2010年代に日本で大きく広がったクラウドファンディング。この流れをスポーツ界でいち早く掴んだ北海道コンサドーレ札幌のパートナー事業部 グループ長の伊藤浩士氏と、元選手で現在はC.R.C(コンサドーレ・リレーションズチーム・キャプテン)の河合竜二氏、そしてクラウドファンディングのプラットフォームを提供する株式会社CAMPFIREの三木悠輝氏に、スポーツコンテンツの活用方法と今後の展望を伺った。
クラウドファンディングが生み出した「最後の花道」
Jリーグでは、全ての選手に引退試合が用意されるわけではないというのを、ご存知だろうか?出場試合数などの規定が設けられており、そのため、引退試合という最後の花道が用意される選手は限られてくる。
22年間の現役生活を送った河合竜二氏も、実はその中の一人だった。そこで、河合氏が考えついたのが、「それなら自分で開催しよう」という発想だった。こうして、北海道コンサドーレ札幌では、4回目のクラウドファンディングとして、異例とも言える、新たな引退試合の形を仕掛けることとなる。
「どうクラブにマイナスをかけずに運営費を集めるかを考えました。色んな方法の中で、クラブもこれまでに実施していた、クラウドファンディングに辿り着きました」と河合氏は話すが、さらに、「もう1つは松田直樹さんのクラウドファンディングに関わった経験も、ヒントになりました」とも続ける。
2011年に急性心筋梗塞で突如この世を去った元日本代表選手の故・松田直樹氏。その松田氏のサッカーや仲間に対する想いを継承して、次世代を担う子供たちが楽しみながら「安全なプレー環境」を学べるフットサル大会『NAOKI MATSUDA MEMORIAL FES.』が開催されたのは2019年8月だったが、それに活用されたのがクラウドファンディングだった。
引退試合を開催するのにも、参加選手の交通費、宿泊費、出演費など、多くの費用が掛かる。加えて、前述の大会を通して、AEDや救護スタッフの必要性も肌で感じた。河合氏とクラブは、少しでもスタジアム使用料の費用を抑えるために、引退試合を公式戦の前座試合として設定した。
「河合竜二が、22年間で培った信頼」
引退試合は、河合氏が以前所属した浦和レッズ戦の前に組まれ、プロのキャリアをスタートさせたクラブのサポーターにも感謝の気持ちを伝えられる、絶好の機会にもなった。このクラウドファンディングに賛同するファンはクラブも驚くほど多く、河合氏の以前の所属チームである浦和レッズや横浜Fマリノス以外にも、多くのJリーグサポーターに支持されたという。
クラウドファンディングの目標金額は200万円と設定していたが、約60日間の期間で740人の支援を受け、合計1,413万4,500円が集まることに。リターンとして支援者へ送るオリジナルTシャツやユニフォームも、リスクを念頭に受注生産としていたが、すぐさま予想を上回ることとなった。
「正直、ある程度の予測は立てていましたが、こんなに多くの支援金が集まるとは思いませんでした。彼が22年間で培った信頼だと思います。(クラウドファンディングを)開設した時から、彼への応援メッセージが凄かった」(伊藤氏)
支援者へのリターンのために制作したユニフォームのパートナーには、クラブパートナーでなかった大手企業も参加。営業担当者も思わず嬉しくなる事態にまでなった。さらに、引退試合当日には、前座試合にも関わらず1万9千人が詰め掛け、「収支がマイナスにならなければ」と意識して臨んだクラブの予想を遥かに超え、大きなプラスを呼び込んだ。
その余剰収益は、北海道コンサドーレ札幌が運営するサッカーのアカデミー、そしてバトミントンやカーリングなど他競技の育成に対しても寄贈することとなった。各チームやアカデミーが必要とするものを購入でき、クラウドファンディングの支援者にも結果を報告することができた。ファンもクラブもハッピーになる、そんな取り組みへとつながった。
当の河合氏も「若い選手にとって大きなチャンスを作るきっかけにもなったので、これからのヒントになってくれたら良いなと思います」と話す。今回のクラウドファンディングが、引退試合の新たな形となる可能性は、大いにあるだろう。
クラウドファンディングとスポーツ。今後の可能性は
CAMPFIREでのスポーツコンテンツに関するクラウドファンディングには、大きく2種類のプロジェクトがあるという。一つは資金不足を解決するもので、もう一つはファンと一緒に何かを作るという形で、どちらもスポーツとの相性は非常に良いと三木氏は言う。その一例が、ファンと一緒に引退試合を作り上げた、河合竜二氏と北海道コンサドーレ札幌だった。
「スポーツコンテンツはサポーターの方々がもともと付いていますので、開始時の爆発力、そしてその後の伸びは、他のコンテンツと違うなと感じます。音楽なども同様で、ファンの方々が一定数いますので、オープンした時に拡散してもらえる。これは、クラウドファンディングを行う上で強みだと思います」
クラウドファンディングには3つのフェーズがあるという。まず初めは、開始一週間での伸び。そして、そこから一定数の継続を経て、最後の2、3日の一波が起こる。そのため、最初の一週間の伸びを最大化させる設計が非常に重要となる。新店舗のオープンで、行列があるとついつい興味を抱いてしまう飲食業界でも例えられるだろう。さらに、スポーツコンテンツは、サポーターの拡散力によって終盤にも伸びを作ることができるのも特徴だ。
一方で三木氏は、クラウドファンディングのポテンシャルがまだ十分に知られていないとも指摘する。
「クラウドファンディングは、マイナスからゼロにしていくためのものというイメージを持たれている方もまだまだ多いです。『お金が無いからどうにかしてください』というパターンですね。しかし、プラスのものをさらに良くしていこうという考えが、私たちが掲げる“共創”のイメージにより近いと思います。資金があるクラブでも、ファンと一緒にもっと良いものを作っていけるという世界観を、スポーツでは広げていきたいと思います」
クラウドファンディングを実施することで、「見えなかったものが見えてくる」という声が多いと三木氏はいう。ファンの率直な声や、実は他チームのサポーターが応援してくれていること、或いは、実はパートナー企業の方々が注目してくれているなどということは、普段なかなか見ることができないが、クラウドファンディングのプロジェクトを通すことで、可視化することができる。
これは、クラブにとっても貴重なファンやサポーターの洞察を得ることにもつながる。どんなサポーターが応援してくれているのか?どのように支援をしてくれているのか?こういったファンの行動を、実際に追いかけることができる。
河合竜二氏の引退試合のクラウドファンディングでは、実はとある元チームメイトや友人も支援してくれていたというサプライズもあった。道内には住んでいないが、コンサドーレを応援する新しい形になったというサポーターの声も聞いた。クラブを取り巻く様々なステークホルダーの存在が見え、ストーリーに共感してくれる人を良く知ることで、日々のコミュニケーションはさらに活性化することにもなる。
クラブが地域のハブとなり、ファンと共に一緒に創り上げていく。スポーツ領域のクラウドファンディングは、そんな可能性があるのかもしれない。伊藤氏は最後に、次にように締めくくった。
「クラウドファンディングには夢があります。やり方次第ではありますが、スポーツビジネスとの相性は、非常に良いと思います」
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