【前編】東京ヴェルディと横浜FCが始める、新たなスポンサー営業の形とは?

プロスポーツクラブではスポンサーシップが大きな収入源の一つで、その重要性は増すばかり。他方、異業界では自らのスキルや経験をスポーツ界で活かしたいと考えるビジネスパーソンは少なくない。これを背景に、東京ヴェルディと横浜FCが新たに始めるのが、「複業スポンサー営業」の人材募集だ。新たな外部人材の活用で、クラブの一層の成長を――。東京ヴェルディ パートナー営業部の佐川諒氏と、横浜FC マーケティング部の松本雄一氏に、HALF TIMEの熊谷童夢が聞いた。

Jリーグクラブ・フロントスタッフの仕事とは

写真提供=東京ヴェルディ

熊谷童夢(以下、熊谷):Jリーグクラブのフロントスタッフの仕事は、一般的にあまり知られていないかもしれません。まず初めに、お二人のクラブでの役割を教えてください。

佐川諒(以下、佐川):仕事は大きく二つに分けられますが、ひとつがスポンサー営業の新規開拓と既存顧客のアクティベーション運営、そしてそれを担うスポンサーセールス部門のマネジメントです。もうひとつは、ヴェルディカレッジ(注:学生向けのビジネススクール)事業の責任者も兼任しています。割合としては、営業が7、ヴェルディカレッジが3ぐらいですね。

松本雄一(以下、松本):私は営業ではなく、マーケティング部の所属です。SNS運用、ホームページ改修、顧客データベース(MKDB)を活用したメールマーケティングなどデジタルをメインに、試合の集客とイベント企画、ポスターデザインなどオフラインも含めて、マーケティング活動全般に関わっています。

スポンサー営業との関わりとしては、ホームゲームへの協賛獲得に向けて、新規開拓を行っています。ただ、スポンサー営業との関わり方はまだ仕組み化されておらず、マーケティング部と分担されてしまっている部分が多いので、今後より関わりを深めていきたい部分です。

熊谷:佐川さんはクラブのスポンサー営業としての主担当、松本さんはスポンサー営業と協働する立場ということですね。

サッカークラブへの転職は「強み」を武器に

東京ヴェルディ 佐川諒氏(左)と横浜FC 松本雄一氏(右)

熊谷:お二人はスポーツ業界への転職組だと聞きます。これまでの経歴についても伺えますか?

松本:実は佐川さんとは同い年で、今年で33歳になります。幼稚園から高校までサッカーをプレーして、大学でもフットサルをしていました。新卒で株式会社カネボウ化粧品に就職して約4年ほど石川県と神奈川県で営業を担当した後、今後活躍するためにビジネススキルをもっと身につける必要があると思い、(インターネット広告代理店の)株式会社サイバー・バズに転職しました。それからはデジタルマーケティングのプランニングをずっとやってきています。同社では、広告メディア事業の局長として、化粧品会社や大手メーカーのウェブプラニングを5年間担当しました。

佐川:私はサッカーをずっとプレーしていたわけではなく、中学で辞めています。その上のレベルでは難しいと思い、高校進学のタイミングで断念したんです。ですが、大学2年生の時に、当時通っていた大学がヴィッセル神戸とパートナーシップを結んでいた事もあり、スポーツビジネス講座を受講していました。クラブ職員やスポンサーシップ担当者が大学でスポーツビジネスにまつわる授業をするものです。また、翌年からヴィッセルカレッジというスポーツビジネス講座も受講し始めました。

もともとヴィッセル神戸は(ファンとして)好きなクラブでしたが、スポーツチームで働くという選択肢があることを、その時初めて知りました。『裏方でスポーツを仕事にしたい』という夢を漠然と持つようになったんです。そして、ありがちですが(笑)、スポーツという軸で就職活動を行い、某Jリーグクラブのホームページを作っているITベンチャーにご縁をいただきました。

『スポーツに関わる仕事ができる』と思っていたのですが、ちょうどリーマンショック後の2009年頃だったので、なんと入社3日前に『会社が潰れるかもしれない』と人事に言われて一旦自宅待機になったんです(笑)。結局ゴールデンウィーク明けに仕事を開始することになりましたが、スポーツに関わる機会は全くありませんでした。そうこうして2ヶ月経った頃、役員に呼び出されて『もう給与は払えない』と告げられ、“クビ宣告”になったんです。

その後神戸のIT企業に転職しましたが、スポーツに関わる仕事がしたいという想いは変わりませんでした。そんな時、ヴィッセルカレッジのOBと共に、サッカー教室やアスリートの社会貢献活動を支援するNPOを設立して、複業的にそこで3年ほどスポーツを仕事にする機会を創っていました。

そして25歳になった時、いよいよ大学時代に思い描いていた“Jクラブで働く”という夢を実現するために、8クラブくらいに自分を売り込みに行ったんですが、何も通用しないという現実を目の当たりにしたんです。『何が出来るの?』と聞かれた時に『これです』と一言で言える武器が何もなかった。そこで圧倒的な営業力を付けるために、そして将来的にアスリートのキャリア支援を行うためにも、人材業界で一番大きな会社であるリクルートを目指すことにしました。

Jクラブへの転職のきっかけ

松本雄一(中央):横浜FC マーケティング部 ファンディブロップメントグループ兼デジタルマーケティング推進室室長。カネボウ化粧品で営業を担当した後、サイバー・バズでデジタルマーケティングのプランニングに従事。2019年横浜FCに転職し、マーケティング全般をリードする。

熊谷:松本さんはデジタルマーケティング、佐川さんは営業という強みを磨いていったわけですね。その後、どのようなきっかけで今のサッカークラブへの転職が決まったのでしょうか。

松本:きっかけは、Jリーグが発足したビジネススクールのスポーツヒューマンキャピタル(SHC)でした。半年間スクールに通い、その時たまたま出席したJリーグの25周年イベントで、今の横浜FCの社長(注:代表取締役社長COOの上尾和大氏)とワークショップで偶然同じテーブルに座ったんです。そこで初めて出会い、誘ってもらったという感じでした。その後1年ぐらいは答えを出せずにいたのですが、チームが仕掛ける様々な改革の中にデジタルマーケティングが必要ということで、今年の5月に決断することができました。

佐川:私の場合は先ほどの通り、なんとかリクルートに転職することが出来て、人材紹介の仕事と、大学を回って学生に就職支援のガイダンスをする仕事を、4年3ヶ月していました。そして30歳を迎えたタイミングで、たまたまヴィッセルカレッジに通っていた当時の同期が東京ヴェルディで働いており、『営業としてうちに来ないか?』と声を掛けてもらったのがきっかけでした。

熊谷:サイバー・バズは当時サイバーエージェントのグループ会社。リクルートは言わずもがな業界大手です。大手企業からクラブに転職する際に、懸念点や不安はなかったのでしょうか。

松本:私は大手の化粧品会社からサイバー・バズに移った時は転職への懸念点はありました。でもそこで実際働いて、自分の市場価値を高めていく中で、どこに出ても大丈夫という感覚を持つことができたので、クラブに入る決断ができました。

クラブでの働き方は、フレックスで時間的制約はなく、定時に仕事を終えることも多いです。お金の部分で少し悩みましたが(笑)、このチャンスを逃すともうクラブで働くことはないと思い、転職に踏み切りました。

佐川:私は1社目のキャリアも話した通りなので(笑)、色々な経験をしてきたからこそ、割と環境にこだわりなく、どこでも生きていけるなという感覚がありましたね。リクルートという大手企業も経験し、NPOでスポーツの仕事をゼロから作ることもしてきましたし。

(クラブへの転職については)むしろ自由になる感覚の方がありました。ずっと趣味として想い続けてきたことを仕事に出来るという、ワクワクが強かったです。唯一の懸念点はずっと関西で働いていましたので、東京に移ることだけでした(笑)。

働くクラブを選ぶ その決め手は

佐川 諒(左):東京ヴェルディ パートナー営業部 パートナー営業グループ ディレクター。ITベンチャー入社後、副業でNPO法人GIFTを立ち上げ、フットサル教室の運営、カンボジアでのサッカー大会の企画運営や大学生のキャリアスクールなどを推進。2013年にリクルートキャリア入社後は、法人営業や学生のキャリアガイダンスに従事。2017年東京ヴェルディに入社し、主にスポンサー営業を担当。

熊谷:これまでの実務経験が、どこでも通用するという自信につながったんですね。それではお二人にとって、現在のクラブを選んだ決め手は何だったのでしょうか。

佐川:親会社のないチームというのは条件の1つでした。自分が裁量権を持つことで得られる意思決定のスピードにこだわっていたからです。そして、女子チームを持っていることも条件でした。以前、リクルート在籍時も女性の求人などを多く担当していて、女性活躍という観点でも女子サッカーの普及にも携わりたいと思っていたんです。東京ヴェルディはその二つに当てはまり、且つ首都にあるというポテンシャルもあり、非常に魅力に感じたんです。

あとは、もともとヴィッセルカレッジに通っていましたので、将来同じような学生が本気でスポーツに関わる事が出来る仕組みを作りたいと思っていました。人材育成にこだわりのあるクラブという意味でも、東京ヴェルディは当てはまったんです。ですので、昔から(現職のクラブが)好きだったというよりも、企業のビジョンと自分ができること、そして動きやすいかどうかで決めました。

松本:私も特にチーム(横浜FC)のファンだったということはなく、社長からお誘いを受けた時に感じた魅力は、指示されて動くのではなく、色々物事を変えていく一番近い場所にいることができるということでした。外から入る身としては、チャレンジすることを受け入れてくれる環境があり、それを応援してくれる社長がいたというのが理由ですね。

東京ヴェルディと横浜FC スポンサー営業の実際

熊谷:クラブでのスポンサー営業についてさらに聞いてみたいと思います。営業面では、新規顧客の開拓と既存顧客の拡大が2つの大きな活動になると思いますが、お二人のクラブではいかがですか?

佐川:新規開拓の場合、戦略なくとりあえず当たりまくるという形にしないことが重要です。それぞれの業界とヴェルディとの共通キーワードを考え、先方の課題や目指したい姿に対してヴェルディを打ち手にしたソリューションを仮説立てながら提案しています。一方、既存のお客さんには、契約交渉の時に改めて上記ソリューションを再設計して、年間の定性定量の振り返りがしっかりとできれば、相手のリアクションが大きく変わるなとすごく感じています。つまり、相手の課題を解決できるソリューションを提供することにきちんと向き合えば、新規も取りに行けるし、さらに既存のお客さんとの取引を大きくできるというのが考え方です。

松本:横浜FCの特徴としては、スポンサー収入の8割を一部のスポンサー企業で賄って頂いている状態で、社長など経営陣からの横のつながりで広がっていくスポンサーが非常に多く、BtoBが中心になっています。ヴェルディさんのように戦略を立てて新規を取りに行くということは、あまり出来ていない印象ですね。基本的には既存対応が多く、現在は更新に向けて動いているという形です。そこに一番、課題を感じますね。

「複業スポンサー営業」の新たな取り組みの真意

写真提供=横浜FC

熊谷:今回両クラブでは、Jリーグクラブで初めて、複業スポンサー営業の人材を募集するという新たなプロジェクトを、HALF TIMEで実施します。取り組みについての想いを聞かせていただけますか。

松本:まず、個人的にクラブ運営の課題と感じていた、“強化費以外の予算を生み出す”ことを、一緒に実現してくれる人を増やすという取り組みに共感しました。自分たちのクラブで営業を増やせたら良いのですが、限界がありますので、外部の力は非常に重要だと思っています。

私もそうでしたが、外部人材はクラブに入ることに対して不安があったり、あるいは費用面でクラブの体力では補えない優秀人材も多く存在します。今回のように外部から色々な力をもらえるというのは、やらない理由がないですね。

佐川:東京ヴェルディの話としても、人が欲しくてもなかなかクラブが採用することができない現状があります。そのため社外でチームを作ろうという発想に変わっていて、現在も、実際にスポンサー企業の課題を聞き出して壁打ちができるような人材が一人、社外から加わってくれています。同じマインドを持ってくれる人があと何人かいると、より多くの接点を作っていくことが出来て、売上アップへつなげていける自信があります。

熊谷:実はこのインタビューの前にも、HALF TIME上で募集をオープンしています。既に多数の応募があり、何名かとお話をさせていただきましたが、例えば大手企業で営業マンとして働いている方々は、もともと法人や経営者とのつながりが多く、アプローチできる先が多い。最近では複業を解禁している企業も増えてきています。現在の仕事を続けながら、好きなスポーツに関わりたいという熱い想いを持つ優秀人材は多いので、お互いにWin-Winになるこの取り組みは、今だからこそ実現できると思います。

佐川:私自身は、異業種からの転職組としてスポンサー営業で成功した、ロールモデルになりたいと思っています。スポンサー営業は世の中から見えにくい仕事で、目指す人がまだまだ少ないんです。ですが、クラブを急速に成長させる規模の売上を作ることができ、会社を変えるインパクトさえ持っています。そんな責任感がある仕事なので、私は楽しいと思ってやっています。間接的に関わることでその楽しさをぜひ知ってもらい、目指す人を増やしたいですね。

前編では、東京ヴェルディの佐川氏、横浜FCの松本氏の両名に、これまでの経験から現職でのスポンサー営業との関わりについて聞いた。後編では、スポンサー営業の役割についてさらに深掘りし、クラブにとっての価値や今後の発展可能性などを詳しく伺っていく。

◇聞き手=熊谷童夢:HALF TIME 最高執行責任者(COO)。日本生命でセールス及びセールスマネージャーを務めた後、PR TIMESでスポーツチーム・団体のPR支援を行う「SPORTS TIMES」を立ち上げ。日本プロ野球、Bリーグ、Jリーグ、Tリーグなどのキーアカウントを担当し、80団体以上とのパートナー契約を実現してきた。


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