ラグビー・静岡ブルーレヴズにはなぜ「ビジネス人材」が集まるのか? 山谷社長が重要視する「チームとフロントの相互理解」

静岡ブルーレヴズは、もとはヤマハ発動機ジュビロとしてラグビー・トップリーグを戦っていたが、新リーグとなる「リーグワン」が誕生した2022年シーズンから法人として独立し、チーム名を新たにしてスタートを切った。プロスポーツクラブとして独立採算でビジネスを行うのに必要不可欠だったのが「フロント人材」で、2年目のシーズンに向けても引き続き募集を行う。初代代表取締役社長に就任した山谷拓志氏に、初年度のシーズンを振り返っていただきつつ、クラブの採用戦略をうかがった。(聞き手はHALF TIMEの採用コンサルタント 矢田葵)

プロスポーツチームにとって欠かせない「広報」

矢田 葵(以下、矢田):静岡ブルーレヴズとしての1年目のシーズン、ビジネスとして振り返ってみてどのような総括をされますか?

山谷 拓志氏(以下、山谷):事業としての成績でいうと、スポンサー契約が約3億円、チケット収入は5000〜6000万円、グッズ売上は2000万円弱といったところです。チケット収入はコロナの影響があったので、今後はもう少し伸びが期待できます。スポンサー契約については、当初の目標を1.5億円としていたところ、半年ほどで3億円を達成できているので、上々の滑り出しだったといっていいでしょう。

矢田:そんな中で、広報部門の管理職を募集されていますね。

山谷:そうですね。プロスポーツチームにとって、情報発信というのは実はとても大事なことなんです。たとえば、メディアに対しては、より多く露出してもらうためのアプローチをしていかなくてはなりません。どんなふうに取り上げてもらいたいかというイメージから逆算して、戦略を立てていきます。メディア側へどう交渉していくかという営業的な側面もありますね。

また、ファンに対してのアプローチも重要です。ブルーレヴズのファンは40代以上が6割を占めるのですが、そうなるとSNSに加えてホームページにも力を入れなければなりません。最終的にチケット購入のコンバージョンにつなげるためにも、いかに自社の顔となる魅力的なホームページを作るかが課題です。こうしたデジタル活用も含め、クリエイティブ、ブランディングも踏まえて、総合的なプロモーション戦略を上流から策定していくマネジャーを求めています。

矢田:広報といっても、かなり守備範囲が広くなりますね。求めているのは、どんな人物像ですか?

山谷:営業職やマーケティング担当であれば、スポーツのことをあまり知らなくても大丈夫ですが、広報という部門はスポーツビジネスの知見がある程度ないと務まらないかもしれませんね。もちろん、ラグビーという競技について深く知っていればベストですが、少なくともスポーツビジネスの何たるかを理解している必要はあるかと思います。

スポーツチームは、現場(チーム)と運営(フロント)の関係性のバランスをとるのが難しい。運営としては、受けてほしい取材があって選手の練習を早く切り上げてもらいたいと思うんですが、チーム側にももちろん事情はあってなかなか時間が取れないかもしれない。広報にはそこをうまく調整する力が求められます。

チームとフロントの相互理解がビジネスを前に進める

静岡ブルーレヴズ、フロントスタッフのみなさん。写真提供=静岡ブルーレヴズ

矢田:私も学生の頃に体育会の学生連盟担当、いわゆる「学連」という仕事をしていたことがあるんですが、確かに運営側と選手側の調整は難しかったですね。喜んでいる勝利チームから選手一人を呼び出すにも、その場の空気感をきちんと読んで置かなくてはならなかった記憶があります。ブルーレヴズでは、チームと運営の距離感をうまく保つために、どんな組織づくりを心がけていますか?

山谷:選手と運営側のスタッフって、同じ空間にいる時間が圧倒的に少ないんですよ。つまり、お互いのことを知る機会がないんですね。そこをつなぐのが、社長の役目だと思っています。以前にトップを務めていたバスケチームでは、事務所内にマッサージルームを作ったりしましたね。選手が頻繁にそこを訪れることで運営側のスタッフと顔を合わせる機会も増えるので、お互いにお願いごとなどがしやすくなりました。

矢田:物理的に一緒にいる時間を作るということですね。

山谷:ブルーレヴズも、9月にオフィスを移転する予定です。磐田市の大きな公園の近くで、2階がオフィスで、1階は誰でも利用できるカフェにします。練習場からも近いので、選手にも利用してもらおうと思っています。スタッフはもちろん、ファンの方とも交流してもらえればいいなと。

その他、運営、選手、スタッフみんなを入れたLINEのグループも作って、チームの方針などを共有していきます。こうした物理的、理念的な共有が、相互理解を深めていくんです。

ビジネスにはコミュニケーションによる刺激が欠かせない

矢田:トップの発信以外で、チームと運営の理解を深化させていくのに必要なことはありますか?

山谷:相互理解を進めるには、コミュニケーションがすべてです。ビジネスのモチベーションは、コミュニケーションでしか湧き上がりません。外からの刺激こそが、モチベーションを上げるんです。

プロスポーツチームでいえば、現場であるチームや選手と、運営側であるフロントが同じベクトルで進んでいくことが、いい結果をもたらします。それには、お互いの背景を理解し合うことが欠かせないんです。チームは試合でいい成績を残せるように、日々トレーニングや練習に励んでいます。一方で、運営側も毎日汗をかいてチケットを売り、スポンサー獲得のために靴をすり減らしています。

そういった双方の努力を理解し合うことで、お互いに協力し合うマインドが醸成されて、結果的にビジネスの生産性も上がっていくんですね。

矢田:最後に、スポーツビジネスの未来に向けて、どのような考えで取り組んでいこうとしているかお聞かせください。

山谷:スポーツビジネスというのは「無形商材」です。家電とか自動車とか、形になった商品があるわけではなく、スポーツという形のないものから生まれる感動や喜び、悲しみ、悔しさといったものが“売り物”なんですね。これは、人の知恵や考え、行動力でしか作れないものです。

さらに、スポーツビジネスに求められるのは、陸上の10種競技のようなオールラウンドな“筋力”です。グッズの1個100円の消しゴムから1億円のスポンサー契約までを扱いますから、それに対応できる能力が必要です。

ステークホルダーも、個人から企業、行政、メディア、自治体などと幅が広いので、ビジネスとしてはとても魅力がある。ただし、給与水準はまだまだ高いとはいえないので、将来的には本当の意味での「夢のある職業」にしていきたいと思っています。

来年2023年にはラグビー・ワールドカップのフランス大会が行われる。前回の日本開催は国内で大きな盛り上がりを見せたが、新リーグであるリーグワンがスタートしたことを受けて、ラグビー界は「次の大会がもう一つの勝負どころ」だともいわれている。静岡ブルーレヴズも、そこに向けてのチーム強化はもちろん、ビジネスとしての成長にも力をいれていく。ラグビーという競技の将来を占う上でも、ブルーレヴズのビジネス展開に注目が集まる。