新局面を迎えたスポーツビジネスの未来は?放映権ビジネスが頭打ちの欧州サッカー界が挑む「2つの市場開拓」

長らくサッカー界は欧州を中心に回ってきた。放映権ビジネスによってもたらされた莫大な収入でスター選手が集まり、ピッチ上の価値を高めることでさらなるビッグマネーを呼び込むという循環が続いた。だがここにきて放映権料は頭打ちとなり、サッカー界は新たな局面を迎えている。

東京ヴェルディ株式会社 代表取締役副社長ならびに一般社団法人東京ヴェルディクラブ 理事長を務める森本譲二氏、近年スポーツビジネス界で存在感を示すスカイライト コンサルティング株式会社の代表取締役を務める羽物俊樹氏が、サッカー界が模索する新たなビジネスモデルについて、都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2024」で語った。

巨額の放映権ビジネスが頭打ち。新局面を迎える欧州サッカー

「世界のサッカー界における放映権ビジネスは、頭打ちになっている」

そう語るのは、スカイライト コンサルティング株式会社 代表取締役の羽物氏だ。2015年に東京ヴェルディと資本業務提携を結んだことをきっかけに、チーム・リーグなど競技団体やスポンサー企業のコンサルティング、スポーツテック領域のスタートアップ投資、ブラジルでのサッカー選手育成アカデミー運営など、スポーツビジネス界で独自の存在感を示している。

「昨年12月にプレミアリーグが新たに4年間の放映権契約を結びましたが、ポンド建てで見てみるとほとんど変わっていない」と指摘する羽物氏。莫大な放映権料をもとに成長してきた欧州サッカー界のビジネスモデルは、新たな局面を迎えている。

図=スカイライト コンサルティング

先行投資で活況の欧州女子サッカー。一方日本では

「こうした状況は欧州のチームや協会も認識していて、女子サッカーへの投資を進めている」と羽物氏が言うように、この数年、欧州の女子サッカーは飛躍的な成長を遂げている。

2021/22シーズンの欧州における観客動員数のトップ3を女子の試合が独占。昨年フランスで開催されたワールドカップでは平均観客数が3万人を超え、前回大会から42%増加。欧州女子サッカーの市場規模は10年間で6倍以上になると目されている。

「特にイングランドやスペインでは、女子サッカーのビジネスをつくる、新しい市場を開拓するという強い意思で先行投資していることが、今の成功につながっている」(羽物氏)

スカイライト コンサルティング株式会社 代表取締役 羽物俊樹氏(中央)と、東京ヴェルディ株式会社代表取締役副社長/一般社団法人東京ヴェルディクラブ理事長の森本譲二氏(左)

一方で、日本の女子サッカーの現況はどうか。日テレ・東京ヴェルディベレーザを運営する東京ヴェルディ株式会社副社長の森本氏は、単体で見れば難しい点もあると口にする。

WEリーグは2021年に開幕。プロ化したことでチーム年俸や施設等の環境整備などの支出が増大したが、それに比例して収入が伸びているわけではない現実がある。「プロの興行として、どうやってお金を稼いでいくのか、WEリーグをどのようにつくっていくのか、日テレ・東京ヴェルディベレーザとして大きなチャレンジングな時期に来ている」と森本氏は決意を新たにする。

限界を迎える既存のスポンサーシップモデル。東京ヴェルディの新たな取り組み

「実は『東京ヴェルディ』はサッカーだけでなく、1つのブランドのもとで17競技22チームが活動する総合型クラブとなっています」(森本氏)

2028年ロサンゼルス五輪で追加競技として採用されるフラッグフットボールをはじめ、ホッケー、ビーチサッカーでも日本代表選手を輩出しており、アマチュアながら高い競技レベルの選手たちが東京ヴェルディに集まっている。

左から)森本氏、羽物氏、およびモデレーターを務めたびわこ成蹊スポーツ大学教授 齊藤恵理称氏

では、なぜ総合型クラブへと舵を切ったのか? 森本氏は「広告型モデルのスポンサーシップが限界を迎えている」と話す。

「企業から見れば、なぜ東京ヴェルディ、日テレ・東京ヴェルディベレーザなのか。広告を出すなら、FC町田ゼルビアでも、FC東京でも、浦和レッズでも同じではないかと。広告媒体として比較されていては、企業から選んでもらえなくなる」(森本氏)

そこで昨年新たに始めた取り組みが、「Verdy Sports Innovation Hub(ヴェルディ スポーツ イノベーション ハブ)」だ。企業や大学、専門家と共に議論や研究を重ねることで、社会課題の解決に貢献し、人材の育成を目指している。

新しいパートナーシップ、新しいビジネスモデルを構築するための挑戦だ。「東京ヴェルディだからできることは何かというのは今までも模索してきましたし、東京ヴェルディにしかない“色”を出していきたい」(森本氏)

UEFAがチャンピオンズリーグ決勝で始めた新プログラム

森本氏の意見に羽物氏も同意する。「UEFA(欧州サッカー連盟)の人が言っていたのは、90分の試合以外の場所で、どう企業と関わっていくのかが今のテーマだと」(羽物氏)。そこでUEFAが新たに取り組み始めた施策が「CHAMPIONS INNOVATE」だ。

パートナー企業や行政と連携して、社会課題に取り組むスタートアップを支援するプログラムで、6月にロンドンで開催されたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝にあわせて今年初めて実施された。今回のテーマは「サステナビリティ」。例えばペプシコの事例はこうだ。

ファンゾーンのライブステージ前に、ペプシコのエナジードリンクブランド「ROCKSTAR」と書かれたパネルが敷き詰められている。ライブが始まり多くの人がパネルの上で飛び跳ねると発電する仕組みで、ファンの熱気でエネルギーを生み出そうという実験的な取り組みだ。

撮影=スカイライト コンサルティング

ペプシコにとっては社会課題解決の支援を通じて企業価値を高める。音楽のライブ会場と「ROCKSTAR」というネーミングの親和性もあり、ブランド名を浸透させたい意図もある。

カーボンニュートラルに取り組むスタートアップにとっては、CL決勝という注目度の高い場で、大企業の支援のもとで実証実験できる。ロンドン市にとっては社会課題に取り組む姿勢をPRでき、市民の意識醸成にもつながる。そして、UEFAにとっては新たなパートナーシップモデル、新たな市場を開拓できる。

「まさに森本さんがお話しした“ハブ”ですよね。こうした動きが欧州サッカーの最前線でも出てきています」(羽物氏)

スポーツ界は今、新たな局面を迎えている。新たな市場を開拓しなければ、生き残っていくのは難しい。今回は、女性スポーツ、スポーツのハブ機能を生かした社会課題解決といった事例が挙げられたが、スポーツビジネスの未来には、きっとまだ誰も気付いていない市場があるはずだ――。

カンファレンス・アーカイブ動画

セッション「Beyond 2024~企業とスポーツとの関わりの未来を語る」のアーカイブ動画(全編ノーカット版)をご覧いただけます。以下のフォームからアクセスください(無料)。