お茶の間のテレビショッピングで知られるジャパネットたかたを筆頭に、8つの事業会社を束ねる(株)ジャパネットホールディングスが、新たな中核事業に据えるのがスポーツ・地域創生だ。2017年にはJリーグのV・ファーレン長崎をグループ会社化し、2023年を目指し「長崎スタジアムシティプロジェクト」も進める同社。陣頭指揮を執る髙田旭人代表取締役社長 兼 CEOに、スポーツの価値を「ジャパネットならでは」の方法で最大化する秘訣を聞いた。(聞き手は田邊雅之)
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V・ファーレン長崎 スポンサーからオーナーへ
――御社は2009年、V・ファーレン長崎のスポンサーになられました。これは後にチームオーナーに就任されることにつながっていくわけですが、そもそもスポンサーになられたのは御社が一貫して取り組まれてきた地域創生の一環という位置付けだったのでしょうか?
「そうだと思います。その時は父(注:ジャパネットたかた創業者・前代表取締役の髙田明氏)の時だったので、地元とのお付き合いという意味合いも兼ねて、スポンサーをやらせていただいていたと思います。」
――先代の社長がスポンサーになることを決定された時に、ずいぶん大変な業界に関わられるなと、思われたりはしませんでした?
「クラブのオーナーシップを持つこととスポンサーになるというのは、全く別の位置付けです。単純にスポンサーの場合は、出したお金が地元への応援だなという感じなので、大変だという感覚はあまりなくて。ジャパネットは全国にチラシなどを配布するんですけど、実は長崎県が全国で一番、お客様のレスポンス率が高いんですよ。やはり地元の企業なので、それだけ地元の方々がジャパネットを応援してくださっている。そういう状況を理解していたので、スポンサー費用はうちが出すべきなんだろうなという感覚で、私は横で見ていましたけどね」
――2017年のV・ファーレン長崎のグループ会社化は、スポンサーからさらに一歩進んだ形でクラブにコミットする形になりました。戸惑いやためらいはなかったのでしょうか。
「V・ファーレン長崎が経営的に厳しいという話は、ニュースでも流れてきていました。我々もメインスポンサーをやらせていただいていた関係で、以前から少しずつお願いされていたんです。正直、長崎でJリーグの運営までできる会社があるかというと、選択肢はそれほど無いですから。取締役としてV・ファーレン長崎に入るというお話もいただいていましたが、責任が持てないのでずっとお断りしていました。
ただし、実はジャパネットがグループ会社化する半年ぐらい前にも、本当に困っているということだったので、5,000万円ほど増資に応じたんです。ところがすぐにまた『債務超過です』という報告がきたので、これはたぶん経営の問題だなと。
そこで『ジャパネットが100%(運営する)という形だったらやれます』とお答えしたんです。当時は(オーナーになるのを)戸惑ったというよりも、単純に『ジャパネット流に本当にお客さんのことを考えてやれば、なんとか運営できるだろう』というような感じで捉えていましたね」
――さらにコミットした方が、理想的な形で運営していけるだろうというご判断だったと。
「そうです。正直、収益性や知名度などの点について言えば、(サッカークラブの経営に関わることは)通販事業につながるメリットを全く感じていなくて。きっと大変なだけだろうという気持ちの方が強かった。
でも、だからといってクラブが無くなってもいいのかと言われたら、それはやはりダメだと。私はサッカーが好きで、もともと(横浜)フリューゲルスのファンだったんです。フリューゲルスが消滅する最後の天皇杯、(清水)エスパルス対フリューゲルス戦も国立競技場に観に行っていましたから。優勝したのに消滅するチームを目の前で見た時に、なんでこんなに良いチームがなくなるのだろうと、強く感じたんですね。
その頃から、いつかサッカーの経営はやりたいと思っていました。自分が社長になって10年ぐらい経ってから、安定した形でやりたいなと。ところが社長になって2年後くらいに話が来る形になってしまった。でも、どうせやるなら今かなと思って手を挙げたんです」
クラブ経営は「当たり前のことを当たり前に」
――V・ファーレン長崎のグループ会社化の後、先代社長はクラブの代表取締役社長に就任され、様々な改革を推進すると共に、Jリーグ全体のイメージ向上にも大きく貢献されてきました。その意味でも非常に意義は大きかったと思うのですが、実際のクラブ経営で、ここは意外に大変だったと感じられた部分はございましたか?
「先日行われた(HALF TIMEの)カンファレンスに登壇させていただいた時も少し言ったんですけど、やはりサッカーと経営を分けて考えることですね。スタッフも含めて、サッカーは特別なんだとみんながあまりにも思い過ぎていて。
例えばジャパネットには、残業禁止や必ずリフレッシュ休暇(連続で9~16日間の休暇)を取りましょうといったルールがあるんです。でもみんな口を揃えて『サッカーでは無理だ』と言うんですね。『じゃあ、それが無理な理由を論理的に説明してくれ』と私はいつも言うんですが、答えはだいたい返ってこない。
一般企業で当たり前のことが、スポーツクラブでは当たり前になっていない。仕事の仕方も注目のされ方も、何か特別感を感じてしまっている。この状況は、思ったよりも根深いなと思いましたね。
私は以前からずっと言っているんですが、コールセンターも特別だし、テレビショッピングのチームも特別と言えば特別なんです。だからこそ『何故、サッカーチームだけ分けて考えるのか』といつも指摘するんです。でも、サッカー業界にずっといた人が発想のスイッチを切り替えられるようになるのは、時間がかかるなと思いますね」
――先日のHALF TIMEのカンファレンスでも、「当たり前のことを当たり前にやる」という発想で臨まれてきたと指摘されていました。
「そうですね。特にジャパネットは、『ちゃんとやろう』ということを社内で徹底して取り組みを行っています。そういう部分でも、V・ファーレン長崎においてもいくつかの問題に取り組みながら、(クラブ経営を)やっているという段階だと思います」
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企業経営もサッカークラブの運営も、本質はなんら変わらない。ジャパネットホールディングスの髙田旭人社長はそう断言する。次回はカリスマ経営者、髙田明氏から受け継いだ社の伝統と、自身が培ってきた経営哲学について伺う。
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