られると考えています。そもそも日本の場合は、歯医者に行くのは治療目的がほとんどで、メンテナンス目的で行くという意識は低いのが実情。半年に1回、歯医者さんに通っている国民は半分ほどしかいません。

 しかし弊社ではJリーグの各クラブとの取り組みを通してオーラルケアに対する意識を高め、性別や年齢を問わずに 「行動変容」を起こすことに成功してきました。今回のパートナーシップを通しても、オーラルケアを通じた健康づくり、ひいてはサッカーを通じた健康づくりや地域コミュニティの活性化にさらに貢献できればと考えています。

レッチマナン:そういう意識を高めていくのは非常に重要です。私たちは普段、オーラルケアをあまり重視していませんし、むしろ「ドリルの音が怖いから歯医者に行きたくない」と、大人ですら思いがちです。

 SCOグループが行うオーラルケアの啓発活動は、ヘルスケアの観点はもとより、サッカークラブの運営においても重要になるでしょう。というのも、今回の取り組みは、いわゆるスタジアムに看板を出したり、選手の肖像権を利用するといった従来型のスポンサーシップとは異なり、サポーターや地域コミュニティとの関係をより深く構築するものになるからです。

「健康づくり」「地域活性」など、今後への期待を口にする両氏

――クラブの運営や選手育成・強化まで、さまざまな広がりがありそうですね。

藤本:弊社は口腔内から得られたデータを基盤に、より包括的に健康状態を把握できるシステムを開発しています。これにスポーツのデータを組み合わせると、口腔状態と試合のパフォーマンスにどういう因果関係があるのか、あるいは集中力の有無にどう関係しているかなど多角的な分析を行うことができます。またドルトムントやドイツサッカー界には独自の知見もあると思いますので、弊社が展開してきたオーラルケアのプロジェクトやデータ分析をさらに進化させることも目指しています。

レッチマナン :今回の取り組みは革命的な変化を及ぼすかもしれません。従来、選手入団の際のメディカルチェックでは心臓や筋肉の検査はしてきましたが、口腔内環境まではチェックしてこなかったからです。しかし、オーラルケアは健康管理における重要な要素ですから、今後は取り入れられていく可能性がある。私たちは選手育成においてアドバンテージを得るために包括的なアプローチを採ってきましたので、SCOグループとのコラボレーションから得られるものは大きいのではないかと期待しています。

レジェンド選手も証言「オーラルケアは現代サッカー最後の“マージナル・ゲイン”かもしれない」

ボルシア・ドルトムントのレジェンド選手で、現在はクラブアンバサダーを務めるポール・ランバート氏にも話を伺った。同氏は1996-97年のUEFAチャンピオンズリーグでドルトムントが優勝した際、同試合でマン・オブ・ザ・マッチに輝いた名MFだ。

――現役時代にオーラルケアについて重要性を感じたことはありましたか?

ポール・ランバート氏(以下、ランバート):私は現役時代、試合中に顔面を蹴られて前歯を4本失ったことがある(苦笑)。だからそういう経験を通しても「歯が非常に大事だ」ということを常に痛感していました。サッカーはコンタクトスポーツなので怪我はつきものですが、あの時私を治療してくれた歯科医がいなければ、もっと深刻な事態になっていたでしょうね。

――そもそもサッカー選手は、日頃から口腔内環境を意識しているのでしょうか。

ランバート:正直に言えば、「ノー」でしょう。選手たちはそんなことを考えもせず、試合が終われば家に帰り、普通に歯を磨いて、寝て、起きて朝食を食べ、そして練習に行く。少なくとも私の時代はコンディショニングの一環としてオーラルケアを意識したことは一度もありません。ただし、「意識すべきか?」と聞かれれば答えは「100%イエス」。今はそう断言できます。

――意識すべき理由とは?

ランバート:現代のサッカー界では、「マージナル・ゲイン(小さなアドバンテージ)」の確保が勝負の分かれ目になっているからです。トップレベルになればなるほど、選手たちの実力差は紙一重になる。そこで対戦相手より優位に立つためには、いかに小さなアドバンテージを見出して、活用できるかが重要になのです。

 スパイクの性能であれ、睡眠の質であれ、そしてオーラルケアであれ。 オーラルケアに対する意識を高め、口腔内環境を良好に保つことがパフォーマンスを1%でも向上させ、さまざまな故障やトラブルのリスクを少しでも減らすことにつながるなら、それは勝利へのラストピースになると言えます。

 ましてや今の若い選手たちは、昔よりもはるかに教育されていますし、利用できる情報も多い。私が現役の頃は、サッカー選手のパフォーマンスを上げる手段として「歯」が注目されることはありませんでしたが、今は違います。このパートナーシップがもととなって科学的なメリットが証明されれば、選手たちの意識も確実に変わっていくでしょう。貴重なノウハウがあるのであれば、ぜひ活用すべきなのです。

――現役の頃にオーラルケアのサポートを利用できれば、さらに輝かしいキャリアになっていたかもしれませんね。

ランバート:私の現役時代にこうしたサポートがあれば、間違いなく利用していたでしょうね。正直、歯を大事にしていたらもっと長く現役を続けられたかどうかはわかりません。サッカーの試合はタフですからね。でも56歳になった自分が、26歳の自分にアドバイスをするなら「身体のケアと同じくらい歯も大事にしろ」と言うでしょう。

 人生というのは、歳をとってから初めて、「あの時こうしておけばよかった」と気づくことの連続ですから。だからこそ今の若い選手たちには、私たちが持っていなかったこの「新しい武器」を、ぜひ有効活用してほしいと思いますね。

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