世界のバスケットボールを統括する国際組織であるFIBAとグローバルパートナー契約を締結する株式会社モルテン。FIBAとの取り組みや国際展開を目指す上で日本企業に重要なことについて、スポーツ庁による日本のスポーツ産業の国際展開を支援するプラットフォーム「JSPIN」アドバイザーの林鉄朗氏が、株式会社モルテン マーケティング統括部の長谷川乃亜氏に聞いた。(初出=JSPIN)
長谷川 乃亜氏
株式会社モルテン マーケティング統括部 ブランドマーケティンググループ リーダー
モルテンにおけるブランド戦略、競技団体と協業した活動や商品のプロモーションなどコミュニケーション全体を統括。幼少からサッカーを始め、メキシコ、ドイツでプレー。日本・英国・米国でのマーケティング、ブランドマネジメントの経験を経て、2021年より株式会社モルテン入社。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス Chicago Management Institute修了。
「Women in Basketball」にモルテンとしてできること
――FIBAとの取り組みにおいてモルテンが心掛けていることは。
すべてを競技人口数で語ることは適切ではありませんが、一つの指標として、女子の競技人口(日本)が18歳を境に大きく減少してしまうこと、FIBAのバスケットボールレポートにおいても平均20.3歳で競技からドロップアウトしてしまうといったデータが出ていました。
そこで、「好きなことを続ける、スポーツを続ける」ために、国内・海外での定量調査やインタビューなどを通じた実態把握、そして、さまざまな競技団体との協働活動による情報発信を行いました。ライフステージによってスポーツに対する関わりは変わっていきますので、いつでもスポーツにアクセスできる最適な環境の実現にむけてモルテンが貢献できることを探索しています。
――女子バスケットボールは市場成長が期待されます。
「Women in Basketball」の活動と会社の戦略をアラインさせることはできたのは、ひとつはビジネスインパクトですね。モルテンのシェアが高いエリアでは、女子バスケットボールの市場が成長することを主導することで、シェア並みに売り上げを取ることができるのではないかと考えていますし、シェアが低いエリアにおいては活動を行うことで、ブランド認知を拡大し、長期的に品揃えの拡充、商品の店頭配荷や個人・チームのボール普及率を上げることができるのではないかと考えています。
また、今後の世界市場での成長性も、社内で説明をしています。サッカーではUEFA欧州女子選手権など、代表単位だけでなくクラブ単位での魅力が高まっていますよね。同じように、バスケットボールでもヨーロッパ・アメリカなどの国々では確実に市民権を得ている実態があります。
女子スポーツが新たなファン、スポンサーシップを呼び込んでいることから、ビジネス規模としてもさらに大きくなっていくことが考えられます。そういった市場に対して手を打つことでモルテンブランドとしての成長機会の可能性を広げていきたいと考えています。
私自身、日々のFIBAとのコミュニケーションの中でも、これまでとは異なるアプローチが期待される市場に対し、FIBAとしても様々な活動に取り組んでいきたいといったニーズを感じております。パートナー権利として提供されるパッケージ化されたプログラムではなく、自らが発意することでFIBAと協働する範囲の広さと深さを得られるのではないかと考えています。
FIBAとの間でクリエイティブなアイデアが生まれる理由
――FIBAとの活動を推進するポイントは、何でしょうか?
現在FIBAと協働して取り組んでいる活動は、モルテンから具体的なアクティベーションの内容や期待する効果を提示し、双方で活動資金・リソースを出し合って私がプロジェクトマネジメントをする形で進んでいます。
モルテンは、シューズなど個人のパフォーマンスが向上するプロダクトではなく、ボールのように試合や練習で公共物として使われるスポーツ用品を提供しているユニークな立ち位置のブランドです。そのため、プレイヤーは勿論、プレイヤーを支える人たちにとってのブランドでもありたいと考えており、2022年から開始した各地域でバスケットボールを支えている人にスポットライトを当てることをコンセプトにした「Women's local champion program」では、FIBA主催大会の開催地を対象とし、コーチや審判、運営者の実績を紹介する機会にしています。
2022年には、FIBAの殿堂入りを果たしているミシェル・ティムズ氏にご協力いただき、歴代のナショナルプレイヤーが集まるパーティーへ招待しネットワーキングのサポートもしました。その場で参加者は自分の活動や課題を共有し、受けたアドバイスをそれぞれが持ち帰り、また現場でアクティブに活動を続けてもらいます。この取り組みは、他の地域にも展開し、昨年の女子EuroBasket2023ではイスラエルとスロベニアでも同様のプログラムを実施しました。
こうしたアイデアが生まれる理由は、なによりも「会話」ではないでしょうか。FIBAとは直接のコミュニケーションラインがあり、毎週ミーティングをしています。各種大会におけるプロモーションなど実務の話もしつつ、前述の3つの戦略の柱における意見交換を意識的に行っています。同時に、モルテンが中長期に考えていることをどう掛け合わせることができるかを考えていくことで、お互いに面白い!トライしていきたい!と思えるアイデアめいたものを膨らませ、壁打ちをしていくイメージです。
――国際的なパートナーシップでは、綿密なコミュニケーションがより求められると。
今後日本企業が国際的なパートナーシップで価値を出すには、パートナーシップによって自分たちが実現したいことの解像度を上げておくことが必要だと思います。そのために相手が実現したいことなどをより深く理解し対話することで、お互いにとって価値がある取り組みが生まれていくものだと考えています。
実際に活動を推進する際の実行の質を高められることも大切です。これは私のグループにおいて一番楽しく、同時に悩む重要な「実力」部分です。ときには社外の方のアイデアに頼ることも必要かもしれませんが、私は最後の最後まで自分たちでこだわったほうがいいと考えています。
そのほうが絶対に楽しいし、その連続がパートナーの信頼を得ることにつながる。グローバルではモルテンブランドの認知は未だ十分ではありませんので、実行部分の質はブランドの認知・理解、ひいては持続的な成長につながっていくと感じています。もっともっと、自分たちにはやれることがあると常々感じています。
そのほうが絶対に楽しいし、その連続がパートナーの信頼を得ることにつながる。グローバルではモルテンブランドの認知は未だ十分ではありませんので、実行部分の質はブランドの認知・理解、ひいては持続的な成長につながっていくと感じています。もっともっと、自分たちにはやれることがあると常々感じています。
例えば、私の場合は、スポーツ庁(JSPIN)で海外派遣していただく機会をもらい、その後加速度的に海外・国内のネットワークが広がりました。そこで出会った方々とプロジェクトが生まれています。自社が抱えている課題や方向性を伝え共有することで、相互理解へとつながっていく。縦・横・ナナメの関係をつくっていくことはすごく大事だと思います。
そして、そのコミュニケーションのベースとして、N=1としての想いの強さが大事ではないでしょうか。やっぱりやらされた仕事と内発的な動機によって生まれた仕事では、何かをつくりだすときに大きな差が生まれるのではないかと思います。
(文=林 鉄朗、編集=石原 龍太郎)
◇林 鉄朗(はやし・てつろう)
Beside Japan Ltd, Marketing Director。ロンドンと東京を拠点としたスポーツビジネスコンサルタント。欧州と日本のハブとなり、スポーツを基軸としたイノベーション創出支援・マーケティング支援などを行う。ロンドン芸術大学 Central St. Martins イノベーション経営修士課程修了(MA)。SKYLIGHT Sports Global Advisor。JSPINアドバイザー。
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