データが物語る日本ラグビーの未来像(2)地域密着型の運営をいかに定着させるか

アジア初となるラグビーW杯開催、そして新たなプロリーグ構想の発表。日本ラグビー界に変革の追い風が吹いている。はたして日本ラグビーはいかなる可能性を秘め、何を目指していくべきなのか。長年、観戦者調査を実施してきた早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授に、日本スポーツマネジメント学会での調査報告に合わせて、未来への指針について聞いた。(聞き手は田邊雅之)

前回インタビュー:データが物語る日本ラグビーの未来像(1)国内ラグビーの人気低迷を打破するには

地域密着に必要な方策とは

――これはHALF TIMEの読者に向けた基礎的な質問ですが、では日本のラグビーが地域密着型に移行し、リピーターと呼ばれるファンを増やしていくためには、具体的にどのような方策が必要だと思われますか?

「まずチームごとに観客のデータを把握しながら、繰り返し試合観戦に行くことで何かメリットがあるようなシステムを作って、マーケティングを展開していく。月並みですが、いわゆるファンクラブや会員制度、あるいは試合観戦に行く度にポイントが貯まるような仕組みを作ったり、ファン同士のつながりをどんどん育めるようなアプリケーションを作ったりすることから、着手していくという感じになると思います」

――アプローチ自体は目新しいものではなくても、地道なことをやっていくと。ただしJリーグやBリーグのクラブも同様のことを試みてきたのは事実です。競合する他のスポーツと、何らかの差別化を図って集客していくことは可能なのでしょうか。

「可能だと思います。まず心理的には、自分が住んでいる街のスポーツチームはどこでも応援するというメンタリティもありますから。確かにヨーロッパの場合は実質的にサッカーしかありませんが、アメリカでは一つの街に野球やアメリカンフットボール、アイスホッケー、あるいはバスケットボールと様々なチームがある。しかも少しずつシーズンが違っていて、どのカテゴリーも応援できるようになっているので、競技間でバッティングするようなケースは、基本的にはないんじゃないかなと思います」

――むしろ地域のクラブ同士が連動して、うまくシナジーを生み出していける可能性もある。

「特定の企業のチームではなく、その街に根付いたチームに変わっていけば、カテゴリーを跨いだ横のつながりも出てくるでしょうしね。私はそういう発想の方がいいと思います。

例えば今年はW杯の影響もあって、ラグビーのシーズンが少しずれるんですね。これに対応するために、『野球やJリーグと試合日がバッティングした場合にもラグビーの試合を見に行きますか』というアンケートを、この7月から行っているんです。先日も釜石で調査をしたんですが、ほとんどの人は他のスポーツとシーズンが重なっても見に行くと回答している。

回答されたのはコアなラグビーファンの方たちだったのかもしれませんが、こういうデータを考えても、それほど取り合いにはならないんじゃないかと。実際、スポーツ界にとっては協働したり、共存共栄を図っていった方がいいかなと思うんです。競合するのは、むしろ他の余暇活動になるはずですから」

他のスポーツではなく、他のエンタメに対抗していく

ラグビーW杯2019が9月20日についに開幕。TV放送は3局がコンテンツとして扱う。画像=Ned Snowman / Shutterstock.com

――カテゴリーの異なるスポーツ同士がファンの獲得競争をするのではなく、むしろ各クラブが協働してスポーツ界全体を盛り上げて、他のエンターテインメントに対抗していくべきだと。

「たとえば皆でわーっと盛り上がってストレスを発散したり、仲間と一体感を得られるということだけでいえば、カラオケボックスに行くという選択肢もあります。言葉を換えれば、カラオケボックスとディズニーランド、ラグビー観戦の中から、どれを選ぶかというような状態だと思うんですね。そこでポイントになるのは、気軽さや手軽さ、プラスアルファで何が得られるかになる。そういう視点でマーケティングができればいいんじゃないかなと思います。

ただし、そういう仕組み作りを、誰がやるかという問題もある。今の段階ではトップリーグ=協会になっていますが、チームが置かれた状況や、人々に愛される娯楽というのは地域や街ごとによって違ってくるんです。それを考えれば、やはり各チームが競合する娯楽との関係性を確認しながら、主体的にマーケティングができる仕組みを作らないといけません」

Rugby
「ラグビー以外」の観戦理由は堅実に増加している。図=編集部作成

――そこで問題になるのは、興業の在り方になってきますね。現時点では協会側が試合を主催する形になっているため、試合で得られた入場料収入がチームの台所事情に響かない構造になっています。

「その通りです。そういうマーケティング的な意識や、お客さんを集めないと興業として成り立たないという認識を持っていないチームの方が多いので、モチベーションをどうやって持ってもらうようにするかは難しいところです。でも、その仕組み作りを、協会なり統括する組織がやらないといけないと考えます。そういう枠組みを作った上で、マーケティングは各チームが現場で行うようにする。

やはり地域によって特性は違いますし、例えばここのチームはこういう人達をターゲットにして、この競合他社とバッティングしないようにしながら、共存できるようにしなさいと細かくケアしていくことはできないですから。確かに地域特性とか、各チームの顧客の情報などを統括する側で全て把握できればいいのかもしれませんが、それは難しいと思います。それを考えても、やはり各チームが地域ごとに、独自に動けるような仕組みを作っていった方が有効ではないかと」

カテゴリーの異なるスポーツクラブと競合するのではなく、スポーツ全体を盛り上げて、他のエンターテインメントに対抗していく。その鍵となるのが、地域ごとのきめ細かなマーケティングだ。次回は日本ラグビー界が抱える最大の問題の一つ、試合の興行権について伺う。


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