元日本代表ストライカー播戸竜二。ガンバ大阪の練習生としてキャリアをスタートさせ、闘志溢れるプレーとゴールへの嗅覚でファンを熱狂させた彼は、計7クラブを渡り歩き2019年に引退。その後も解説者やJリーグ特任理事、WEリーグ理事として活躍していたが、2026年、新たな挑戦の舞台として選んだのは、人口約11万人の奈良県生駒市からJリーグを目指す「IKOMA FC 奈良」代表取締役社長のポジションだ。
昨年末に行った就任会見から約1か月。なぜ播戸氏はクラブ社長の道を選んだのか、オーナー企業である株式会社SCOグループとの関係、そしてカズ(三浦知良選手)獲得に動き、契約できずとも「良かった」と語る真意とは。現在、壮大な夢のスタート地点に立つ播戸氏に、胸中と覚悟を聞いた。
「社長は孤独」24時間クラブのことを考える日々
2025年12月24日、関西サッカーリーグ1部に所属するVELAGO生駒は、2026シーズンからオーナーを変え「IKOMA FC 奈良」と改名することを発表。さらに、播戸竜二氏の社長就任を明らかにした。2011年から個人のマネジメント会社で社長を務めてきた播戸氏だが、Jの舞台を目指すクラブのトップを務めるのは初めてとなる。
――社長就任の会見から少し時間が経ちました。現在の心境は。
素晴らしい会見を開かせていただいて、多くの方から「社長就任おめでとう」とメッセージをいただきました。情報が世に出たことで、“IKOMA FC 奈良の播戸社長”と認識されるようになったわけですから、「ついに始まったな」と実感が湧いてきたところです。
――どなたかからアドバイスをもらいましたか。
川淵三郎さん(元Jリーグチェアマン)に報告したら「社長は孤独だから、愚痴をこぼせる仲間がいるといいよ」と助言をもらいました。西野朗さん(元ガンバ大阪監督)からは、「苦しめ」という激励もいただきましたね(笑)。
今は頭の中のほぼ全てをクラブのことが占めているような状態です。選手獲得に環境づくり、スタッフの体制など、24時間ずっと考えています。VELAGO生駒から引き継ぐのは契約する選手くらいですから、まだまだイチから作っていくクラブ。スポンサーやサポーターもこれから増やさなければならない。どうすれば愛されるクラブになるか、頭の中で考え続ける日々です。

出会いから4年。「播戸さんが理想とするクラブを作ってほしい」
播戸氏に「社長」としての白羽の矢を立てたのは、メディカルテック企業である株式会社SCOグループだ。同社と播戸氏はどのようにして出会い、社長を任せるまでに至ったのか。その過程には、単なるビジネスパートナーを超えた信頼関係があった。
――オーナーであるSCOグループとはどのように出会ったのでしょうか。
玉井雄介会長と4年ほど前に知人の紹介でゴルフをご一緒したのが最初です。当時、私が出演していたABCラジオ(大阪)でスポンサーを探していて、後日、玉井さんに相談したら「うちがやります」と。スピード感と決断力に驚きました。
その後も、アスリートの食に関する番組を一緒に作ったり、サッカー天皇杯の特別協賛についていただいたりと、仕事を通じて関係を深めていきました。玉井さんもサッカーが地域を元気にし、感動を与える可能性を感じてくれている。私自身も現役引退後から「いつかクラブ経営をしてみたい」という夢を持っていて、それを玉井さんに話していたんです。
――それが今回のオファーにつながったと。
1年ほど前に玉井さんから話があり、「播戸さんが理想とするクラブを作って欲しい」と言っていただきました。お互い細かく「こうしよう」と決めたわけではなく、時間をかけて築いてきた信頼関係と共通理解があったからこそ、実現したわけです。
私は全体を見ますが、基本的なことは現場や運営に任せたいと考えています。バランサーのような役割として、オーナーの想い、クラブのビジョン、そして選手、サポーター、スポンサーの全てがうまく回る形を見つけたい。私自身が「こうするんだ!」と押し付けるのではなく、生駒市約11万人の市民の皆さんと一緒にクラブを作り上げていきたいという想いです。

「勝つこと」と「愛されること」を両立する
「生駒からJリーグへ」を合言葉に、地域密着型クラブとして新たな一歩を踏み出したIKOMA FC 奈良。カテゴリを上げていくには、将来的な新スタジアム建設も構想に欠かせない。クラブの土台を作るためにも、播戸氏は「生駒市のみなさん全員に会いたい」と話す。
――クラブのミッションは「すべては元気のために」。具体的なビジョンは。
まず競技面では、今年はもちろんJFL昇格を目指します。理論上は最短4年でJ1に上がることができますが、スタジアム問題などもあるので、理想と現実を見ながら考えていきたい。ただ、試合に勝たないと注目もされませんし、応援してもらうきっかけになりにくいのも事実。チームには、シビアに結果を求めていきたいです。
――地域との関わりについてはどう考えていますか。
生駒市の約11万人、すべての人に愛されるクラブ作りがしたいですね。その中には、もちろんサッカーに関心がない人もいる。だから、将来的にはサッカーだけではなくて他のスポーツも含め「総合スポーツ型クラブ」になれたらいい。ウォーキングイベントのようなもので関わりを持ってもいいと思います。
戦略はこれからスタッフと考えますが、アナログとデジタルの両軸が必要。アナログで言えば、私自身が駅前に立つかもしれないし、選手一人ひとりが「応援してください」と周りに伝えるのも大切です。デジタルなら、例えばLINEの友だち追加を増やしていくなどスタッフの力を借りながら進めていきたいですね。
――モデルとなるJクラブはありますか。
鹿島アントラーズやサガン鳥栖のように、決して大都市ではないけれど地域に密着して強いクラブを作っている例は参考にしたいですね。水戸ホーリーホックや湘南ベルマーレのような市民クラブのあり方も勉強になる。現役21年間で7クラブに所属し、引退後も多くのクラブを見てきた経験を活かして、良いところを取り入れていきたい。
盟友たちとの船出。「Jの象徴」カズへのオファー
クラブ経営で最も重要なのは「人」だ。播戸社長は、共に戦う仲間として信頼できる元チームメイトを選んだ。そして、世間の注目を集めた三浦知良選手へのオファー。そこで得たものは、「財産になる」と播戸社長は信じている。

――GMに青野大介氏(前愛媛FCフットボールダイレクター)、監督に髙木和道氏(前G大阪コーチ)が就任しました。
二人ともガンバ大阪からヴィッセル神戸時代のチームメイトで、引退後もずっと連絡を取りあっていた信頼できる仲間です。特に髙木監督とは、「いつかクラブをやる時は呼ぶから」と約束していました。彼がどういうサッカーをするか未知数な部分もありますが、人間性を深く理解していますし、長いスパンでチームを一緒に作っていける人物だと確信して任せました。
――カズ(三浦知良選手)への獲得オファーも話題になりました。残念ながら実りませんでしたが...
“良かったな”と思いますね。自分が社長になったら「カズさんを獲りに行きたい」と、一昨年にポルトガルで会った時に本人にも伝えていましたから。「そうなの」って、喜んでくれていましたよ(笑)。58歳という年齢はありますが、Jリーグを象徴する彼と一緒にやりたい、カズさんがクラブに来た時のインパクトも含めて本当に欲しいと思ったので、社長として直談判に行きました。誰にも相談していない。“社長にしかできない決断”をさせてもらいました。
結局3回ほどお会いして、最終的に福島ユナイテッドFCのオファーを選ばれましたが、個人的にはカズさんが「IKOMAでやりたい」と思えるようなクラブにならなければいけないと、改めて勉強になりました。オファーを通じてたくさんのことを話したので、自分なりにも財産になりました。
福島との契約は(特別大会が終わる)6月末までと聞いています。その後はもう一度“(可能性が)あるんちゃうか”と思っていますから、「またチャレンジしたいです」とカズさんにも伝えていますよ。
――最後に、選手たちに期待することを教えてください。
サッカーだけではなく、クラブの力になる動きを期待したい。それは、どんな形でもいい。例えばSNSで発信して集客に貢献したり、スポンサーを連れてきたり。そういったビジネス面での貢献に対しては、しっかりとインセンティブを支払うような仕組みも作りたいと考えています。選手のうちから社会の仕組みを学び、自ら主体的に動けるようなクラブにしていけたらいいなと思います。
IKOMA FC 奈良は、“みんなで創り上げるクラブ”。生駒市約11万人の市民の皆さん、選手、スタッフ。どんな人にも、「生駒にIKOMA FC 奈良があってよかった」と思われるクラブになっていきたいですね。

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