Bリーグ盟主・アルバルク東京が描く「東京のクラブ」としての未来像【林邦彦社長インタビュー】

2016-17シーズンは代々木第二体育館、2017-18シーズンからは、アリーナ立川立飛を本拠としてきたアルバルク東京だが、2022-23シーズンからは収容人数13,243名の代々木第一体育館をホームアリーナにすることが決まっている。1万人を超えるアリーナでのゲーム主催は大きな挑戦であると同時に、Bリーグのトップクラブが目指す「夢のアリーナ」への試金石にもなる。アルバルク東京の林邦彦社長にホームアリーナ構想、ホームタウンの東京の可能性と未来について聞いた。

前回:非日常体験の提供で「磁場」になるクラブへ。アルバルク東京・林社長に聞く、クラブ経営のカギ

2022-23シーズンから代々木第一体育館へ

アルバルク東京は2022-23シーズンから代々木第一体育館をホームアリーナとする。画像=picture cells / Shutterstock.com

「我々の会社の体力では、いきなり自前でアリーナを持つというのは難しいと思っています。ただ、トヨタや三井物産といったグループ全体や、アリーナを期待してくれる方たちと協力して建設が進めば素敵なことだと思いますし、そこを目指そうとも思っています」(林氏)

各クラブが自前のアリーナを持つというのは、Bリーグが誕生当初から目指している施策だ。ただし、建設費の捻出方法や収益方法など、課題も多い。バスケットボールだけでなく、他のイベントでも活用できるように複合施設化するなどしなければ、継続的な収益も見込めない。

B1ライセンス交付の条件にある「5,000人以上収容可能のホームアリーナの確保」を達成するには、アリーナ立川立飛の3,000人では足りない。プロスポーツクラブのない立川地域には、チームを歓迎する「アルバルクの風」は吹いていたものの、最終的には2022-23シーズン以降は代々木第一体育館をホームとすることを決めた。

一方で、アルバルクは、「5,000人以上収容可能なアリーナの新設計画も継続」との意向を公にしている。

「代々木第一体育館を、将来的にもホームアリーナとしながらやっていくのであればそれはそれでいいという考えもありますが、使用料を考えると毎試合1万人以上動員しないと厳しいという試算が出ています。その他のコストも併せて考えると、自前のスタジアムを建てた方がいいという考え方もあります」(林氏)

「観客が毎試合1万人入れば、自走式経営が実現する」

トヨタアルバルク東京株式会社 代表取締役社長 林邦彦氏

「会場のキャパシティが大きくなると、当然集めなくてはならないお客さんの数も大きくなっていきます。代々木第一体育館の収容人数が約13,000人だから立川のときの4倍ですよね。これだけお客さんが入ったら、メディア露出も含めて相当な効果があり、おのずと収益基盤が確立されて、クラブ運営が自走式になって行くと思います」(林氏)

収益構造を考えたとき、参考としたいのがプロ野球の「ボールパーク化」の流れだ。アミューズメント機能を強化して観戦会場を多目的化し、スポーツに興味のない人でもその空間を楽しめるようにする。その点、三井物産フォーサイトで広島東洋カープの成功例を支えてきた林氏には、集客とファンの満足度を高める施策の両方の知見がある。

参考にするJリーグ 大きな違いは「規模感」

「マツダスタジアムのフードサービスは、三井物産で私の隣のグループで働いていた先輩が今でも社長をしているエームサービス㈱でやっています。その他にも、僕は大学までサッカーをやっていたので、Jリーグをはじめサッカー関係者には割と友人が多い。スタジアム事業では、彼らが先駆者なので参考になることは多いし、情報交換もさせてもらっています」(林氏)

Bリーグは、20数年先行するJリーグをお手本にしている面が多い。

「 BBリーグとJリーグの違いを一つ挙げるとすれば、その規模感ですよね。『スタジアムグルメをやるぞ』といっても、Bリーグでは鹿島スタジアムのようなラインナップで実現させるのは難しい。サッカースタジアムに比べて、バスケットボールのアリーナは小さいので、限られたスペースで凝縮してやっていかなければならないという課題があります」(林氏)

課題は規模感だけでなく、地域の中での存在感に関してもあると同氏は続ける。

「地域との関わりでも、近年地元との密着度を増している川崎フロンターレのような成功例は、まだまだ我々には出せません。実業団チームからプロに移行したクラブと、地元に根ざしたクラブづくりを続けてきたJリーグとでは、まだまだ差があります。フロンターレのクラブOBで今はスポーツキャスターの中西哲生氏は、私の大学の後輩ということもあって、彼らからヒントをもらったりしています。実はアルバルクにはフロンターレから来てくれた社員もいるんですよ」(林氏)

アルバルク東京のホームタウンは「東京」。クラブの活動理念にも「バスケットボールを通してスポーツの振興・普及に努め、ホームタウン東京を中心とした地域に寄与します」、「首都東京のクラブとして、バスケ、スポーツを通じて世界に発信していきます」と地域貢献に向けた宣言が並んでいる。

しかし、5年前までは「トヨタ自動車アルバルク」として活動していたクラブであり、「なぜ東京なのか?」という率直な疑問をぶつける人もいる。

「トヨタ自動車の本社が愛知県豊田市で、同じくトヨタ自動車工業サッカー部からプロクラブになった名古屋グランパスエイトは愛知全域がホームタウンになっています。なのに、なぜアルバルクは名古屋、愛知じゃないの?と思っている人もたくさんいると思うんですよ。だからこそ、アルバルクと東京を結びつけるようなメッセージを強く打ち出し、地域に対して貢献し、地元密着のイベントをもっとやっていかなければいけないと思っています」(林氏)

首都東京の「ホームタウンとしての可能性」

首都東京はホームタウンとしてのポテンシャルが溢れる。画像=segawa7 / Shutterstock.com

日本の首都であり、中心部だけで960万人以上の人口を誇る東京は、本来はビジネスにおける可能性にあふれているはずだ。しかしJリーグでさえ、そのポテンシャルを十分に発揮できているクラブは?と問われると、なかなか思い当たらない。

単純比較はできないが、人口890万人の英ロンドンがアーセナル、チェルシー、トッテナム、ウエストハム、クリスタルパレスなど、複数のプレミアリーグ所属のサッカークラブを抱え、商業的な成功を収めていることを考えると、東京でのプロスポーツクラブのポテンシャルはまだまだ未開発だといえるだろう。林氏は次のようにこの比較を見る。

「ロンドンの例でいうと、たとえばチェルシーのファンは多少の流動性はあってもずっと応援し続けている人が多い。もちろんほかの国でのサッカーの歴史の深さや、スポーツの中での人気が高いということもありますが、チェルシーファンはずっとチェルシーファンで、アーセナルファンはずっとアーセナルを応援しているんだと思います」

一方、スポーツとそのファンの関係性は、その土地の歴史や地理的条件、成り立ちなどから築かれている。林氏は次のようにも続ける。


「東京は人の流動性が高い街なんですよね。人々が根付いている期間が短いこともあって、大阪のように家族全員、親子代々阪神ファンが当たり前という文化とは少し違います。じゃあ、東京出身者が東京に愛着がないかというとそんなことはなくて、私も東京出身なんですけど、とても愛着を感じてるんですよ」

共存共栄という一つの解

albark tokyo

そもそも地方出身者が多い東京では、阪神ファンやロンドンのサッカークラブとまったく同じ方法が通用するわけではない。「令和はバスケ」を名乗る新興勢力のBリーグにとって、プロ野球やJリーグと対抗することだけが取るべき手法ではない。様々なスポーツと共存共栄するという選択肢がある。

「いろんなスポーツ、クラブを応援するという道もありますよね。シーズンスポーツを、その季節ごとに応援してもらうんです。現行のスケジュールでいえば、東京の人が春から秋は FC 東京を応援して、冬はアルバルクを応援するというような文化が生まれたら理想的ですよね」(林氏)

エンターテインメントの選択肢の多い東京では、スポーツ以外の競合とも闘っていかなくてはならない。しかし、アルバルク東京の試合の面白さを追求し、プロスポーツクラブとしての価値を高めていくことこそ、本質的に目指すべき命題だ。

「エンターテインメントの豊富な東京だからこそ、『1回観たらもういいかな』と思わせたらダメなんです。初めての観戦体験こそが大切です。アルバルクの試合を初めて観にきていただいた方に、1試合行われる約2時間、さらにはアリーナに行って帰ってくるまでの数時間をどれだけ楽しい時間にできるか、アリーナを楽しい空間にできるかを追求して、これからもいろいろな仕掛けをしていきたいと思っています」(林氏)

しかしながら、試合の会場へ出かけることを阻む新型コロナウイルスの感染拡大によって、アリーナビジネスにも変化が求められている。

「とにかく、『安全・安心』に対する工夫が急務です。私たちのビジネスモデルも、状況や環境に合わせて変わっていくべきなんですね。試合そのものがない、アリーナに観客が集まれない、といった状況においても、価値を提供できる方法を作りださなくてはいけないわけです。たとえば試合を課金してWebで観ていただくとか、プロクラブである我々は、提供できる価値のマネタイズを常に考えていきます」

私たちの生活には、新しい常識「ニューノーマル」が求められている。さまざまなエンターテインメントが歩みを止めざるを得なかったが、徐々にその一歩を踏み出しはじめている。なくなって初めてその価値を知ることも多かったが、スポーツもその1つではないだろうか。勝利を目指して純粋に努力する選手、そこから生まれる素晴らしいパフォーマンスに私たちは心を奪われる。

林氏の言葉には、アルバルク東京が試練を乗り越えて、これからも前に進んでいく意気込みが表れていた。

「私がこれまでの商社マンとしてのビジネスで学んだことですが、本当にピンチのあとにチャンスがくるんですね。ピンチのときこそ知恵を働かせなくてはならないので、人もビジネスも成長していくのです」(林氏)


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