2009年以来NBAスポンサーのタコベル
NBAファイナルは大半の予想を覆し、トロント・ラプターズが三連覇を目指すゴールデンステート・ウォリアーズを撃破しチーム初優勝を決めた。カナダと米国の二ヶ国で繰り広げられた激戦に世界中のバスケットボールファンが魅了されたのは言うまでもない。
このNBAファイナルだけでなく、スポーツイベントにとってスポンサー企業の存在は計り知れない。冠スポンサー無くしては開催することさえ出来ないイベントも世の中には多く存在する。このNBAファイナル初となる冠スポンサーには2018年からYouTube TVが付いている。
そのNBAにおいて、ファストフード部門のスポンサー企業に2009年から名を連ねるのがタコベル。日本進出も果たしているメキシカン・ファストフードチェーンだ。1990年からパートナーだったマクドナルドに代わってNBAのスポンサーを務めることとなったタコベルは、当初4年契約に合意し、その条項には中継での企業露出の機会も増えることも含まれていた。またこの契約で、タコベルの6,000以上の店舗ではNBAを活用したプロモーションも可能に。毎年2月に開催されるNBAの祭典「オールスターウィークエンド」ではスキルチャレンジのスポンサーも務めている。
2013年にタコベルとNBAは更なる複数年の契約延長にも合意した。新たな契約により、デジタルやソーシャルメディアのプラットフォームでもタコベルの名が露出されることとなった。
当時のタコベルCMOクリス・ブラント氏は、米レストラン業界誌『Nation’s Restaurant News』に、契約延長に際し次のように語っている。
「私たちはライフスタイル・ブランドを目指しており、NBAほどライフスタイルに影響力を持つスポーツはない。(NBAは)音楽やファッションにも影響を及ぼし、ソーシャルメデ ィアで最も話題になっているスポーツ・アセットだ。もし、その会話の中にタコベルの話題を増やすことが出来れば、私たちにとっては理想的な組み合わせとなる」
タコベルに対抗するチポトレのアンブッシュマーケティング
NBAファイナルには、 毎年恒例のタコベルのアクティベーションがある。その名も「Steal A Game, Steal A Taco(試合を奪って、タコスも奪え)」。ロード(アウェイ)のチームが相手の本拠地で1勝を奪うことが出来れば、近くの店舗でタコスを無料で手に入れることが出来るというキャンペーンだ。今年はカナダに本拠地を置くトロント・ラプターズがファイナル進出を果たしたことから、他国も巻き込んだアクティベーションとなった。
これに対抗してアンブッシュマーケティングを仕掛けたのがもう1つのメキシカン・ファストフードチェーンのチポトレ(Chipotle)だ。アンブッシュマーケティングとは、公式スポンサー契約を結んでいない企業が、あたかもスポンサーかのように便乗して行う宣伝活動のことを指す。
NBAの公式スポンサーではない企業は、ロゴなどアセットの使用や呼称権などの権利を有していないため、直接的なプロモーションを行えず、そのため様々な工夫を凝らして生活者の注意を引く。チポトレがプレスリリースで「NBAファイナル」と記載せず、「男子プロバスケットボールのチャンピオンシップシリーズ」と慎重に言葉を選んだのもこのためだ。
今回チポトレが仕掛けたのは、NBA中継を視聴しながら参加できるプロモーションだった。放送中に実況者、解説者、サイドラインレポーターが「Free」という言葉を発する度に、視聴者が無料でブリトーを得ることが出来る限定のコード番号を公式ツイッターから発信。毎回「Free」という言葉が発せられた際に視聴者は決められた番号にメールを送ることで、試合前半には最初の500人、後半には最初の1000人にコード番号が返信された。
各試合20回まで、合計で100万ドル分の商品を無料で1人に1回のみ提供する限定企画で、キャンペーン発表から数日間で、ツイッターで6万4,000フォロワーの増加につながるなど、エンゲージメントの高い企画となった。同社はさらに、試合が開催される日には一定額の購入によりデリバリー代を“Free”にするという試みも行った。
アンブッシュマーケティングの仕掛け人 実の正体は
実は、この仕掛けを率いたのは、2013年にタコベルがNBAとスポンサー契約を更新した当時にCMOとして在籍し、現在はチポトレのCMOを務めるクリス・ブラント氏。今回のプロモーションに際して、次のように語っている。
「バスケットボールファンは最も情熱的なスポーツファンの一種であると理解している。その情熱をさらに高めるため、100万ドルを使って、“ファイナル・ゲームズ”で“フリーティング”(=Freeにかけたツイート)をする。チポトレは、デリバリーシステムの開発によりこれまで以上にアクセスしやすくなっており、(消費者は)もうバスケットボールを見るのとブリトーを買いにいくかで迷う必要はない」
スポーツビジネスにおいてグレーゾーンと言われるアンブッシュマーケティングだが、今回は、以前まで公式スポンサー側に在籍していた人間が、その権利範囲を知り尽くした上で仕掛ける巧妙さがあった。古巣相手に戦いを挑む舞台としてNBAファイナルを選んだのも、そのスポーツイベントの注目度の高さを象徴している。
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