【福田拓哉#4】Bリーグが直面する課題:次なる成長に「壁破れる」か

崩壊寸前の危機的状況から、劇的なV字回復へ。日本のバスケットボール界は、世界的にも珍しい成功モデルとなった。その転機となったBリーグは、何を断行し、どこを変えたのか。躍進を支え続ける、日本初の新たなアーキテクチャを検証する。

前回コラム:【福田拓哉#3】Bリーグが示した成果:独自ビジネスモデルと「アリーナ」「SNS」

着実成長のBリーグ。一方で克服すべき課題も

Bリーグが発足から3年で着実な成功を収め、今後も大きな成長可能性を秘めていることは過去3回のコラムで指摘したとおりである。しかし、Bリーグにはまだまだ課題も多い。リーグ全体の傾向と、各クラブを個別に見た場合では景色が大きく違ってくるのも事実だ。今回はこうした点に触れながら、Bリーグ発展に向けて克服すべき課題に触れたいと思う。

最初に触れなければいけないのは、各クラブの経営状況である。2017-18シーズンのクラブ経営状況に関しては、B2の18クラブ中、営業赤字となったクラブが10、最終赤字が8、債務超過が7に及んでいる。B1でも、売上が4億円台以下の3クラブのうち営業赤字が2、最終赤字が3となっており、下部リーグばかりでなくB1でも、経営規模の小さなクラブは「火の車」状態であることが理解できる。

実際、先日報道されたように、2018-19シーズンをB1で戦ったライジングゼファー福岡は、メインスポンサーからの入金が滞った事などを受け、6月の決算期までに1億8,000万円の資金ショートを起こす危険性が高まり、リーグ機構によってB2への降格処分が下された[1]。

この決定は、4月末までに資金確保の目処が立たなければ、B3への降格、もしくはリーグからの退会となる非常に厳しいものであった。幸い、クラブとリーグの必死の努力により、新たな出資者を得られたことでこの危機を回避できたことは記憶に新しい。また、3期連続で最終赤字を計上したB2の金沢武士団も、B3への降格処分を受けている[2]。

各クラブの見通しの甘さ、マーケティングや資金繰りといった面の能力不足もあるが、リーグとしてもクラブライセンス制度の基準や評価内容を見直さなければいけないだろう。ただ、Jリーグでもそうした事例が散見されたことを鑑みれば、こうした問題はクラブマネジメントとリーグの制度設計の両面で熟成期間が必要になるともいえる。

「夢のアリーナ」実現にも課題。カギは行政との連携

Bリーグは、アリーナについても多くの課題を抱えている。新アリーナ建設が進む一方で、観戦者視点のエンターテイメントや顧客体験を深く洞察しない、従来型の「体育館」が建設される事例もみられる。

例えば、福岡市に新設され、ライジングゼファー福岡が本拠地とした照葉積水ハウスアリーナは、コートサイドとスタンドの間に広い空間があり、観客同士のつながりや盛り上がりを分断する構造になっている。また、コートの上方に設けられた4面映像装置もプロジェクター投影型であるため、プレー中の照明が付けられたままの状態では視認性が著しく低い。

Rising Zephyr Fukuoka
Alvark Tokyo
照葉積水ハウスアリーナで行われたライジングゼファー福岡対アルバルク東京戦。筆者撮影

結果、リプレーや各種演出の効果も薄れてしまい、スポンサーメリットも低下してしまう。様々な制約条件の中で「公共性」を担保した結果かもしれないが、その問題の解決に向けて関連組織がそれぞれの枠を超えて意見を出し合ったのか疑問が残る。

一方、使用者であるクラブの意見を、所有者である行政側が設計段階からしっかりと聞き出し、双方の密なコミュニケーションのもとで新アリーナの建設が進められている、琉球ゴールデンキングスの事例がある[3]。従って今後は、こうした事例を参考にしながら、クラブと行政との関係を見つめ直し、地元企業や市民を交えて、「理想のアリーナとは何か?」というテーマについて、意見をすり合わせる場を創り出すことが重要になる。

幸か不幸か、現在の日本には、公共施設の慢性的な赤字に悩む行政と、会場不足に悩むスポーツ・音楽業界という構図がある。両者は「使い勝手がよく、質の高いエンターテイメントを提供でき、多くの人を満足させながら、結果として利益が出る」アリーナを必要としている[4]。

実際、この問題を解決すべく、今年2月には、スポーツ・音楽業界の合同で、エンターテイメントを提供する立場から設備や運営の提案を行う新団体「一般社団法人 Entertainment Committee for STADIUM・ARENA(ECSA: エクサ)」設立が発表された[5]。立法府においても、超党派の国会議員によるライブエンターテイメント議員連盟が数年前から活動している。

こうした組織の知見やネットワークを、協会やリーグをはじめ、各クラブレベルでも有効活用し、行政との関係構築に活用していくことが必要になるだろう。

Bリーグクラブ経営改善への短期策・中長期策

Bリーグクラブの経営力強化に関しては、コストの見直しとマーケティング力強化、それらを実行できる人材獲得といった、短期的効果をもたらす対症療法が必要となる。その際には、個人情報が蓄積された統合型データベースの本格的な運用を始め、B.MARKETINGとB.CORPの早急な機能強化が求められる。

また、中長期的なクラブの発展に向けては、リーグ構造の再構築にまで踏み込んだドラスティックな改革も検討する必要があるだろう。例えば、BリーグがアメリカのNBAを目標にし、MLSのビジネスアーキテクチャを積極的に取り入れているのであれば、開放型のリーグ構造の見直しも一案だ。

すなわち、競技成績による昇降格が行われない閉鎖型構造への変更、そしてトップリーグ加盟クラブの削減も考慮してはどうだろうか。必然的にB1クラブの価値は上昇し、収入基盤は今よりも厚くなると考えられる。選手や設備への投資も進み、B1リーグ全体のレベルも上がるはずだ。

その上で、B2以下のクラブとは、MLBとマイナーリーグのようにクラブ間の上下関係を構築し、B1クラブが双方に所属する選手・スタッフの年俸を全額負担するのだ。B2クラブにとっては上位リーグへの昇格という「大きな夢」が失われるものの、若き選手たちにその夢を託すことができる。

何よりB2クラブは選手年俸という最大の支出から開放され、その分を社員の獲得や育成、ファンサービスの強化に回すことができる。アメリカのマイナーリーグはこのような制度で運営され、地域に根づき、地元に無くてはならないエンターテイメントとして認識され、着実に黒字を出している。この事実を鑑みれば、経営危機にあえぐ小規模クラブを守るためにも、こうした「現実的な選択」もあり得るのではないだろうか。

過去の成功体験が環境の変化に対する感度を鈍らせ、それが致命傷になった事例は、スポーツ界だけでなく、ビジネスや政治、社会全体でも見られる。Bリーグには、自ら掲げる「BREAK THE BORDER」の言葉通り、過去の前例や常識、そして限界を、強くしなやかに超え続けて欲しい。

◇参照

1. 西日本新聞「B1福岡、資金難で降格 バスケ男子 調達無理なら退会も」(2019年4月10日) 

2. 金沢武士団「2019-20シーズンBリーグクラブライセンス判定結果について」(2019年4月9日)

3. 青木崇「Bリーグが提唱している夢のアリーナ誕生への期待は沖縄にあり」(2017年10月18日、Yahoo!ニュース 個人)

4. 久我 智也「「スポーツ×音楽」、アリーナ不足の共通課題解決へ新タッグ」(2018年4月9日、SPORTS INNOVATORS Online)

5. ORICON NEWS「スポーツ業界と音楽業界がタッグ、両トップが語る新団体の狙い「理想的なスタジアム・アリーナを実現」」(2019年2月28日)


▶︎九州産業大学 福田拓哉准教授が解説する「Bリーグのアーキテクチャ」連載一覧は〈こちら