レアル・マドリード、ロサンゼルス・レイカーズなど世界的スポーツチームのドクターらが参画するSports Doctors Networkが、2025年6月に都内で開催したアジア初カンファレンスで、基調講演に登場したのが五輪メダリストの室伏広治氏。体育学の博士号も持つ同氏が、スポーツ医科学の可能性について語った。
41歳まで現役 「医療関係者やコーチの力」
室伏広治氏といえば陸上男子ハンマー投で2004年アテネ五輪金メダル、2012年ロンドン五輪銅メダルの「鉄人」。一方で、体育学の博士号を持ち、現在は東京科学大学特命教授も務めるスポーツ科学の研究者でもある。
講演の中で、自身の競技歴をこう振り返る。
「ハンマー投の競技者として41歳まで現役を続けました。16歳から40歳までの競技記録では、30歳手前にピークがきて、そこからゆるやかに落ちていく。若いころと比べて現役の最後はトレーニングの仕方も違いましたし、ケガをしがちになったり回復にも時間がかかりました」(室伏氏)
それでも世界トップのパフォーマンスを維持できたのは、医療関係者の尽力やコーチの指導の賜物だという。
「長い競技生活によって股関節痛、腰痛もありました。34歳の時には狭窄症やヘルニアも見られました。整形外科の専門医からは『もう競技には参加できません』と断言されましたが、理学療法士の先生などに指導していただいたりして、現役を続けられました」(室伏氏)
結果的に、37歳で出場した2012年ロンドン五輪では銅メダル。オリンピックの舞台では、2大会ぶりのメダル獲得となった。
「まだまだ今後も、スポーツ医学・科学によって開拓されるものがあるのではないかと思います」と、室伏氏。一方で、競技キャリアを長く続けるためには様々な工夫が必要とも話した。
「近代的なトレーニングでは、人間も動物だということを忘れて機械的にメニューをこなしてしまいますが、野生性というか、生き物としての感覚であったりフィーリングなどを失わないようにトレーニングを工夫していくことが、長く競技を続けていく上でも重要なポイントだと思っています」(室伏氏)
JAXAと連携 「人類の可能性をひろげていく」
室伏氏は現在、スポーツ庁長官を務めている。スポーツ庁では、スポーツが持つ可能性を他分野と連携することで広げていく取り組みを進めているところで、7月にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)との連携協定が締結された。
「先日、JAXAとスポーツ庁で“人類の可能性を広げる”という連携協定調印を行いました。元宇宙飛行士の野口聡一さんから、パラリンピック水泳金メダリストの木村敬一選手、ブラインドサッカー男子日本代表の川村怜選手まで、宇宙飛行士とパラアスリートが共にいるというのが重要な点です」(室伏氏)
具体的には、トップアスリートと宇宙飛行士がそれぞれの施設を活用してトレーニングを行ったり、無重力での健康管理やスポーツでのコンディショニングづくりなどのノウハウを相互に共有していく予定だ。宇宙での活動を通して、身体機能に関する研究も行われるという。
「野口さんは、宇宙空間の船外活動では音が聞こえないので、コンコンと手で叩く感触で確認していたとおっしゃっていた。パラスポーツは真っ暗な中や、音のない世界で自分なりのリズムを作ってプレーしている。こうした困難を乗り越えて不可能を可能にしていくプロセスが、とても親和性があるのではないかと考えています」(室伏氏)
目指すのは、スポーツ界だけでなく人類にとってのより良い未来だという。
「我々人類は、フロンティア精神を発揮して常に新たな環境を求めてきました。常識を破り、人間の可能性を探究し、人類、地球にとって新たな価値を創造することができればと思っています」(室伏氏)
「Sports Doctors Network Conference 2025 in TOKYO ―最先端スポーツ医療を、すべての人へ―」では、この他、レアル・マドリード メディカルアドバイザー、ロサンゼルス・レイカーズ チームドクター、テニス・伊達公子氏、元サッカー日本代表・鈴木啓太氏など多様な専門家・アスリートが登壇した。その模様を、HALF TIMEマガジンでは引き続き紹介していく。