プロスポーツ興行やコンサートが巨大化する一方で、選手のケガ、異常気象、イベント中止など、事業を揺るがすリスクも拡大している。欧米ではトップアスリートや大型ツアーを支える「スポーツ保険」が成熟してきたが、日本を含むアジアでは、いまだ「コスト」としての認識が根強い。
保険を成長のための「戦略」に変えるには何が必要か? 英国の専門保険仲介会社Miller社でスポーツ&エンターテインメント領域のアジア地域を統括するシバ・クリシュナン氏と、アビームコンサルティングの若松朋由氏が、7月に開催されたスポーツビジネスカンファレンスで語り合った。
【次回はこちら】12月22日(火)開催「HALF TIMEカンファレンス2026 Vol.2 supported by アビームコンサルティング」
治療費だけでなくアスリートの「キャリアと未来」を守る
スポーツビジネスは紆余曲折を経ながらも堅調な成長を維持。これに伴い、競技力向上、ファン獲得、収益拡大などが主要な論点として盛んに論じられてきた。だが事業規模が広がるほど、選手のケガ、異常気象、サイバー攻撃、イベント中止といった不測の事態が事業に与えるリスクも高まる。そこで若松氏が強調したのが、「保険を単なるコストではなく、成長を支える戦略的投資として捉え直す」という意識だ。
専門保険仲介会社のMiller社は、まさにこの分野で高い実績を誇る。2025年の取扱保険料は約50億ドル。スポーツ&エンタメの専門チームだけで50名以上を擁し、プレミアリーグの選手を始めとするトップアスリート、FIFAやF1などのイベンター、大規模な音楽ツアーまで支えてきた。
代表的な保険のひとつが、アスリートに象徴される「人材」を守るもの。セッション内で紹介されたのは、14歳でアカデミーに見出され、17歳でプロ契約、年代別のイングランド代表にも選ばれながらも、19歳で負傷しキャリアを絶たれた英国の若者の姿だ。
そんな彼を支えたのが、Millerの「競技生活終了補償」だった。彼はこの保険に加入していたおかげで補償金を受け取っただけでなく、大学進学などにかかる費用の支援も受け、安心してセカンドキャリアを模索することができた。
「ケガで1年間試合に出られなくなってもクラブが給与を支払います。しかしスポンサー収入をはじめとする給与以外の収入は途絶えてしまう。コロナ以降はメンタルヘルスの問題も深刻になってきました。アスリートはこのような様々なリスクを踏まえて、現役を引退せざるを得ない場合や、長期的に活動できなくなる事態に備えなければなりません。Millerはプレミアリーグに所属するサッカー選手の約6割を顧客に持っており、1,500件を超えるアスリート向け傷害保険も手がけてきました」(クリシュナン氏)
重要なのは、これらの補償内容が選手一人ひとりのキャリアや市場価値に合わせてテーラーメイドされる点だ。だが多くの組織では、保険の手配はいまだにコスト管理の一環として財務部門に委ねられ、現場の実情が契約設計に反映されにくい。この事実を踏まえて、若松氏は次のように警鐘を鳴らした。
「保険を財務任せにしてはいけないというのは重要な指摘、アスリートに何が必要かを本当に理解しているのは現場です。現場が関わってこそ、必要な補償を設計できる。その意識を、少しずつでも浸透させていく必要があるのではないか」(若松氏)
コンサートは「経済圏」。大規模音楽ツアーの影響力
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