欧州を中心に世界規模でサッカービジネスを展開するレッドブルは、2024年に大宮アルディージャの経営権を100%取得し日本サッカー界に進出。今シーズンからRB大宮アルディージャとして活動している。レッドブル・サッカーのグローバル戦略、そして日本での取り組みについて、コマーシャルディレクターのフィリップ・ヴンダーリッヒ氏が、スポーツビジネスカンファレンス「HALF TIEMカンファレンス2025 supported by アビームコンサルティング」で語った。
Jリーグ初の100%外資オーナーとなったレッドブル
J2の大宮アルディージャは2024年にレッドブルが経営権を100%取得し、RB大宮アルディージャとして今シーズン、新体制でリーグに臨んでいる。フィリップ・ヴンダーリッヒ氏は2年半ほど前にレッドブルに参画し、現在はコマーシャルディレクターとして日本に居を移している。
レッドブルのグループに入ることのメリットを、同氏はこう説明する。
「RB大宮アルディージャはレッドブルファミリーの一員になりました。これにより、レッドブルが持つさまざまなリソース、例えば他のサッカークラブやF1、そしてエンターテインメントと連携することができるようになりました」(ヴンダーリッヒ氏)
レッドブルは、2005年にザルツブルグ(オーストリア)を買収して以降、ニューヨーク・レッドブルズ(アメリカ)、レッドブル・ブラガンチーノ(ブラジル)、RBライプツィヒ(ドイツ)と、そのネットワークを広げてきた。複数クラブの保有を行うマルチ・クラブ・オーナーシップ(MCO)の代表格となっている。

レッドブル流、日本市場へのアプローチ
では、なぜ日本のサッカークラブに目をつけたのだろうか。
「アジア、特に最大のポテンシャルを持っている日本に進出することで、世界的なネットワークをつくりたかったからです。ただし、私たちが掲げているビジョンは『日本のフットボールの未来を一緒につくる』というもの。私たちのネットワークを介して日本の選手が世界で活躍できれば、お互いにメリットがあると思っています」(ヴンダーリッヒ氏)
この学び合い、共に成長するという姿勢は幾度となく同氏が強調したものだ。
「オーナーシップを持ったからといって、これまでのやり方を否定して『これからは全て私たちのやり方で行います』という方法は採りたくありません。重要なのは、シナジーです。組織体制の作り方やグローバルリソースの活用など新しいことも採り入れますが、最終的にはファンにとって重要なこと、地域コミュニティとって重要なことに耳を傾けたいと考えています」(ヴンダーリッヒ氏)
例えばユースの育成を重要な点のひとつに挙げるが、それも「双方向」の協力を前提としている。
「国際的に活躍するコーチを日本に呼んで来たり、逆に大宮のコーチに海外でのコーチング経験を提供するなどの交換プログラムを、世界中でできればいいですね」(ヴンダーリッヒ氏)
スタジアムDJやF1チームとのクロスプロモーションも
レッドブルが経営参画して以来、クラブ名やエンブレムの変更、そして人事面などに変化がもたらされてきた。ただ、レッドブルはもともとエナジードリンクで成功した“マーケティング会社”。今後は、マーケティング面にも注目が集まる。
「スタジアムにどれだけお客さんが来てくれるかが課題だと思います。リーグとしてもクラブとしても、まだまだ努力できる余地があるのではないかと思います。とにかく、ファンにスタジアムに来てもらわないと始まりません」(ヴンダーリッヒ氏)
例えばすでに「スタジアムDJ」が音楽をプレイしてスタジアムでの体験を向上させたり、F1チームとのクロスプロモーションを実施して幅広いファンにリーチしようとしている。今年4月にお台場で行われたF1マシンのショーラン(デモ走行)イベントでは、レッドブル・レーシングの現役F1ドライバー、角田裕毅選手とも共演した。
「もっとエンターテインメント要素を届けたいと思っています。ステージの裏側やピッチ外の情報を届けることで、ファンダム(熱烈に支持するファン文化)を広げていきたい」(ヴンダーリッヒ氏)
こうしたサッカー界では型破りとも言えるアプローチは、レッドブルの哲学に基づくものだという。レッドブル創業者のディートリヒ・マテシッツ氏の言葉はこうだ。
「We are not talking about the last 100 years of football history, but about the next 100.(私たちはフットボールの歴史の過去100年を語っているのではない。次の100年について語っているんだ。)」
「とてもインスピレーションに富んでいますよね。日本のサッカー界においてRB大宮アルディージャが長く活躍できるように、長期的な視野で取り組んでいきたいと考えています」(ヴンダーリッヒ氏)
カンファレンス・アーカイブ動画
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