スポンサーシップはAIで応援から「投資」へ。千葉ジェッツ・東芝ブレイブルーパスが採用するデータ分析

スポーツはスポンサーにどんな価値を提供できるのか。その永遠とも言える課題は、AIの進化により、かつてない解像度で可視化され始めている。F1ではAIがリアルタイムでブランド露出を計算。最適化した映像を出力するなどして、これまでにない価値を生みだしている。

今回、そうしたスポンサーシップ分析サービスを提供する米Relo MetricsのグローバルCEOジェイ・プラサード(Jay Prasad)氏が来日。千葉ジェッツふなばし パートナー企画部 部長の平野達也氏、東芝ブレイブルーパス東京のクリエイティブディレクター 松尾卓哉氏らを交え、スポンサーシップにおけるデータ活用について、スポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2025 Vol.2 supported by アビームコンサルティング」で語った。

スポンサーにとって「ロゴ認知は依然として重要」

Relo MetricsのグローバルCEOプラサード氏は、スポーツの広告価値を数値化するスポンサーシップレポートは「スポーツ史において常に重要なテーマ」であり、企業に対して露出を超えた体験の提供は大事であるが、「ロゴ認知は依然として重要」であるとの認識を示す。

例えば、F1の現場で用いられる広告解析システムでは、サーキットに掲出された看板はもちろん、高速で走るF1の車体にあしらわれたブランドロゴや、ドライバーのヘルメットにつけられた小さなバナーまでもが特定され、リアルタイムで価値測定されているのだ。

「このコンピュータビジョンは車の自動運転と同じような仕組みで、人間の視覚をセンサーが学習し、各ブランドが何秒露出したかを計測しています。カメラがレース上のあらゆる場所に設置され、ディレクターがカメラアングルをコントロールすることもできます。

 例えば、マクラーレンなら(スポンサーの)マスターカードにとって最も価値の高い瞬間を見つけ出し、SNS向けに映像を出すこともできる。これがライブでできれば、パートナーシップのダイナミクスも変わるでしょう」(プラサード氏)

Relo Metrics CEO ジェイ・プラサード氏(左)

同氏は、「数週間後のPDFレポートではモーメントを掴めない。毎晩SNSなどで生まれるストーリーを捉えなければ、コンテンツのスケールは難しい」と持論を展開。そして、「データ分析の会社である私たちも、『行動を変えられなければ何も価値を生み出していないのと同じ』と定義づけている」と、自分たちのミッションを語りかけた。

千葉ジェッツが新アリーナ移転時に活用したエビデンス

こうした最先端のデータ分析が、現場でどう活用されているのか。千葉ジェッツの平野氏は、特に新アリーナ移転の転換期に、このデータの強みが発揮されたという。

「以前は『応援したい』という感情論から来る協賛も多かった。しかし最近は、スポーツチームを活用して『事業課題をどう解決するか』を重視する企業が増えている」と、近年の傾向を解説。ちょうと昨シーズン、ホームアリーナを船橋アリーナからLaLa arena TOKYO-BAYへと移転した際、スポンサーシップメニューの説明でデータが武器になったと話す。

株式会社千葉ジェッツふなばし パートナー企画部 部長 平野達也氏(右)

「船橋アリーナとLaLa arenaの価値で大きく変わったのが、協賛メニューの設計。スポンサード金額が上がってしまうので、そのエビデンスとしてデータを活用し、パートナー企業様に納得いただいた。結果的に、協賛金額も大きく伸ばせたシーズンになった」

感情論だけでは説明しきれないビジネスとしての価値をデータが補完し、スポンサーとチームの信頼関係をより強固にする。まさにデータがスポンサーシップに貢献した好例と言えるだろう。

データが問う意思決定。クリエイティブは縛られるのか?

一方、クリエイティブ視点からデータと向き合うと、別のテーマが見える。東芝ブレイブルーパス東京の松尾氏は、チームの収益最大化を目指してRelo Metricsと契約した。ラグビー・リーグワンではリーグ戦のホストゲームが9試合と、他競技に比べて興行がそもそも少ない。

そんななか、「(ユニホームロゴの場所でも)我々が思っていた価値と数値が、かなり違っているところがあった。来年からは自信を持って適正価格を提示できる」と、メリットを熱弁する。

東芝ブレイブルーパス東京 クリエイティブディレクター 松尾卓哉氏(中央)

一方で、「データがクリエイティブを縛るのか」という点についても一石を投じた。例えば、ラグビーのユニフォームにはかつて、紳士のスポーツの象徴として「襟(えり)」があった。しかし、相手から掴まれやすいため、現在は襟なしが主流となっている。

「これが、もしデータ分析で『襟がよくカメラに映るから広告価値が高い』と出たら、その指標に従って襟をつけた方がビジネス的な価値は高くなる。このように、データがクリエイティブを“縛る”可能性がある。逆に必要ないと定義できれば強い武器にもなる」と、鋭い意見を述べた。

松尾氏のこの指摘は、データ偏重になりがちなマーケティングへの重要な警鐘であり、またデータとクリエイティブが共存するための大きなヒントと言える。

投資にも応援が必要。「感情なきROI」は長続きしない

モデレーターを務めた、Relo Metricsで日本・アジア太平洋を統括する若栗直和氏は、セッション全体をこう締め括った。

「スポンサーシップにおいて『投資(ROI)』の側面は不可欠。ただし、最終的にはやはり『応援』も必要で、“感情なきROI”は長続きしない。そのバランスをどう取るかがすごく重要になってくる」

Relo Metrics Japan/APAC 若栗直和氏(右端)

見えなかった価値を可視化し、適正なプライシングを可能にするAIとデータ。それが強力なツールなのは間違いない。ただ、それをどう活用してファンに還元するかは、人間の意志で決めるもの。そんな未来への希望と課題が見えたところで、ディスカッションは締めくくられた。

各スポーツでの最新事例からその奥にある哲学まで、本記事で触れられなかったディスカッションの詳細や各スピーカーの熱いトークは、ぜひ動画本編で確かめてほしい。

カンファレンス・アーカイブ動画

セッション「AIとデータが拓くスポーツスポンサーシップ分析の未来」のアーカイブ動画をご覧いただけます。以下のフォームからアクセスください(無料)。

※一部ライブ配信のみの箇所があります。悪しからずご了承ください。