Jクラブと企業をつなげる新たな場『Jクラブ スポンサーマッチングプロジェクト』始動の舞台裏

新型コロナウィルスによるシーズンの中断によって、厳しい経営環境に置かれるJクラブは多い。そんな中、収入の大きな柱の一つであるスポンサーシップの機会創出に向けて、この状況下でも、あるいはこの状況下だからこそパートナーになりたいという企業とクラブをつなぐ新たな取り組みが始まった。『Jクラブ スポンサーマッチングプロジェクト』を主宰する、株式会社マネーフォワード取締役執行役員CFO 金坂直哉氏、デュアルキャリア株式会社代表取締役社長 嵜本晋輔氏、そしてHALF TIME株式会社代表取締役 磯田裕介にその想いと狙いを訊く。

きっかけは、投資家とスタートアップのオンラインマッチング

株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 CFO 金坂直哉氏(左)

新型コロナウィルスが本格化する前の今年3月、マネーフォワードのグループ会社でスタートアップ企業の財務を中心に経営支援を行うマネーフォワードシンカは、資金調達に苦しむスタートアップ企業が出てくるであろう先々に備えて、「起業家と投資家のオンライン面談マッチング」を実施した。これは、対面が当たり前の資金調達の面談をオンラインの舞台へと移行させるプロジェクトであり、業界の常識を覆す取り組みを敢行したとも言える。

反響は大きかった。2週間という期間で、34の投資家と172の起業家からの応募があり、3,000件以上のマッチングを実現させた。金坂氏にとっても、これまでになかった「新しい出会い」の価値を改めて感じる機会になった。

そして今回、着目したのがスポーツだ。マネーフォワードグループは、もともと環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを今後さらに推し進めていく方針だったが、新型コロナウイルスによりスポーツ界も大きな影響を受けていることを目にすると、同氏はHALF TIMEの磯田裕介とデュアルキャリアの嵜本晋輔氏に相談する。

3月に開催した投資家と起業家の面談マッチングを、プロスポーツチームと民間企業にも応用できるのではないか――。相談の中、金坂氏はこの想いを二人にぶつけたという。

「短期的に仕事になる、ならないは別として、誰もやっていないことで新しいつながりが生まれる機会になればと思いました」(マネーフォワード金坂氏)

元Jリーガーの起業家として多くのクラブとも取引のある嵜本氏はすぐさま共感。そして嵜本氏を金坂氏に紹介した磯田も交え、三社による『Jクラブ スポンサーマッチングプロジェクト』がスタートした。

スポーツビジネスのプラットフォームサービスを運営するHALF TIME株式会社がプロジェクト進行と告知活動を、事業者向けにバックオフィスのクラウドサービスなどを提供する株式会社マネーフォワードがスポンサー候補企業への情報発信を、そして数々のスポーツ関連サービスを手がけるデュアルキャリア株式会社がJクラブとの連携を担い、三社それぞれの強みを活かして動き出した。

クラブと企業に出会いの場を提供

HALF TIME株式会社 代表取締役 磯田裕介

プロスポーツクラブにとって、スポーツ興行による集客を図ることができない現状は、厳しい経営環境と言っていい。スタジアムに観客が来るからこそ発生するチケットや、飲食・グッズ関連の収入減は免れず、従ってスポンサーシップにかかる期待は大きい。

この環境下では、新たなスポンサーシップのあり方の出現も期待される。各クラブはこれまで、ステイホーム期間に政府・自治体のガイドラインに沿って感染症拡大の啓発を行うなど、より地域と密接に連携したり、デジタルコンテンツの提供を強化したりなど、新たな取り組みを行ってきた。

スポーツ界が一歩前に進むような、何かワクワクすることができないか――。そんな思いをもとに立ち上がったのが今回のプロジェクトだ。

Jクラブからもすぐさま共感を得た。本インタビューを実施した7月20日時点で、すでにJ1〜J3の13のクラブから参画の返事を得ている。(※8月11日時点では27クラブに。)

「各クラブが企業と新たに出会う機会を求めているニーズが多くあるというのを、改めて知ることになりました」と話すのは、HALF TIME磯田だ。これに同調するようにデュアルキャリア嵜本氏も、スポーツとは直接関係のない周囲の起業家仲間の「(Jクラブから)営業を受けたことがない」との声も代弁する。

各Jクラブが営業努力をしているのは勿論だが、まだまだ取られていなかった接点は多い。従ってまずはこの「出会いの場」を提供することに意味がある。

企業のスポンサーマッチングの申し込みへのハードルもグンと下がっているだろう。在宅ワークが増え、オンラインで人と出会うことが当たり前となった現在、スポンサーシップの検討もオンラインでできないことはない。ましてや、どこにいても、誰とでもつながることができるようになったことで、単純にクラブの所在地ではなく、どのようなスポンサーシップで、どのようなリターンを目指すべきかが一層問われるかもしれない。

プロジェクトでは、企業からの応募は特設Webサイトで受け付けられ、商談希望クラブなどを応募フォームに記入し、それをもとにマッチングが行われる。約2週間となる8月23日まで企業からの募集を受け付け、実際に商談が開始されるのは9月頃からだ。

この取り組みには、どのような企業が賛同するのだろうか?磯田は次のように参画企業への期待を語る。

「新型コロナで苦しんでいるクラブをサポートしながら、スポンサードを通して自分たちも価値を感じたいという企業に集まっていただけると思います。複数のJクラブと一度に話をできることは貴重な機会なので、スポーツに少しでも興味を持っている企業に参加していただきたい」(HALF TIME磯田)

通常、企業は特定のクラブとスポンサーシップについて話し合う。だが今回のプロジェクトでは複数のクラブと同時期に話し合いの場を設けられ、相対比較したり、場合によっては横断的に検討することができる。事業・経営課題をスポーツを通して解決したいと考えている企業だけでなく、いずれはスポーツで稼いでいこうとスポーツビジネスに参入を考える企業にとっても、スポーツ業界の現状を知る良い機会になるはずだ。

求められる、目に見えない価値の創造

デュアルキャリア株式会社 代表取締役社長 嵜本晋輔氏(左)

スポーツスポンサーシップには、常にリターンの明確さが課題になる。これは先述の投資家と起業家のマッチングのような、出資とそれによるリターンが明確なケースとは対照的だ。Jクラブは企業のスポンサードの目的から逆算して権利内容を設計するケースもあり、スポンサー企業にどれだけ魅力的な提案がされるか、未知数の部分もある。

企業のスポーツクラブの活用には、販売促進のような売上に直結するものだけでなく、コーポレートブランディングや採用ブランディング、従業員のエンゲージメント向上など、目に見えにくい費用対効果もある。数字としての明確さが薄いものに関しては、「スポンサーシップの価値を共感してもらえる絵を共に描く必要がある」とデュアルキャリア嵜本氏は言う。

嵜本氏は3年間ガンバ大阪でプレーした過去を持ち、実業家へ転身後は現在デュアルキャリア株式会社と共にバリュエンスホールディングス株式会社でも代表取締役を務める。同社で元Jリーガーで初の上場企業社長(当時は旧社名の株式会社SOU)ともなった同氏は、現在ガンバ大阪のパートナー社でもある。

過去に3年で「戦力外通告」を受けたクラブを支援する理由は、「復讐としてやっています、というのは冗談で(笑)、恩返しと共に、そこに価値があると感じているからです。他社ができないストーリーを作り出し、採用面でプラスに働き、他企業との差別化につながっています」(デュアルキャリア嵜本氏)と話す。

金坂氏は、費用対効果を一層「見える化」することがスポンサーシップの活用、発展のカギだと話す。

「スポーツのスポンサーシップでも目に見える費用対効果を作ることによって継続的なものになると思いますし、クラブ側に取っても適正な値段設定が出来るようになるのではないのでしょうか」(マネーフォワード金坂氏)

スポンサーシップは、「十社十色」とも言える。例えば、BtoC企業でなければ必ずしもファンへ商品を届けることを目的にする必要はない。BtoB企業はチーム内の選手や関係者にそのシステムやサービスを提供することも一つの活用の形となる。販売促進や売上への見返りではなく、サービス浸透や評判を獲得していくのも一つの形になるかもしれない。

お金は出せないけど、何か貢献したい――。そんな思いを持った企業も、今回のプロジェクトを通してクラブとつながっていく可能性は十分にある。

災害や新型コロナウィルスの影響で社会貢献のあり方も変化してきている。企業にとってスポーツへの支援は一種の社会貢献にもなり得るが、それだけでは長続きしない。経営が苦しくなれば、最初に切り離すのがその支援になってしまうからだ。

先述の通り、HALF TIME磯田は、社会貢献的な側面を捉えながらも自社の経営上スポーツ活用を積極的に検討する企業を、今回のプロジェクトの参画企業像に据える。新型コロナウィルスの影響によるダメージの中、今スポンサードを始めることは、これまで以上にファンやサポーター、選手やクラブなど関係者から感謝を呼ぶはずだ。社会への貢献度がこれまで以上に高い今だからこそ、経営面での効果と合わせて意味を見出していこうと思う企業にとっては大きなプラスとなる可能性がある。

このプロジェクトが目指すのは、「クラブとスポンサー企業双方に価値を提供し、よりスポーツにお金が流れてくる仕組みを作ること」だ。スポンサー企業がスポーツのコンテンツ活用という文脈で長期的に投資をしていけば、スポーツ界は産業としてまだまだ成長の余地がある。見据える最終的なゴールは、スポーツ界の発展だ。

「目指すのは、3年後、5年後も『あのイベントがきっかけで・・・』と言ってもらえるような、持続性のあるプロジェクトです」とマネーフォワード金坂氏は言う。

スポーツスポンサーシップがさらに進化し、スポーツ界がユニークな成長産業となり得るのか。多くの出会いが生まれるこの場で生じる化学反応の数で、それが証明されるかもしれない。

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『Jクラブ スポンサーマッチングプロジェクト』特設Webサイト