大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所が主催する「スポーツイノベーションアカデミー」がこの9月、セレッソ大阪との共催で第3期プログラムを開講する。近年ではプロスポーツが興隆するなど受け皿が大きくなるなか、スポーツビジネスの知見をもった人材のニーズは高い。受講生の募集開始にあたり、Jリーグ理事、Bリーグチェアマンを歴任し、現在は同研究所理事・びわこ成蹊スポーツ大学 学長の大河正明氏に、アカデミーについて聞いた。
「Jリーグ、Bリーグの経験を伝えていく」
この10年、国内でスポーツビジネスを学べる環境は格段に増えてきている。Jリーグが発足させたスポーツヒューマンキャピタルや、大学などの教育機関、最近では各スポーツクラブの講座も誕生している。そんな中、大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所が開催する「スポーツイノベーションアカデミー」の特徴は、まず大河氏自身の存在にある。
「これまでJリーグとBリーグで100以上のクラブを見てきて、200人以上の社長と膝を突き合わせて話をしてきました。熱が覚めないうちに、この経験をプロスポーツを目指す人にお伝えできたら」
大河氏は三菱銀行(後の三菱UFJ銀行)に長く勤めたあと、Jリーグ常務理事、日本サッカー協会理事、日本バスケットボール協会専務理事・事務総長、そしてBリーグ理事長(チェアマン)を歴任してきた。アカデミーでは、競技の垣根を超えてスポーツ業界の最前線での経験を持つ同氏が、ゲスト講師と共にディスカッションを行なっていく。
「ハウツーやサクセスストーリーに終始するつもりはありません。スポーツ界の現状を冷静に見て、産業として大きくなっていくためにどこをどうやって改善していくべきなのか、スポーツコンテンツに関わる人、スポーツを支える人に伝えていきます」
金融業界という「外」の世界を見てきたからこそ、スポーツ業界に対する課題感もある。「スポーツ界はガバナンスが弱く、また、財務戦略やファイナンスに関しては私の経験値も含めてお伝えしたい。ここは避けて通れません」と大河氏。
第3期のプログラムは全7回の講義に加え、セレッソ大阪のホームであるヨドコウ桜スタジアム、大阪エヴェッサのホームであるおおきにアリーナ舞洲でフィールドワークも予定。現場の裏側でどんな取り組みが行われているのか、VIPエリアの価格設定や客層など、普段とは違った視点でプロスポーツを見る機会が提供される。
近年はスポーツビジネス講座が増える一方で、開催場所は東京の一極集中であるのも否めない。講座はオンラインでだがフィールドワークは関西が拠点となるため、これまで都内へ足を伸ばすことができなかった関西方面の人々にとっても貴重な機会となる。
ますます求められる「広い視野」と「異なる視点」
スポーツイノベーションアカデミーのゲスト登壇者の選定にも、こだわりがある。大河氏は、「外部の人から見てスポーツにどういう魅力があるのか、そしてスポーツ界はどうしなければいけないのかと言う意見を引き出していきたい。スポーツに長く携わっていても、なるべく複数の競技を経験してきた講師を選んでいます」と説明する。
最初の講義を担当するのはトランスインサイト株式会社代表の鈴木友也氏。Bリーグアドバイザーや日本ハンドボールリーグ理事も務めながら、ニューヨークに拠点を置いて幅広くアメリカのスポーツを見てきた。日米のスポーツビジネスでなぜこれだけの違いが生まれているのかを最初に説明することで、スポーツビジネスの可能性に改めて着目し、視座を上げることを狙いとする。
第5回には、プロスポーツ全般に事業を拡大している株式会社ミクシィの木村弘毅氏も登場。同社はBリーグの千葉ジェッツやJリーグのFC東京のオーナーとして経営権を持ち、プロ野球の東京ヤクルトスワローズにはスポンサーとして関わる。複数競技にまたがってスポーツに深く携わっているのは日本では稀な存在で、スポーツベッティングやDXに取り組む中で、ゲーム・エンタメといった本業とどのようなシナジーを生み出すのかを深掘りしていく。
他には、BリーグDeNA川崎ブレイブサンダース 代表取締役社長の元沢伸夫氏(第3回講師)はDeNA出身で横浜ベイスターズの立ち上げを経験。スカパーJSAT株式会社で配信事業部・アリーナスタジアムプロジェクトプロデューサーを務める藤田一真氏(第6回講師)は長年Jリーグの映像制作に携わり、今は格闘技系を含め他スポーツに活躍の場を広げている。
「大事なのは『1時間喋って終わり』ではなく、私を含めたファシリテーターが、受講生が興味のありそうな、役に立ちそうなことを上手く引き出していくこと。受講しようと思っている方には、そこは期待してもらっていいかな(笑)」
過去の受講生が語るアカデミーの魅力
第2期では約20人の受講生が参加したが、その中で3名の修了生にも話を伺った。スポーツ団体側からは滋賀レイクスで取締役を務める中井宏樹さん。スポンサー側からは日本生命保険相互会社でスポーツ協賛全般を統括する中嶋知彦さん。そして、M&Aの仲介コンサルティングを手がける株式会社ストライク 総合企画室の鈴木芳憲さん。
チケット、物販、ファンクラブなどレイクスのマーケティング業務全般を担う中井さんは親会社の株式会社マイネットでもともと経営企画を担当していた。スポーツ業界やマーケティング領域は初めてということから受講を決意。SNSを積極的に活用するDeNA川崎ブレイブサンダースや、西宮で新アリーナ建設に取り組む株式会社スマートバリュー(※西宮ストークスの共同オーナーの一社)など、なかなか聞くことのできない他チームの戦略を知ることができたのが印象に残ったと挙げてくれた。
「アカデミーではスポーツマーケティングについて一通りインプットできますので、私のような当事者には間違いなく役に立ちます。講義で伺った話をもとに仮説を立てて検証していくということで、今も学びを活かせています」(中井さん)
企業がスポーツを活かして、どう事業と社会に貢献するのかという視点も欠かせない。日本生命の中嶋さんは、オリパラや国内競技団体、アスリート支援など、これまで仕事で関わってきたスポーツとビジネスについて客観的に見つめ直す機会になったという。
「ガバナンス、スポーツマーケティング、メディアなどスポーツに関連する領域を広く体系的に学べました。スポーツに関わるステークホルダーの幅広さを改めて理解することができました」(中嶋さん)
M&Aのコンサルティングの立場から、「サッカーやバスケなど各リーグのキーパーソンの方々のお話から、外側からはなかなか分からないことが勉強できました」と話すのは鈴木さん。
Bリーグが2026年に向けた構造改革を行うにあたり各クラブから経営体制や資本政策の相談が増えており、最近では島根スサノオマジックと株式会社バンダイナムコの提携案件も同社が担当した。普段の領域とは違うスポーツ関連のM&Aへの対応には、スポーツ業界を深く理解しておくことは何より役立つ。
それぞれが違った角度からスポーツに携わるなか、普段の業務だけでは得ることのできない多角的な学びを体系的に提供するのが、アカデミーの魅力といえる。
「スポーツ界は、成長するのに適した場所」
最後に、Jリーグ、Bリーグといったスポーツビジネスの第一線から大学という教育界に移った大河氏に、日本のスポーツ界に今後必要となる人材像についても聞いてみた。
「スポーツ界はジェネラリストよりスペシャリストの養成が大事。広報やマーケティングをやりたい人は、ずっとそれをやればいいと思います。私は常々、『コピペの仕事はするな』と言ってきました」
何か組織に新しいことを加えていき、そこに価値が生まれ、結果として対価を得る。それがプロフェッショナルであり、求められるスポーツビジネス人材でもある。同氏は、以前Bリーグで出た突飛なアイディアを振り返りながら、これまでにない柔軟な発想を持ち、実現できる人材が必要になってくると語った。
「Bリーグのとき『ティップオフ前にセンターサークルで落語をやりたい』というアイデアを聞いたときは、さすがにひっくり返りそうになりましたけど、うまくいったんですよ(笑)。リスクテイクを恐れていては成長しません。トラブルとかアクシデントとか、イレギュラーな経験値が多いほど人間は成長する。そういう意味でスポーツは若い組織ですから、成長するには適した場所です」
大河氏は、いずれ、JリーグやBリーグなどのスポーツの第一線で働くことが、多くの人の「憧れ」になるようにしたいとも話す。
スポーツビジネス人材が育つことで、競技だけでなく経営・事業面を通してもスポーツの価値が高まり、地域密着のクラブはますます街の「象徴」になっていく――。スポーツイノベーションアカデミーは、その「革新」に挑んでいる。
プログラムの詳細・申込は以下より。申込は8月17日(水)まで受け付けている。奮って応募してほしい。
https://univ.osaka-seikei.jp/lp/sports_innovation_academy/
◇スポーツビジネスアカデミー 第3期
期間:2022年9~12月(講義7回+フィールドワーク2回)
講義時間:各回18:30~21:00(150分、オンライン)
受講料:講義のみ=15万円(税込)、講義+フィールドワーク=17万円(税込)
最少催行人数:15名
主催:大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所
共催:セレッソ大阪
メディアパートナー:HALF TIME
公式ページ:https://univ.osaka-seikei.jp/lp/sports_innovation_academy/
Sponsored:大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所