2020年初冬の新型コロナウィルス感染症拡大により、緊急事態宣言で数ヶ月の休業を余儀なくされたフィットネスジム。同時に、健康ブームによってフィットネスクラブの利用者が増えてきている一面もあります。
そこで今回は、2020年以降のフィットネス業界に訪れた変化を解説するとともに、業界の最新トレンド、フィットネス市場のこれからについて紹介します。
フィットネス業界の市場規模、コロナ禍でどう変化している?
まずは、コロナ禍でフィットネス業界の市場規模がどのように変化したのかを解説します。
●2020年には前年3割減となった売上高
2019年に約5,000億円となったフィットネス業界の市場規模ですが、2020年初冬の新型コロナウイルス感染症の拡大により、フィットネス業界に激震が走ります。
感染拡大の初期に、フィットネスクラブ内で感染者やクラスターの発生が起きたこともあり、各企業は感染予防策や風評被害、退会や休会に対する特例措置などに追われました。
特に、総合型フィットネスクラブは年齢層の高い会員が多いため、コロナワクチンが普及するまでは、多くの会員が感染を懸念し退会や休会を選択。
2020年6月には多くの店舗で営業を再開しましたが、その後も時短営業やレッスンプログラムの見直し、館内の感染予防の徹底など、各店舗のスタッフや会員は急な運営方針の変更に必死に対応してきました。
結果、2020年度の市場規模は、前年と比べて35%の減少、会員数も4年前の水準と同等まで下がることに。また、2020年度に発生したフィットネス事業者の倒産や廃業は26件に上りました。
これは、過去20年間ではリーマン・ショック後である2008年度の29件に迫る件数です。
●コロナ禍でフィットネスに対する意見が二極化、利用者数回復の傾向も
その後、ワクチンの普及や、各フィットネスクラブで感染予防対策に対するルールが確立されるようになってからは、フィットネスクラブに対する考えが2つに分かれるようになりました。
フィットネスクラブは感染しやすい環境と考え、営業を再開しても、通いたくないと考える人。また、運動に対するモチベーションが下がってしまい、意欲が薄れてしまった人もいました。
一方で、免疫力や基礎体力を付けることの大切さを改めて実感した人や、店舗の休業やテレワークの普及で運動不足に陥り、フィットネスクラブで健康維持に努めようと考える人が増えています。
特に高齢者の会員に関しては、自粛期間中に自宅でこもりがちになっていたことで、体力や筋力が落ちてしまったため、ワクチン接種後に早急に会員へ復帰した人も少なくありません。
スポーツ庁が行なった調査でも、下記のような結果が出てきます。
<運動・スポーツの実施が増加した理由>
単位:%
理由(抜粋) | 全体 | 10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代 |
仕事が忙しくなくなった | 25.4 | 31.8 | 29.7 | 25.8 | 23.0 | 18.2 | 32.0 | 21.0 |
コロナ感染対策によるスポーツの必要性の意識向上 | 25.2 | 10.6 | 19.0 | 22.2 | 28.1 | 27.7 | 23.9 | 36.7 |
運動・スポーツが好きになった | 17.2 | 23.5 | 24.2 | 18.3 | 16.5 | 12.8 | 12.4 | 17.0 |
時間に余裕ができた | 11.4 | 12.9 | 11.3 | 14.8 | 13.5 | 12.6 | 10.1 | 2.2 |
家事・育児が忙しくなった | 9.5 | 2.4 | 7.8 | 12.1 | 9.9 | 11.1 | 9.4 | 6.8 |
コロナ禍をきっかけにして、大幅な減収となったフィットネス業界。しかし同時に、多くの世代で、生活や仕事の変化や、コロナ感染予防策のひとつとして、スポーツの必要性に対する意識が高まったことがわかります。
フィットネス業界の最新トレンドとは
コロナ禍を経て、人々が新しい生活様式へと変化した昨今、フィットネス業界の最新トレンドにはどのようなものがあるのでしょうか。
●初心者に重視したプログラム
フィットネスクラブの会員継続率は、半年でおよそ3割といわれています。熱意や意欲を持って入会した初心者がより継続できるよう、各企業では入会後から3ヶ月や半年にかけて手厚いサポートやプログラムを実施しています。
孤独になって疎外感を感じさせないために、同時期に入会した会員同士でのスモールグループエクササイズを実施したり、来店を習慣化させるためにインストラクターとの無料カウンセリングやトレーニングを予約制にしたりしています。
●女性専用エリア・女性専用ジム
現在、フィットネスに通っている60%以上の女性が、総合型スポーツクラブに通っているといわれています。しかし昨今、女性専用を付加価値としたビジネスが力をのばしてきている背景から、フィットネス業界でも小中規模店舗を中心とした女性専用ホットヨガやジムなどが多くなってきています。
また、大手フィットネス業界も小型店舗の出店に力を入れており、女性専用店舗を増やしてきていたり、既存の総合型店舗内にも女性専用ジムエリアや専用レッスンを設けるようにしてきたりなど、女性をターゲットにしたビジネスを展開しています。
●オンラインフィットネス
コロナ禍以前から、ライトな会員層の取り込みや人件費の最適化を目指した戦略の一つとして、多くのフィットネス企業で進めてきていた「オンラインフィットネス」。2020年以降、急速に発展してきています。
自宅で簡単にライブレッスンやアーカイブを楽しめるだけではありません。実際の店舗のスタジオ内で、全国の会員がライブで繋がって同じレッスンを受講するなど、会員継続率の維持のために様々な取り組みを行なっています。
また、オンライン専用のフィットネス企業も増えてきています。月会費が安く抑えられ、自宅にいながら気軽にトレーニングを楽しめることから、テレワークの気分転換として取り入れるビジネスパーソン、家事や育児で長時間外に出られない主婦などに人気です。
フィットネス市場のこれから
最後に、これからのフィットネス市場において重要なポイントを解説します。
●初心にかえり、フィットネスの本質的価値を提供
コロナをきっかけに高まった健康志向に応えるために、各企業は初心にかえって、フィットネスやスポーツの重要性、本質的価値を提供する必要があります。
アスリートやボディビルのような筋肉質を求める人や、スリムなモデル体型を目指す人のためだけではなく、健康維持や機能改善を目的としたプログラムに改めて注力していくようになるでしょう。
具体的には、高齢者向けに強度の低いレッスンを実施したり、子供の運動能力向上をサポートするスクールなど、いわゆるファンクショナルトレーニングを中心としたプログラムが増えることが予想されます。
●デジタルやデータを活用したサービス
自粛期間やテレワークの普及、また、いわゆる「3密」を避けるため、デジタルやデータを活用したフィットネスがさらに広がることが予想されます。
例えば、アメリカスポーツ医学会(ACSM)の「フィットネストレンド」レポートによると、過去15年間の調査のトップ20のトレンドは、コロナ禍を経てその内容が大きく変わっています。
2021年のランキングだと、1位にはオンライントレーニング、また6位にはバーチャルトレーニングや12位にモバイルエクササイズアプリなどが上位に。
また、自身のトレーニング記録や健康状態、食事内容を記録し、それと目標とを照らし合わせた上で適切な運動や食事のアドバイスをするアプリなども需要が高いです。
場所や時間を選ばず、人との接触を回避しながら、デジタルテクノロジーを活用することで気軽にフィットネスを享受できるようになっています。
●有人サービスと無人運営システムの二刀流経営
今後、より競合との差別化を測るためには、いかに有人サービスの付加価値を高めながら、無人運営で効率化を測っていくかが重要になってきます。
現在、接触を避けるため、また人件費を抑えるため、総合型のフィットネスクラブでも夜間や早朝の無人運営システムが増えています。
動画やインターネットで、トレーニングや栄養の知識は誰でも手に入れられる時代になっているため、20〜30代の男性を中心にセルフトレーニングを行う人が利用するケースが多くなっている現状です。経営側としてもコスパがよいため、無人運営スタイルは、今後のフィットネス業界を盛り上げている要になることは間違いありません。
一方で、本当にその人にあったトレーニングができているか、またモチベーションや悩みを解決するためには、スタッフは必ず必要です。特にフィットネスクラブの抱える問題点の一つとして、「スタッフの経験や知識による質の差」が取り上げられています。
いまは、会員も知識や情報を豊富に持っています。そのため、今後フィットネスクラブに大切なのは、スタッフがそれと同等以上の知識を持ち合わせることはもちろん、接客能力の高さや、会員が気づいていない潜在ニーズや悩みを引き出し、サポートしていくなど、有人サービスの魅力や強みを全面に出した取り組みが重要になります。
まとめ
コロナ禍で大打撃を被ったフィットネス業界。ただし、同時にそれがきっかけとなり、人々の意識の中に、改めて運動やスポーツの大切さが芽生えたともいえます。
フィットネス業界が生き残っていくためには、新しい生活様式に合わせた柔軟な経営方針とサービスの提供が大切になっていくでしょう。
(TOP写真提供 = Danielle Cerullo / Unsplash.com)
《参考記事一覧》
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コロナで一転したスポーツ施設産業の構図。「フィットネス」の苦境はいつまで続く?(ニュースイッチ)
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