Jリーグの気候アクション、SPL参画で「スコア化」が開始。サステナビリティ開示で60クラブの頂点に立つのは?

Jリーグは昨年4月、サッカークラブの気候アクションをスコア化する国際的なイニシアチブ「Sport Positive Leagues(スポーツポジティブリーグ:SPL)に、世界で5番目・アジアで初めて参画をすることを発表。2026特別シーズンから正式エントリーとなるに向け、評価基準やランキング発表について、1月に主催したカンファレンスで明らかにした。(取材・文=守本和宏)

Jリーグがアジア初の挑戦。気候アクションを「スコア化」

先月1月28日に行われた「サステナビリティカンファレンス 2026」。ここでJリーグは、アジア初となる“新リーグ”参画の詳細について明らかにした。その名も「Sport Positive Leagues」。近年の異常気象や気温上昇に対して各チームの様々な気候アクションを12の領域に分類して点数化。結果をランキング形式で発表し、優勝チームを決めるものだ。

例えば、「使い捨てプラスチックの完全廃止」をスタジアムなど全施設で実行していたら『2ポイント』。その活動をファン・サポーターと交流し促進したら『+1ボーナスポイント』など(本当の採点はもっと細かいが割愛。詳しくはSPL特設ページ参照)。各チームの環境への取り組みが、SPL独自のスコアリングシステムで評価される。

ユニークなのは、良い取り組みに関して積極的に事例共有を推奨している点だ。従来は良し悪しが判断しづらかった環境活動も、客観的な評価にもとづく点数がつけば「これは効果的だ」と理解されやすい。Jクラブ間の横展開につながりやすく、結果的にサステナビリティ(持続可能性)促進のうねりを生み出す、新たな仕組みになる。

カンファレンス冒頭、Jリーグの野々村芳和チェアマンは気候変動対策の必要性を強く語りかけ、SPL参画の経営効果にも言及した。

「スポーツの土台となる自然環境が、以前とは確実に変化している。(猛暑などで)子どもたちのプレー環境が制限され、週末の楽しみが奪われかねない。今こそサッカー文化を守るために動かなければなりません。

 近年、社会問題や環境に向き合うことが企業との関係を深め、新しいパートナーシップ構築にもつながっています。それが結果として、クラブやリーグの価値向上に寄与します」

気候変動問題は、誰か1人で解決できるものではない。“みんなで勝つ”ものだと強調し、気候アクションの重要性を呼び掛けた。

国際イニシアチブ「Sport Positive Leagues」とは

そもそも、「SPL」とは何か。カンファレンスのため来日したSport Positive創設者兼CEOであるクレア・プール(Claire Poole)氏は、SPL参画のメリットについて、こう説明した。

「SPLは、スポーツ界全体が気候変動に対してどのようなアクションを取っているかを数値化し、それを促進するためのプラットフォームです。ピッチ上で勝利を目指すのと同じように、環境対策でも互いに高め合う。このポジティブな競争こそが、変化を加速させるエンジンになります」

Sport Positive 創設者兼CEO クレア・プール氏。写真提供=Jリーグ

SPLは2018年創設。その成長を見守ってきたプール氏は、現在の形式が生まれた経緯を語る。

「当時、多くのクラブの環境活動は世間に知られておらず、私は各クラブに『サステナビリティの取り組みを可視化し、目標水準を高めよう』と提案したのです。2019年11月にBBCのニュースで取り上げられ、大きな反響がありました。BBCから『分厚いレポートは誰も読まない』と言われ、リーグテーブル(順位表)形式に辿り着いたのです」

実際、その活動の輪は広がっている。リバプールは2021/22シーズンに25%だったペットボトル回収率が99%まで上昇。以前SPLで18位だったサウサンプトンFCは悔しさを糧に今ではリーダー的存在へ成長。現在はプレミアリーグ全20クラブにサステナビリティ担当者が配置されるようになった。

これらの結果からプール氏は、スポーツが持つ「ファンの影響力」が最大の武器だと話す。

「SPLが採用するランキング形式は、スポーツファンにとって馴染み深く、強力なフックとなります。“自分のクラブの取り組みを誇りに思う”というファンの熱量は、パートナー企業にとっても魅力。サステナビリティをビジネスの武器として捉える必要があります」と、アピールした。

カンファレンスには約170名が参加。Jクラブ以外にも、野球、バスケなど他競技、また企業の参加もあった。写真提供=Jリーグ

“正しくないことはしない”基本理念を貫いた英クラブ

プール氏が示した戦略を、具体的かつ実践的なビジネスモデルへと落とし込んだのがピーター・スミス(Peter Smith)氏である。

スミス氏はブリストル・スポーツ・グループに17年間在籍。選手発掘からスタジアムの再開発まで、クラブ経営の根幹を担い続けてきた人物だ。グループが所有するブリストル・シティFCは英2部相当のチームだが、2022/23シーズンのSPLで英EFLの全72クラブ中2位を獲得した先進クラブである。

「現場を見てきて断言できるのは、サステナビリティは経営を圧迫するコストではない、ということです。むしろクラブのアイデンティティを強固にし、新たな収益を生み出している。これは単なる環境保護ではなく、クラブが地域社会にとって必要な存在であり続けるための、戦略的な要素といえるでしょう」(スミス氏)

ブリストル・シティFC サステナビリティ担当責任者 ピーター・スミス氏の講演。写真提供=Jリーグ

例えば、エネルギーや水の使用削減は環境への負荷を下げるだけでなく、クラブの資金節約に直結した。さらに、環境に配慮するクラブの姿勢がファンの信頼を獲得。フードに関しても多少価格が高くてもサステナブルな商品を選ぶ人たちが増えている。

「容器の価格が10ペンス高くても、妥当な理由があればファンは納得して購入してくれます。劣悪な労働環境で作られた安価な製品は扱わないなど、“正しくないことはしない”基本理念を貫いた結果、世界的な大手銀行スタンダード・チャータードのようなパートナーとの連携構築につながりました」(スミス氏)

このスミス氏の考えは、Jリーグクラブも学ぶことができる。地域密着型クラブにとって環境問題への取り組みは、住民・企業との絆を構築するツールになり得る。SPLという物差しによって、抽象的だった「地域貢献活動」は、客観的な価値を持つ経営データに進化するのである。

Jクラブの現況「スクールが3カ月で65クラス中止」

会の中ではパネルディスカッションも行われた。Jクラブからはセレッソ大阪、ジェフ千葉が登壇。写真提供=Jリーグ

すでにJリーグクラブの現場でも具体的なアクションが起こっている。パネルディスカッションでは、セレッソ大阪とジェフユナイテッド市原・千葉の事例が共有された。

セレッソ大阪の宮島武志副社長は、「未来の子どもたちにサッカーができる環境を残す」ことを掲げ、まずは環境問題を知ることから始めたと語る。

「社員や選手全員がサステナビリティ検定を受験するなど意識改革を徹底し、現在ではスタジアムグルメでのプラスチック削減状況の見える化や、生ゴミから肥料を作って野菜を育てるなど、ファンに見える形でのアクションを展開しています」

一方、ジェフユナイテッド市原・千葉の高橋薫取締役は、昨夏の猛暑や雷雨によりクラブ主催のサッカースクールが、夏季の3カ月で65クラスが中止になったと発言。これが「気候問題はクラブ経営にダイレクトに響く」というトリガーになり、取り組みを加速させた。

「千葉市と連携して割り箸の回収・再燃料化などを行っています。また、昨シーズンは親会社のJR東日本と連携して、電車の利用を促すデジタルスタンプラリーを実施しました。これは公共交通機関の利用促進につながるので、J1にあがった今年も実施したいです」

これらの取り組みに対して、プール氏は「日本のクラブがこれほど多様な取り組みを始めていることに感銘を受けた」と評価。スミス氏も、データ収集の難しさに頭を悩ませる両クラブに対し、「我々も苦労している。完璧なデータを待つのではなく、今あるリソースで進めることが重要だ」と、実体験に基づくエールを送った。

Jリーグが持つ発信力で「社会システム」を変える

SPLは今後、2026特別シーズンにあわせて1月から6月までの期間を対象に、気候アクションの活動について情報収集と評価が行われる。10月以降に結果の公表を予定し、60クラブの中から初代王者が決まることとなる。初回となる今回は上位20クラブが発表される。そして2026年7月からは、SPL2026/27シーズンが始まる予定だ。

ただ、このランキングの本当の目的は、順位を競うことではない。気候変動という巨大な課題に対し、どう解決していくのか。どこかのクラブが良いやり方を見つけたら、それをみんなで共有して、リーグ全体・日本社会全体で環境を改善していく。つまり「全員で勝つ」ための仕組みが、このSPLなのである。

Jリーグ執行役員(サステナビリティ領域)の辻井隆行氏は、日本サッカー界が担うべき役割を次のように語った。

「社会全体の中で見ると、例えばJリーグ・クラブが実際に削減できるCO2排出量はごく小さいかもしれない。ただし、Jリーグには“発信力”がある。年間1350万人も来場していただいてるファンやサポーター、自治体、学校、金融機関、そして企業の皆様と一緒に、社会システムを変えることに力を使うのが大事だと思っています」

Jリーグ 執行役員(サステナビリティ領域)の辻井 隆行氏。写真提供=Jリーグ

そして、カンファレンスの締めくくりに、挑戦する大切さを示した。

「SPLを視察した際にイギリスで心に残った言葉に『Progress over perfection(完璧さよりも前進)』という言葉があります。完璧でなくても、知識がなくても、未来のために声を上げる。そんなJリーグでありたいと思います」(辻井氏)

Jリーグはサステナビリティの推進に向けて、日本財団からの助成金を活用している。日本財団の笹川順平理事長からは大きな期待も語られた。

「Jリーグ、そして全国に広がる60のチームは社会貢献の重要な担い手になる。地域に密着し、地域の課題を解決するパッションと技術を持つ、数少ない団体であると認識しています。日本財団も社会をより良くするため、一緒にこの活動にコミットしていきたいと思います」

公益財団法人日本財団 理事長 笹川 順平氏。写真提供=Jリーグ

一人ひとりが環境に対する意識を持ち、行動を持続すること。それこそが、未来の子どもたちが安全にスポーツを楽しめる環境作りにつながると信じて、Jリーグはクラブと共に前進していく。