2026年から「競技成績のみによる昇降格の廃止」など新たなリーグ構想を掲げるB.LEAGUE(Bリーグ)。事業面にも投資を促すことでリーグとチームが一丸となっての成長を目指すが、その将来の柱のひとつが「国際事業」だ。アジアでのバスケットボール熱は高く、中でもフィリピンは有望選手の来日が相次ぐ。Bリーグは先日、マニラでのイベントも開催した。リーグの国際戦略について、国際事業グループ マネージャーの斎藤千尋氏に聞いた。
バスケ熱が高まるアジア。その波に乗ったBリーグ
2016年のBリーグの開幕は、アジアのバスケットボール界に訪れる大きな変化の序章だった。2017年には中国のバスケットボール協会の会長にNBAで長年プレーした姚明(ヤオ・ミン)氏が就任。オーストラリアも同年のアジアカップからアジア地域に加入した。台湾では2つ目のバスケットボールリーグ「P. LEAGUE+」が2020年に立ち上がった。また、2019年には上海でワールドカップ、2021年には東京でオリンピックと国際大会の開催もアジアで続いた。
さらにこの先も、2023年のワールドカップは日本(沖縄)、フィリピン、インドネシアの3ヶ国共催が予定される。国際バスケットボール連盟(FIBA)のアジアへの注力は鮮明で、Bリーグ開幕もうまくタイミングが合ったと斎藤氏は話す。
「アジアがちょうど成長を迎える時期で、私たちは上手くその波に乗ったのだと思います。Bリーグはしっかりとした目的を持って開幕し、オペレーションも整っています。JBA(日本バスケットボール協会)と足並みを揃え、パートナー企業の支援もある。一貫した意思決定で、順調に成長してきています」
「NBAに次ぐ世界第二のリーグ」を掲げるBリーグは、開幕当時のB1クラブの平均的な事業規模は約6〜7億円だったが、これは既に世界No.2を狙えるようなポテンシャルでもあった。
「ヨーロッパにも視察に行きましたが、大きな差がないことがわかったんです。各国トップが集まるユーロリーグのクラブは約20億円の事業規模と頭抜けていましたが、国別リーグのクラブは5〜10億円規模でしたから」
事実、2020年度の決算では、千葉ジェッツがBリーグのクラブとして初めて営業収益20億円を突破。全クラブ(B1・B2)合計の営業収入は241.7億円となり過去最高を記録した。
そして2026-27シーズンからは事業投資を促進するため、競技成績のみによる昇降格を廃止し、ライセンス基準を満たしたクラブがその都度該当ディビジョンへ参入する「エクスパンション型」のリーグへと移行する。スイートルームなどのハード面と、試合日設定などのソフト面両方における新たなアリーナ基準も設け、「経営力」を備えたクラブがB1に集まる新たなリーグとして生まれ変わる。
事業レベルが向上すると、他国の選手も日本でプレーすることを現実的に考えようになる。すでにヨーロッパからもBリーグでプレーする選手が増えてきているが、相乗効果で日本人選手のレベルアップにもつながり、リーグ全体の競技レベルが向上するという好循環も生まれてくる。
Bリーグが取り組むアジア戦略
Bリーグはこれまでにも戦略的にアジア市場の取り込みを行ってきた。2020-21シーズンには選手登録に初めて「アジア特別枠」を創設。特別枠の対象には中国、チャイニーズ・タイペイ、インドネシア、フィリピン、韓国が含まれている。導入から2シーズン目の昨シーズンは、対象5ヶ国で計13選手がBリーグに参戦。特にバスケ熱が高いフィリピンからは有望選手が8人も加わった。
選手獲得は戦力の引き上げ以外にも、事業的なビジネスチャンスが生まれる。三遠ネオフェニックスに加入したサーディ・ラベナ選手の日本でのデビュー戦は、海外向けにFacebookとYouTubeでライブ配信が行われ、合わせて約91万再生、最大同時視聴者数約9万を獲得した。
2021-22シーズンはケーブルテレビ、インターネット配信事業を行うTap Digital Media Venturesを介してフィリピン国内の400万世帯でBリーグの試合中継を視聴できる環境も整え、約70試合を放送。マレーシアでも有料放送アストロで配信が行われている。
ただし、この数年は新型コロナウイルスの影響もあり、現地メディアとのコミュニケーションも含め全てが思い通りに行ったわけではなかった。選手の怪我や出場機会の減少など、コントロールできない部分もある。海外事業の投資フェーズはまだ1〜2年続いていくと斎藤氏はいう。
「投資を全てリーグで回収できることはないと思います。もちろんそうなればいいですが、大事なのはリーグが突破口を作って、露出を現地で生み出していくこと。各クラブが自分たちのスポンサーのビジネスにつなげていく道を、(リーグが)しっかり作ることが重要だと思っています」
オフラインのファンマーケティングも
その上で、リーグは放映だけでないファンマーケティングにも取り組んできた。FacebookやInstagramでは積極的に英語で投稿し、YouTubeでは「Meet B.LEAGUE」という英語でのハイライトやインタビューを中心とした番組も制作している。そして昨シーズンには初めて、海外でのファンイベントも実施した。
5月28日、東京体育館で日本生命 B.LEAGUE FINALS 2021-22のGAME1が開催されている中、フィリピン・マニラのバスケットボール専門ショップ「TITAN Fort」に姿を見せたのは、Bリーグでプレーするフィリピン人選手5人。選手を交えてのビューイングパーティーとトークショーが開催された。
イベントには駐フィリピン日本大使も参加し、現地メディア10社以上が取材。これまではコロナ禍で国をまたいだ活動が制限されていたが、いよいよ本格的に現地での活動を増やしていける状況になった。
「まずはシーズン中にイベントを開催し、現地とのリレーションを作るというのを目指しました。フィリピン現地のメディアや日本人コミュニティともつながることができて、これを今後の活動の足がかりにしていきたい」
斎藤氏は「Jリーグがアジアで積極的にオフラインイベントを開催していることも参考にした」とも述べ、オンラインのみでは計り知れないファンやメディアの熱量を感じられたという。また、このイベントに際し、Bリーグのライセンシングによるグッズを初めて海外で販売することも行っている。
「現地では選手の影響力がとても大きい。ですが選手個々でできることは限られるので、選手とリーグが一緒になっていろいろとやっていきたい」
リーグとクラブ一丸で、世界市場とつながっていく
「リーグが突破口をつくり、クラブがビジネスを広げていく」というBリーグの考えでは、両者の連携がカギになる。
ラベナ選手が所属する三遠ネオフェニックスは、男性向け化粧品を主力とする株式会社マンダムとのトップパートナー契約を締結しているが、ラベナ選手は同社がアジア12ヶ国で展開する若手スポーツ選手と共にアジアの人々に勇気や活力を届けるプロジェクト「GATSBY GLOBAL CHALLENGERS(ギャツビー グローバル チャレンジャーズ)」のアンバサダーとしても活動する。
リーグとしても成功モデルを積極的に発信し、クラブのビジネスのパートナーになり得る企業とのつながりもより増やしていくことを目指す。
また、こうした国際化の中ではクラブ間の提携も見逃せない。2026年のリーグ構造改革に向けて、多くのクラブでは育成や競技運営面でもさらなる高度化が求められる。例えば、千葉ジェッツは韓国のソウルSKナイツやスペインリーグ1部のレアル・ベティス・バロンセストS.A.D(コースール・レアル・ベティス)とパートナーシップを締結するが、このようなパートナーシップから日本のクラブが得られるものは大きいというのが斎藤氏の見方だ。
「特にヨーロッパのトップクラブは、競技サイドの組織づくりに長けています。年代ごとにコーチがいて、それを統括するスポーツディレクターを配置する強化・育成組織などは、Bリーグの各クラブも参考になるのでは」
9月から始まる新シーズンに向けては、フィリピン代表としてもプレーしたジャスティン・バルタザール選手が広島ドラゴンフライズに加入するなど、早くもアジア枠の選手が発表されている。斎藤氏は、「細い糸ではなく、太い橋になれるようしていきたい」とも意気込むが、国際化の流れは止まる様子がない。
アジアを中心として多くの海外の選手がBリーグでプレーし、それを一目見ようと海外のファンもBリーグに熱視線を送る。「コロナ後」は、放映だけでなく、実際に日本国内の各会場へ足を運ぼうとするファンもいるかもしれない。リーグの「国際戦略」は、まだ始まったばかりだ。