データが物語る日本ラグビーの未来像(4)プロ化に踏み切るべきなのか?

アジア初となるラグビーW杯開催、そして新たなプロリーグ構想の発表。日本ラグビー界に変革の追い風が吹いている。はたして日本ラグビーはいかなる可能性を秘め、何を目指していくべきなのか。長年、観戦者調査を実施してきた早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授に、日本スポーツマネジメント学会での調査報告に合わせて、未来への指針について聞いた。(聞き手は田邊雅之)

前回インタビュー:データが物語る日本ラグビーの未来像(3)「興行権」という最大の問題

企業スポーツならではのメリットも 広い視野必要

Rugby

――ここまで一連のお話を伺っていますと、地域密着型への移行とスポーツビジネス的な発想をチームに浸透させていくことを考えた場合、企業スポーツやアマチュアリズムを軸にした、従来の日本ラグビーの在り方そのものが大きな争点になる印象を受けます。今年7月末にはトップリーグのプロ化構想が提示されて、大きな話題を集めました。この点についてはいかがですか?

「そこの議論は難しいですね。企業スポーツは日本らしいというか、日本独自の在り方の1つとしてスポーツ界全体を支えてきたものですし、全てが悪いわけではなくて、良い点もかなりありますから。

例えばよほど能力の高い選手はプロチームに移行してもいいと思うのですが、なかには将来に不安を感じている選手ももちろんいる。そういう選手にとって、企業スポーツという体制は安心できる枠組みにもなっている」

――特にラグビーは怪我が多いし、選手寿命がそれほど長いわけでもない。しかもサッカーのように、海外でいきなりプレーできる選手が多いわけではないので、企業スポーツは受け皿と言うか、一種のセーフティーネットになってきましたね。

「そう。だからトップダウンで一気にプロ化に移行するというやり方もあるでしょうけど、今の良い部分もよく見ながら、徐々に形が変わっていくという流れもいいかなと思うんです。従来の企業スポーツの良さを活かしながら地域密着を図っていく。具体的には、チームが企業からある程度自立して地域密着を図っていけるのであれば、必ずしもすぐにプロ化しなくてもいいのかなと思いますね」

――現実的なアプローチとしては、ラディカルにプロ化に移行していくというよりも、企業ベースは企業ベースで構わないので、試合の興行権を与えて、もう少し数字を意識させるとか、そういうところから改革を進めていくと。

「確かにチームの運営が独立した時点で、企業スポーツという枠組みにはならないのかもしれない。でも、例えば企業の子会社みたいな形でもいいので、企業のバックアップを受けられるような状態を維持しながら、そこがチームを運営したり、集客も全部やるという形にしていく。ちょっと都合のいい話かもしれませんが、そういう枠組みがあれば、みんな安心できるかなと思うんです」

プロ化構想を実現させるための焦点は

Katsuyuki Kiyomiya
Japan Rugby Football Union
JRFU
SPORTS X Conference
日本ラグビーフットボール協会の清宮副会長は、7月のSPORTS X Conferenceで新プロリーグ構想を明らかにした。撮影=HALF TIME

――では、清宮克幸氏(日本ラグビーフットボール協会副会長)が掲げられたプロ化構想全体についてはいかがですか?

「エンターテインメント性、プレーの質が上がるという点では、外国人選手が沢山プロリーグの中に入ってくるのは、それはそれでいいかなと思います。ラグビーファンは喜ぶでしょうしね。

ただ先ほども話に出たように、もともとラグビーをあまり知らない新しいファンの獲得を考えたときには、世界トップレベルの選手と日本のトップレベルの選手の違いはあまり分からない。実際には、ラグビーを知らない人が目の前で激しいプレーを見たら、大学生のプレーでも凄いなと思いますから。

それとこれも繰り返しになりますが、やはり地域密着をどうするか。新しい構想では全国各地に拠点を作るという話もあるようですが、今回W杯が開催される12都市にしても、各地域の実情を見ながら、どう拠点にするかを考えていく必要がある。本当にいきなり顧客が集まるかどうかは難しいところだと思いますので」

――九州などは確かにラグビーが盛んですが、パイ(人口)自体が少ないので、食い合いになってしまう危険性もある。

「そうですね。一昨年、我々は大分や熊本でもラグビー観戦者の調査をしたんです。大分などの場合は2万人近くのお客さんが入っているといっても、そもそも無料招待などの動員がかなり多く、その中には中学生も含まれているため入場者の平均年齢がぐっと下がるようなケースもあって。

それを考えれば、トップリーグのチームを仮に持ってこようとした場合には、本当にみんなお金を払って見に来るのかということを考えていかなければならない。お金を払ってラグビーを見るという文化が根付くかどうかというのは、その町の状況を見極めていく必要がある。そういう実情を考えると、トップリーグをプロ化するにしても、最初はもう少し拠点が少なくともいいかなと思いますね」

トップダウン式のラディカルなプロ化ではなく、企業スポーツのメリットも活かした、段階的でリアリスティクな移行へ。それがプロ化を成功させる鍵と松岡教授は話す。次回は都市部においてラグビー人気を根付かせる難しさについて伺う。


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