W杯初開催、登録クラブは800超――英国サッカー界で広がる「ウォーキング・フットボール」とは?

英国発祥のウォーキング・フットボール

2019年6月1日〜2日にかけ、英国ロンドンでサッカーのワールドカップが開催された。とは言っても勿論FIFA主催のワールドカップではなく、「ウォーキング・フットボール」の世界大会だ。ウォーキング・フットボールW杯は今年が初開催で、IWFF(International Walking Football Federation)の主催により、ロンドンを拠点とするレイトン・オリエントFCのホームスタジアム「マッチルーム・スタジアム」で開催された。参加チームは、アルゼンチン、イングランド、ドイツ、フランス、イタリアなど合計15カ国の代表にのぼる。

サッカー発祥の地イングランドで始まったウォーキング・フットボールは、その名の通り「歩くサッカー」だ。英国の統括団体「Walking Football Association(WFA)」には、800以上のクラブが登録しており、例えばマンチェスター・シティにも「Manchester City Walking Football Club」が存在する。

ウォーキング・フットボールは歩いてサッカーをするというユニークさだけでなく、身体への負担に配慮している点が特徴だ。以下の主な競技規則がそれを物語っている。

・人数は基本的にキーパーを含めて6人(大会の規定による)

・コードはほぼフットサルコートの広さ

・プレーの如何に関係なく走ることを禁止

・身体接触は禁止

・ボールを頭の上(180㎝)以上にあげてはならない

・キーパーのボックスには敵味方関係なく侵入禁止

このように、サッカーやフットサルとは異なり、身体への負担が少ないのが明らかだ。ヘディングはなく、スライディングやタックルを受けることがない。キーパーも身体接触がないのは勿論、近距離からのシュートを受けることさえない。身体接触や運動強度の高いスポーツは避けたいが、まだまだ体を動かしたいという元気なシニア世代には最適であろう。

ウォーキング・フットボールが広がりを見せるもう一つの理由は、大小様々なクラブで地域貢献の一環として取り組み始められたからだ。イングランドのサッカークラブは、地域コミュニティに住む人々に広くサッカーをできる機会を提供することを理念に置くクラブが多く、特に草の根クラブでは顕著である。シニア世代が参加しやすいウォーキング・フットボールは、クラブにとって恰好の取り組みだ。

尚、前述の第1回W杯では、50歳以上のカテゴリはイングランドが、60歳以上のカテゴリはウェールズが優勝し、それぞれ初代王者となっている。ただし、参加チームのうち、トルコ代表はロンドン在住のトルコ人チーム、中国代表は同じくロンドン在住の中国人チームとなっており、真のワールドカップと呼べるかは疑問が残る。

しかし、こうした取り組みにより、ウォーキング・フットボールの知名度が少しずつ上がり、シニア世代の目標の場となることで、一層ウォーキング・フットボール自体の価値を上げていけるのも事実である。

なぜウォーキング・フットボールは支持されるのか?

WFAによると 、50〜60歳のミドルシニアからシニア世代の人々が運動をすることで、心血管性の病気や脳卒中のリスクが減るという。強度が高くない分、継続的に運動できることで、疾病のリスクを回避するだけでなくストレス解消も期待できる。

イングランド7部リーグに所属するエンフィールド・タウンFCに伺ったところ、クラブでは、誰でも参加可能なトレーニング・セッションを週に一度1時間と、週末にシニア部門のトレーニングと練習試合を行っている。シニア部門には15人程が練習に参加しており、中にはウォーキング・フットボールのイングランド代表に召集されたこともあるプレーヤーも所属している。

クラブでは、プレーヤー向けのトレーニングや試合以外に審判の講習も行っており、ウォーキング・フットボールの普及と拡大について「クラブとして実績を残している」と、エンフィールド・タウンFCのウォーキング・フットボールコーディネーターのラム・イスマイル氏は自信を示す。

また、メディア部門のケン・ブレイザー氏が「こうした取り組みが地域全員にサッカーの機会を与える役割を担う」と語る通り、7部リーグ所属の街クラブにとって、地域コミュニティとの関わりを一層強めることができるのは貴重な機会だ。

WFAのWebサイトでは、「人生の新しい目標ができた」とインタビューに答えるプレーヤーも見られる。試合や大会を通してシニア世代の生きがいとなると共に、普段のトレーニングやチームへの所属を通して、コミュニティの輪を作り、孤独を防ぐというメリットもある。

このようにウォーキング・フットボールは、クラブを中心として地域のシニア世代に「健康」、「生きがい」、「つながり」といった産物を提供している。取材を行った試合でも、常に歩くことが必要で、集中力を保つことが求められる様子がひしひしと伝わってきた。身体的な健康もさることながら、メンタル的な健康にも良さそうだ。日本でも少しずつ広がりを見せるウォーキング・フットボールの今後に注目したい。

(HALF TIME英国レポーター=長谷川幸之助)

◇参照

Walking Football Association