プロ野球開幕から約1ヶ月。新シーズンはスポーツビジネスにとっても新たな挑戦の始まりを意味する。スポーツの視聴・観戦環境が大きく変わる中、「未来のコアファン」につながる“若年層”に一層熱い視線が注がれている。『スポーツファン調査2026』の結果をもとに、調査を実施した株式会社インテージのマーケティングパートナー第2本部 副本部長 小島賢一氏が解説する。 (文=インテージ小島賢一氏)
「熱いコアファン」はどのようにして生まれるか?
新年度の慌ただしさが少し落ち着きを取り戻してきた4月下旬。プロ野球は開幕から約1ヶ月が経過し、ペナントレースの熱気が本格化してくる時期だ。ゴールデンウィークを目前に控え、スタジアムやアリーナへと足を運ぶファンの足取りも一層軽くなる。新戦力の躍動やベテランの意地など、毎試合繰り広げられるドラマは、ファンに「今年もこのチームを応援しよう」と思わせてくれる特別な体験だ。
同時に、スポーツビジネスの観点でみれば、各クラブ・球団にとって「ファンとどのように新たな接点をつくり、継続的な関係を育んでいくか」が改めて問われる時期でもある。近年、放映権料の高騰や配信プラットフォームの拡大、チケット価格の上昇など、スポーツ観戦の環境は大きく変化した。スポーツはかつての「みんなで無料で観るもの」から、「それぞれの関わり方で深く楽しむもの」へとシフトしているのが現状だ。
クラブ経営が高度化するなかで、ファンとの関係をどのように深め、長く続く応援につなげていくかは重要なテーマである。サブスクリプション、限定コンテンツ、プレミアム席など、多様な楽しみ方が広がる一方で、ここで立ち止まって考えたい。その年間何万円も消費してくれる“熱いコアファン”は、一体いつ、どのようにして生まれたのだろうか?
コアファンの起点は「若年期」。データが示す真実
現在熱狂的なファンであっても、最初からそうだったわけではない。誰しも、ある時期に「このチームが好きだ」と心が動いた瞬間があったはずだ。データを見ると、その起点は明確に「若年期」にあることがわかる。
インテージとファンベースカンパニーが実施した『スポーツファン調査2026』によれば、スポーツチームに対して「特別な存在」と感じる割合は15〜29歳が最も高い。若年層ほど、チームを単なる娯楽ではなく、感情的なよりどころとして捉えているのだ。
■チームが特別な存在である
さらに注目すべきは、彼らのアクションだ。若年層は応援グッズを身につけ、声を出し、仲間を誘い、SNSで発信するといった「観るだけでなく、参加し、広げていく」特性を持っている。
ビジネス視点で見ると「若者はお金を使わない」という先入観を持たれがちだが、同調査では観戦チケットやグッズへの支出意向はむしろ若年層の方が高いという結果が出ている。
■チームに対する観戦・応援行動(複数回答)
スポーツは“初恋型”ビジネス。長く続く関係を生む構造
そして何より重要なのは「継続性」だ。約7割のファンが「最初に好きになったチームを今も応援している」と回答している。スポーツは言わば“初恋型”のビジネスだ。最初に好きになったチームが、その後の人生の物語の一部になる。
あるデプス・インタビューの事例では、小学生の時にファンになったチームから一時的に離れてしまったものの、親になり「子どもをきっかけに再び一緒に応援するようになり、熱量が高まった」というケースが確認されている。今ではチーム全体の“箱推し”としてキャンプ地にまで足を運ぶほどだ。
つまり、若いうちに芽生えた「好き」は、目先の短期的な成果のためだけにあるのではなく、数十年単位でチームとの関係を育んでいく起点になりうる。感情を起点とした出会いや関わりは、中長期的に見て大きな意味を持つのである。
■ファンとしての歩み
「若年層ファン」は野球だけではなく競技横断のテーマ
この「若年層のファンを増やす」という課題は、プロ野球に限った話ではない。例えばJリーグでは近年、「推し選手」を軸にした発信を強化している。川崎フロンターレや横浜F・マリノスは、選手の素顔や舞台裏コンテンツを積極的に発信し、若い世代との接点を創出。スタジアム演出やテーマイベントなど“体験価値”を高める設計が進んでいる。
ラグビーのリーグワンも象徴的だ。企業スポーツ色が強かった時代から転換し、地域密着型のホストエリア制を明確化。試合前後の交流イベントや地域活動への参加など、選手とファンとの距離を縮める施策を次々と打ち出している。
これらの競技に共通しているのは、「勝敗そのものだけでなく、物語と体験を設計している」という点だ。若年層はスペック(競技の勝敗や技術)だけでなく、ストーリーに反応し、「共有したくなる気持ち」に価値を見出す世代である。
若年層の心を掴むための「3つの鍵」
では、若年層の心を掴むために具体的にどのようなアプローチが必要なのか。成功事例から見えてくる3つの鍵を紹介したい。
① 「推せる存在」をつくる
若年層はチーム全体よりも、特定の選手を応援する傾向が強い。北海道日本ハムファイターズが選手の個性を前面に出した発信で新規層を取り込んだように、活躍だけでなく人柄や努力の物語、舞台裏コンテンツといった“推せる理由(感情移入の入口)”を増やす設計が重要だ。
② 「一体感」が生まれる機会をつくる
千葉ロッテマリーンズの応援文化や横浜スタジアムの演出、Jリーグのゴール裏、リーグワンのノーサイド後の交流文化など、ファンが求めているのは勝敗以上の“共有体験”と“参加感”である。楽しさは人を呼び、人が増えるほど熱量は増幅する。
③ 「関われる余白」をつくる
現代の若者は「関与」を求める。北海道日本ハムファイターズのエスコンフィールドに見られる街づくりとの一体化や、Jリーグ・リーグワンの地域活動など、日常生活との接点の中に「小さくても関われる入口(余白)」を作ることが、長く続く関係につながっていく。
ファンの熱量は「偶然の産物」ではない
スポーツの有料化・高付加価値化は今後も進むだろう。しかし、ファンの熱量は自然に湧き上がるものではなく、日々の接点や体験のなかで少しずつ育まれていくものである。
プロ野球の開幕は毎年訪れる。だが10年後、20年後もスタジアムやスタンドを満員にできるかどうかは、いまの若者の心にどれだけ「好き」が育っていくかにかかっている。競技を超えて問われているのは、若いうちに生まれる感情や関係性を、いかに大切にできているかだ。スポーツビジネスにおいて大切なのは、いま目の前にある消費だけではなく、これから長く続いていく応援の土台を育むことなのである。
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今回紹介したのは、『スポーツファン調査2026』から読み取れる示唆の一部にすぎない。インテージとファンベースカンパニーが販売を開始した有償版では、ローデータ(Excel)とレポート(PDF)が提供され、ファン基盤の定量評価、消費行動、応援スタイル、地域・社会との関係、スポンサーシップ効果まで確認できる。
リーグ横断で比較したい、チーム別に深掘りしたい、あるいはスポンサー営業や事業企画に活かしたい。そうした実務に落とし込むなら、無料版だけでは見えない粒度が必要になるはずだ。
『スポーツファン調査2026』
https://www.intage.co.jp/news/7476/
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