「スポーツと教育」というテーマにひとつだけの正解はないが、テクノロジーが発展する一方、スポーツのできる環境は減少しつつあるなど、取り巻く社会環境は急速に変化している。それに伴い、スポーツを通した教育的価値も再定義が求められている。
今月開催された「Global Sports Business Summit 2026 presented by SCO Group」では、宮本恒靖氏、本田圭佑氏、岩政大樹氏といった現役・元アスリートに教育者も加わり、スポーツが持つ真の教育的価値について熱い議論を繰り広げた。
AI時代に問われる教育の本質とスポーツが果たす役割
サミットの当該セッションでモデレーターを務めた森村國仁氏(アクティブライフアドバイザリー株式会社 代表取締役社長)は導入として、こう方向性を提示した。
「AI時代だからこそ、身体性を伴うスポーツの教育的価値が光る。小学生から大学生、そしてグローバルな舞台に至るまで、スポーツがいかに人間の自立と成長を促せるのか、多角的な視点から議論したい」(森村氏)
これを受けて、株式会社SCOグループ 代表取締役会長 兼 社長の玉井雄介氏は、「子どもたちが公園や原っぱで自由に遊ぶ機会が減った現代において、スポーツを通じて主体性や感謝、友情を育む環境を大人が用意することは極めて重要。教養とスポーツを分断するのではなく、一体化させて子どもたちの人間力を育んでいきたい」と訴える。
その議論で、ひとつの中核となったのが、本田圭佑氏が仕掛ける4人制サッカーの大会「4v4」だ。
「監督なし・10分一本」が育む、子どもの思考力と決断力
今季シンガポールのFCジュロンに加入してプレーを続けながら、NowDo株式会社の代表取締役社長を務める本田圭佑氏は、自身が立ち上げた10歳以下・12歳以下対象のサッカー大会「4v4」に込めた教育思想を語った。
「現代の子どもたちは習い事に囲まれ、大人の指示を待って動く傾向が強まっている。4v4ではあえてベンチに監督やコーチを置かず、交代や戦術決定をすべて子どもたち自身に行わせる。さらに10分一本勝負という高いインテンシティ(強度)を設けることで、ピッチ上で自ら思考し、瞬時に決断する力を養っている。自分で決めて行動し、結果に責任を持つ体験こそが成長の原動力になる」(本田氏)
今後はアジア各国へもこの大会を拡張していく展望を明かした。
「勝負の真剣味の中でこそ、子どもたちの非認知能力や思考力が育まれる」との本田氏の主張に、登壇した各者も実際の体験から言葉を綴る。
「同意することはたくさんあります。ピッチ上で考えて動くのはとても大事なこと(宮本氏)」「昔は社会から自然に受け取っていたものが、今はもう時代的に望めない。何かしらのプログラムとして子どもたちに落とし込まれていくのが重要だと思っている(岩政氏)」など、愛情と危機感も込めた意見交換がなされた。
これについて、欧米の最新教育知見と科学的アプローチからスポーツの価値を分析したのがスタンフォード・オンラインハイスクール校長の星友啓氏だ。
「オンラインで世界約50ヵ国の教育を見ているが、スポーツは教育において最後に残された聖域。スポーツは精神的な要素が強いと思われがちだが、科学ベースでもスポーツが脳に及ぼす影響は大きく、運動は集中力や記憶力、自己肯定力を高めることが研究されている。
また、欧米でもスポーツは探究学習のひとつと捉えられている。答えがない状況で自ら問いと仮説を立てて判断・行動する力を養う際、言われたことだけをこなす環境では十分な成長が望めない。スポーツが養う主体性は大きな価値がある」(星氏)
日本のスポーツ指導現場に求められる「認知と判断」
大卒でJリーグ入りし日本代表にも選出、現在は母校の東京学芸大学蹴球部で監督を務める岩政大樹氏は、日本の現場指導における課題を指摘しながら、自身の指導哲学を提示する。
「日本のスポーツ指導は、フォームやテクニックといった『動作(出力)』の矯正に偏りがち。しかし本来大切なのは、なぜそのプレーを選択したのかという『認知と判断(入力・統合)』の部分。指導者が答えを与えるのではなく、選手に問いかけ、思考させることで初めてプレーが自分ごと化される。大学サッカーの現場でも、自ら課題を発見し解決できる人間の育成に注力している」(岩政氏)
さらに本田氏からは「日本の指導者の競争力を高めるため、ライセンス制度の柔軟化やイノベーションが必要だ」という鋭い提起もなされた。
宮本恒靖氏が考える「スポーツが持つ大きな力」
同じくサッカー日本代表として活躍し、現在は公益財団法人日本サッカー協会 会長を務める宮本恒靖氏は、自身のサッカーを通した学びと現役引退後の「教育」へのアプローチの実例を紹介した。
「私自身も10歳でサッカーを始めてのめり込み、自分の足りない部分を客観的に分析して課題を克服していく経験を重ねた。それが評価されて上のカテゴリーに引き上げられるというサイクルに入ったことが、成長の土台となった。それはスポーツが持つ、大きな力だと思っている。
また引退後にはFIFAマスターで学び、スポーツでの国際貢献を目的としたNPO法人を創設。旧ユーゴスラビアの紛争地にサッカーアカデミー「Mali Most(マリモスト)」を立ち上げた。そこでは対立していた異なる民族の子どもや親たちがボールを通じて集い、絆を取り戻していった。スポーツは自己の成長だけでなく、社会の分断を修復する力も持っている」(宮本氏)
これからも尽きることなく、改善・議論されていくであろう「スポーツと教育」。そこには唯一解があるわけではないが、最後に森村氏は「スポーツを通じた教育は、変化の激しい現代において日本の未来を切り拓く最大の投資である」とまとめ、セッションの熱い議論を締めくくった。
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