福島ユナイテッド「農業部」から考える、Jクラブのホームタウン活動のインパクト【データで語ろう#4】

「データドリブン」な企業経営はプロスポーツクラブでも例外ではない。スポーツのビジネス化を先駆けてきたJリーグは、百年構想を掲げ、地域密着で長きにわたって存続していくことが求められるが、その基盤になるのは「地域ファン」だ。スポーツ領域でリサーチ・コンサルティングを手がけるマーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクターの高橋隼人氏が、調査プロジェクトの結果をもとに「地域ファンの育成」を解説する。(文=高橋隼人)

「福島ユナイテッド」の福島への寄与度

前回のコラムで、チームへの興味・関心層を増やす、言い換えればファンの間口を増やすためには、まずは地域貢献活動に触れてもらうことが重要であると紹介しました。

今回は福島ユナイテッドFCの特徴のひとつである「農業部」が、地域からどのように捉えられているかを例に、地域貢献活動の重要性を考えていきたいと思います。

福島ユナイテッドの「農業部」とは、震災や原発事故の風評被害などにより大変苦しい状況であった福島県の農業を何か支援できないかと2014年に動き出した活動で、選手やスタッフが実際に地域の農家と協力し、農作業および農作物の販売を行う活動です。

まずは、農業部の話に入る前に、福島ユナイテッドが福島という地域にどの程度貢献していると捉えられているのか、調査結果を通じてご紹介します。

福島ユナイテッドを認知している人に、チームと地元福島との関係性について聞いたところ、「福島ユナイテッドが頑張ることで地元が盛り上がる」と感じている人が62.0%。「福島ユナイテッドの影響で、県外から人が集まる」と感じている人が43.2%、「福島ユナイテッドの観戦を通じて、より地元愛が高まる」と考えている人が50.4%も存在することが分かりました。

多くの人が地域のクラブの存在や頑張りにより、福島県が盛り上がる、あるいは地元愛が高まると考えているようです。

尚、観戦頻度が増加または変化がない層(いわゆるコアファン)や、観戦したことはないが観戦したいと思う層(ポテンシャル層)は、これらのスコアが特に高く、福島への貢献がより一層期待されていることがわかります。

福島ユナイテッドFC「農業部」の認知

さて、本題の「農業部」の話へ入ります。まず、農業部の認知や状況について、現状把握をしていきましょう。

調査の結果、福島県民のうち、「農業部」の認知者は14.7%、商品購入経験者は3.1%という結果でした。言い換えると「農業部」を知らない人が85.3%なので、まだまだ伸びしろがありそうです。

観戦頻度が増加または変化がない層(=コアファン)では、大部分(71.0%)が 「農業部」を認知しており、商品購入経験率も49.1%と非常に高いことが分かりました。チーム愛の深さが垣間見えます。

観戦したことはないが観戦したいと思う層(=ポテンシャル層)では、およそ4割(37.7%)が「農業部」を認知しています。福島県民全体と比較して高いことが伺えます。

前回のコラムで説明した、観戦に至る以前に、地域貢献活動やホームタウン活動などの地道な地域活動が実を結び、ゲームを観戦したことがない人たちの興味喚起につながっているということが、ここでも確認できます。

県民からの「農業部」の評価

「農業部」によって福島ユナイテッドに対する意識がどのように変化しているかを確認したところ、「福島ユナイテッドFCを好きになる」(35.1%)、「応援したいと思う」(35.8%)、「ホームゲームを観戦したい気持ちが高まる」(25.2%)と、意識の変化を確認することができました。

観戦したことはないが観戦したいと思う層は、これらのスコアが特に高く、社会貢献活動による新規の観戦者取り込みに期待がかかります。

一般的に、チームが強くなることや頑張ることがチームへの興味喚起・チーム愛の醸成に直結しやすいと思いますが、今回の結果からゲーム以外(スタジアム外)の活動の重要性も確認できたのではないかと思います。

繰り返しになりますが、福島ユナイテッドは、福島への貢献が大いに期待されています。農業部およびその他の地域貢献活動を幅広く認知・接触させることで、チームへの興味喚起、ならびにチーム愛の醸成につなげていきたいところです。

調査を振り返って

「チームにはファンの力が必要だ」とは誰もが考えることですが、今回の調査と分析により、データに基づいて改めて証明できたのではないかと思います。

現状は一部のファンに支えられている状況ですが、現在のファンの情熱をさらに高めつつ、ファンの間口を広げていくという取り組みが、福島ユナイテッドの今後の課題になります。そのカギとなるのが、今回特に注目してきた地域貢献活動です。

特に福島ユナイテッドのような地方クラブにおいては、ファンや地域とのつながりが非常に重要です。データからも得られているように、地域貢献活動がファンのチーム愛の醸成、地域住民の興味喚起につながり、少しずつでもファンの裾野を広げることができるのではないかという仮説が立てられます。

地道な活動かもしれませんが、5年、10年、20年と長い目でファンを育成していくという強い意志と、目標を達成するためのマーケティング戦略、そしてそれらを支えるファクトやリサーチデータが非常に重要です。Jリーグ発足から30年弱が経ちますが、現在トップに君臨するようなビッグクラブもそのような経験を経て、現在の成功に至ったと考えます。

Jリーグだけでなく、他のプロスポーツチームも、チームの勝ち負けは時の運に左右されます。一方で、このようにマーケティングリサーチを活用し、ファンのために何をすべきかを考え、施策を実行していくマーケティング戦略は、このコロナ禍においてもできることです。

各チームの地道な努力により、ファンが集い、チームが繁栄し、チームを中心に地域経済が活性化する。そのような地域が日本中の様々な場所で見られることを願い、私どもマーケティングリサーチの専門家が少しでもその一助となれるよう、様々なプロスポーツチームとタッグを組み「日本をスポーツで活性化する」という壮大な目標に向かって邁進していきたいと思います。

最後に、今回一緒に調査に取り組み、事例として紹介させていただいた福島ユナイテッドFC様に、この場を借りて御礼を申し上げます。