欧州サッカー連盟が仕掛ける新たなイノベーションプラットフォームとは? スタートアップがサッカーを活用

2024年5月30日、欧州サッカー連盟(以下、UEFA)は、チャンピオンズリーグ決勝が行われたロンドンにて、スタートアップコンテストの最終発表イベントを開催。UEFAからの招待を受け参加した英国在住のスポーツビジネスコンサルタント 林鉄朗氏が、現地からレポートをお届けします。(初出=JSPIN

UEFAが初めて開催するスタートアップコンテスト

2024年5月30日、ロンドンのシティホールでUEFA主催のスタートアップコンテスト「CHAMPIONS INNOVATE SHOWCASE」が開催されました。CHAMPIONS INNOVATEとは、チャンピオンズリーグ決勝が行われるロンドン市、UEFA、そしてスポンサー企業の3者が連携し、地元ロンドンにポジティブで永続的なレガシーを残すことを目的とした取り組み。

初開催となる今回は、「サステナビリティ」をコンセプトに、「グリーンエネルギー」「フードテック」「気候変動 / フィンテック」の3つのテーマに対して、2023年秋からスタートアップによるソリューションを募り、SHOWCASEイベントで最終プレゼンテーションが行われました。

100社から選ばれたスタートアップ3社が最終プレゼン

夕方17時に開場した本イベントはネットワーキングからスタートし、UEFAが招待したロンドン市やスポンサー、スタートアップ関係者など約100名の参加者が軽食を片手にコミュニケーションをはかります。メイン会場横のミーティングルームには最終プレゼンに残ったスタートアップ3社のプロモーションブースが設置され、参加者がサービスやテクノロジーに実際に触れたり、創業者やスタッフと直接話したりすることができました。

スタートアップ担当者にとって、欧州スポーツ界に幅広いネットワークを持つUEFAが招いたキーパーソンやメディアと効果的にネットワーキングする絶好の機会となりました。

なお今回、最終プレゼンテーションへ臨んだのは、「グリーンエネルギー」のテーマで、イベントの電力供給を参加するファンやサポーターの足踏みの振動による発電でまかなうアイデア“Smart flooring technology”を提案したPavegen社、「フードテック」のテーマで、サッカースタジアムで販売される飲食メニューに製造や輸送過程で排出された二酸化炭素量を計測・表示し、観客・ファンに低炭素メニューの購入を促す事業モデル“Carbon labelling”を提案したMy Emissions社、そして、「気候変動 / フィンテック」のテーマで、応援するクラブチームの名前と共にサステナブルな行動をファンが公の場でコミットし、対戦するチームのファン同士で環境問題に対するコミットメントを競わせるアイデア“Tackling climate change through collective action”を提案したPledge ball社の3社です。

その後、参加者は全員メイン開場へ移動し、いよいよ最終プレゼンテーションがスタート。ロンドン市の挨拶、主催者であるUEFAによるイントロダクションを経て、各スタートアップ企業とテーマを担当したスポンサー企業の2名1組のチームが順々に登壇しました。

このセッションで特に印象的だった点は、プレゼンテーション冒頭の各スタートアップの紹介映像、そしてスポンサー企業とスタートアップ企業がチームとして登壇し、プロジェクトの舞台裏を対話形式で共有したことです。

まず、各スタートアップの紹介映像に関してですが、UEFA内部のプロモーションチームが制作した映像はどれも素晴らしいクオリティでした。約3分の映像は単なるプロダクト紹介にとどまらず、創業者のパーソナルヒストリーからスタートアップの存在意義、課題、ソリューションの構築までを一つの物語として描くことで、聴衆はその世界観に引き込まれていきます。

次に、各テーマを担当したスポンサー企業とスタートアップのチームによる登壇に関しては、約半年間のプロジェクトの舞台裏がそれぞれの視点から語られていました。スタートアップ社の視点だけでなく、テーマを担当したスポンサー企業側からのビジネスとしての狙いや苦労などもビハインドストーリーとともに紹介されました。どのチームも非常に密に連携して取り組んできたことがよく伝わってきました。

各プレゼンテーションはリアルタイムでデジタルのイラストにて会場で共有

最終的にはサッカースタジアムで販売される飲食メニューに製造や輸送過程で排出された二酸化炭素量を計測・表示し、観客・ファンに低炭素メニューの購入を促す事業モデル“Carbon labelling”を提案したMy Emissions社が優勝しました。評価ポイントとしては、導入コストの低さや他イベントへの展開しやすさ、取り組みのインパクトとスケーラビリティが優れている点があげられていました。

地元ロンドンにポジティブで永続的なレガシーを残すことを主眼とした主催者UEFAの企画意図を強く感じました。

My Emissions社が提供するフードメニュー表記。メニューごとに二酸化炭素排出量に応じたランク分けがされており、 ファン・消費者の意識に訴えかけます

今後の展開:日本企業にとって海外進出に繋がる契機

初開催となる本イベントは「サステナビリティ」をテーマにロンドンで開催されましたが、次回は2025年にチャンピオンズリーグ決勝が行われるドイツ・ミュンヘンで「アクティブライフスタイル」をテーマに開催される予定です。

UEFAのSponsorship & Licensing部門のKai McMahon氏に話を聞くと、「このCHAMPIONS INNOVATEが今後更に発展していくためには世界中から優れたスタートアップに参加して頂くのが不可欠。欧米にはない発想やテクノロジーを日本企業やスタートアップに期待しています」とのコメントがありました。

このUEFAが展開するプラットフォームは、日本企業にとって海外進出の契機になる可能性があります。世界中にファンを抱えるUEFAのメディア機能と、欧州55の国・地域のサッカー協会やクラブを管轄し、行政や巣スポンサー企業など多様なステークホルダーとの接点を活かしたボンド機能を活用し、日本のスタートアップが世界・欧州へ飛躍する機会として検討してみてはいかがでしょうか。

私自身も欧州担当のJSPINアドバイザーとして、引き続きUEFAと密に連携し、この新たな活動をウォッチするとともに、日本のスタートアップやブランドの国際展開に繋がる機会を創出していきたいと考えています。

◇林 鉄朗(はやし・てつろう)

Beside Japan Ltd, Marketing Director。ロンドンと東京を拠点としたスポーツビジネスコンサルタント。欧州と日本のハブとなり、スポーツを基軸としたイノベーション創出支援・マーケティング支援などを行う。ロンドン芸術大学 Central St. Martins イノベーション経営修士課程修了(MA)。SKYLIGHT Sports Global Advisor。JSPINアドバイザー。

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