いわきFC 大倉智代表が語る「次の10年」。新スタジアム、フロント増員…さらなる“人づくり・まちづくり”へ

東日本大震災からの復興と、スポーツを通じた地方創生。その大きな理念を掲げて2015年に誕生した「いわきFC」は、福島県社会人リーグ2部からわずか7年でJ2の舞台まで駆け上がり、同カテゴリーに定着する快進撃を見せている。

ただし、代表取締役 大倉智氏は「J1に行くことを目標に置いていない」と断言。より重要なのは「人づくり・まちづくり」のビジョンだと説く。設立からの10年を振り返り、次の10年をどう見据えるか、新スタジアム構想やフロントスタッフの採用にも触れながら、本人に伺った。

◇大倉 智(おおくら・さとし)氏
株式会社いわきスポーツクラブ 代表取締役

日立製作所、ジュビロ磐田、ブランメル仙台、米国ジャクソンビル・サイクロンズで選手としてプレーし、1998年に現役引退。引退後はスペインのヨハン・クライフ国際大学でスポーツマーケティングを学び、セレッソ大阪でチーム統括ディレクター、湘南ベルマーレで社長を務めた。2015年12月、株式会社いわきスポーツクラブを共同設立、代表取締役に就任。

震災復興から始まった「人づくり、まちづくり」

いわきFCの歴史は、2011年の東日本大震災と深く結びついている。「震災直後、Jリーグもストップして、サッカーは生きるために必要ないものにすら思えました。しかし時間が経つにつれて、やはりスポーツや文化・芸術は人の心や健康のために重要だと実感したのです」と大倉氏は振り返る。

その後、株式会社ドームのCEO(当時)安田秀一氏らと出会い、「雇用創出こそ長い目で見た震災復興になる」「スポーツで被災地を元気にする」といった想いを共有。2年間の準備期間を経て、いわきFCは誕生した。

株式会社いわきスポーツクラブ 代表取締役 大倉 智氏。©IWAKI FC

「だからクラブを立ち上げた当初から『Jリーグに行きましょう』と言ったことはありません。いわきFCのビジョンは『スポーツを通じて社会価値を創造する』ことで、いわき市と双葉郡の『人づくり、まちづくり』に寄与すること。震災で失われた絆や未来への希望を、スポーツでつなぐ。そして新しい価値を創造する。そのための手段として立ち上がったのがいわきFCなんです」(大倉氏)

社会人リーグからスタートしたクラブは、共感の輪を少しずつ広げてきた。設立当初わずか5社だったパートナー企業は地元を回り続けた結果、現在約450社近くまで増加。その7割以上が地元いわき市内の企業だ。

観客数も設立当時は200人程度だったのが、今では1試合平均約4400人まで達している。売上は年間15億円規模になり「この10年でファンベースの土台ができて、クラブが地域の『プラットフォーム』になりつつある」(大倉氏)と確かな手応えを感じている。

次の10年の夢を乗せた「新スタジアム整備」

現在いわきFCはJ2リーグで確かな存在感を示している。有望な若手も育つようになったが、大倉氏は「3年後にJ1へ」などといった目標を掲げていない。大倉氏は、規模の拡大はこのクラブにとって最重要課題ではないとも断言する。

「勝つことはもちろん大事ですが、勝つこと自体が目的になってはいけない。理念と勝負は相反する側面もありますが、その目的を間違えないことが結果的にファンを増やすと思っています」(大倉氏)

いわきFCが向き合っているのは、地域や行政が抱えるリアルな課題だ。

「例えば、いわき市では『常磐もの』と呼ばれる高品質な魚介類が高く評価されている一方で、震災以降の風評被害はいまなお残っている。そこで選手たちの食事には積極的に『常磐もの』を取り入れ、選手の身体づくりをサポートしてソーシャルメディアで発信したり、魚捌き教室や海岸の清掃活動を行ったりしている。クラブが動けば行政やマスコミ、ファン・サポーターを巻き込んで、10人の活動が100人になる。それがプロスポーツクラブのできる貢献だと思っています」(大倉氏)

あくまでも地域への貢献を目的として、その達成のためにクラブがある。現在は、次の10年を大きく左右する“新スタジアム整備計画”がある。その計画に乗せる希望もまた、実に“いわきFCらしい”ものだ。

「現在のスタジアムはキャパシティが限界に達しており、事業規模を引き上げるためには、新たなスタジアムが不可欠。ただ、それは売上増やビジネス成長が目的ではありません。主語はあくまで『地域』。スタジアムができることで、この地域がどう変わっていくのか。そのワークショップを地元の方々と色々なところで行っています。長くても2031年までには実現させたい、最も大事なプロジェクトです」(大倉氏)

現時点の新スタジアム整備のパース。多目的広場(図手前)の隣接やビルディング棟(図右奥)の導入など、スタジアム内外で多機能な性質を持つのが特徴。©IWAKI FC

組織も成長。フロントスタッフは20名規模に

クラブが「次の10年」を考えれば、組織も成長が必要だ。スタジアム整備計画、広がるパートナー企業との輪、クラブの事業拡大。その成長に伴い、フロントスタッフも当初の3名から現在は約20名規模へと拡大している。

その過程では、事業部門スタッフとして一人が広く兼務する状態から、法人営業、地域推進(ホームタウン担当)、マーケティングなどと各部署に適切に人員配置ができるようにもなった。大倉氏は地方クラブとしての課題を認めつつ、いわきFCの魅力をこう強調する。

「小さなクラブゆえ人材育成の制度が十分に整っていないもどかしさを抱えているのは事実です。でも、誰かのためになる仕事をできることは、他にはない魅力。『いわきFCを作ってくれてありがとう』と言われた時の喜びは、なかなか味わえません。

 私はこの地域に来て、震災が残した深い爪痕をよりリアルに感じています。ファン・サポーターの中には、身内や友人を亡くされたような凄まじい経験を持たれている。最初は『被災を利用してマネタイズしようとしているのか』と揶揄されることもありました。でも、誠実に向き合い続けた結果、今では街のどこへ行ってもクラブの話題が出て活気に溢れている。その熱量を肌で感じられることは、スタッフ全員の大きなやりがいになっています」(大倉氏)

地域からの熱い応援を受けるいわきFC。現スタジアムで高い収容率を誇っている。©IWAKI FC

そんないわきFCが採用活動で利用したのが、スポーツビジネス特化型の採用サービスHALF TIMEだ。実際、過去半年の間で法人営業とマーチャンダイジング担当が採用に至っている。

HALF TIMEの採用サービスについて、大倉氏は「採用コンサルタントへの信頼感」を高く評価する。「結局、紹介してくれる担当者を信用できるかどうか。HALF TIMEの採用コンサルタントは候補者としっかり面談していて、クラブの状況や求める人物像を的確に伝えた上で、候補者の本音を引き出して、誠実に私たちに共有してくれる。責任を持って人材を紹介してくれている安心感があります」(大倉氏)。

社長の役割は「ブレないこと」。今後10年に向けて

クラブとして10年の節目を迎え、さらなる飛躍を目指すいわきFC。その過程で大倉氏が果たすべきことは何かと聞くと、それは「ブレないこと」だと言う。

「私の役割は、理念やビジョン、ファン・サポーターに対する姿勢がブレないように監視すること。震災という未曾有の危機から生まれ、地域と共に歩んできたクラブですが、正直、10年の歩みの中でその気持ちが風化しかけた時期もあった。

 でもJFLからJリーグに入ったり、次はスタジアムができていったりという転換期では改めてその姿勢を正すことができる。その意味でこの次の10年は、その後の20年、30年へとつながる大事な時間になると思っています」(大倉氏)

ピッチ上だけでなくホームタウンで大きな存在感を示し続けるいわきFCにとって、また大切な次の10年が、始まろうとしている。

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