DeNA、ジャパネット、コカ・コーラ、モルテンが語る、スポーツ・コンテンツホルダーとパートナーの「今後のカギ」

日本のスポーツビジネスはどこに向かうべきか?その答えを探るべく4月28日に開催されたのが『HALF TIMEカンファレンス2020』だ。主催のHALF TIMEではイベントレポートを連載で紹介していくが、2回目となる今回は、セッション1「これからの次世代クラブ経営と、効果的なスポンサーシップ」の模様をお送りする。

第1回:グロービス堀代表「スポーツ経営にもレジリエンスが必要」――カンファレンスで語られた日本スポーツ界の「未来」

DeNAはスポーツを「地域のソフトインフラ」に

株式会社ディー・エヌ・エー 取締役兼COO兼スポーツ事業本部長 岡村信悟氏

「これからの次世代クラブ経営と、効果的なスポンサーシップ」をテーマにしたパネルディスカッションでは、国内を代表するプロスポーツ経営者2人と、パートナー・スポンサー側から2人が登壇。

モデレーターを務めたのは、パ・リーグのオフィシャルスポンサーでもあるパーソルグループのパーソルキャリア株式会社執行役員の大浦征也氏で、同氏からはまず題材に則して、①経営者から見たプロスポーツ経営を行う狙いや意図、②支援する側から見たコンテンツホルダーとのパートナーになる意味、そして、③今後のパートナーシップのあり方、という3つのトピックが提示された。

まずプロスポーツ経営の狙いや意図について口火を切ったのは、DeNAで取締役兼COO兼スポーツ事業本部長として横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)や川崎ブレイブサンダースの躍進を牽引する岡村信悟氏。そこで示されたのはプロ野球、そしてベイスターズというスポーツコンテンツのあり方が大きく変化している現状だった。

「プロ野球は日本のプロスポーツの王様である昭和のコンテンツのあり方から、21世紀に入ってからサッカーが起点となった“地域との結びつき”が強調されてきています。(クラブ経営には)放映権料も重要で放送で見ることも重視されますが、興行として現場でファンの方が見るということがより重要となってきていると思います」(DeNA岡村氏)

その結果、岡村氏らスポーツ事業本部は現在、「スポーツでひととまちを元気にする」をミッションとしているという。「ポイントは人だけでなく街ということ。我々ベイスターズは、もう70年前から大勢のファンが全国にいますが、あえて横浜を強調しています。地域のソフトインフラとして機能することを狙っているのです」と岡村氏は語る。

4年前にベイスターズが横浜スタジアムの経営権をTOBで取得し、球場・球団の一体経営が可能となったことで、「地域との結びつき」の流れが決定的になったという。ただ実際にリーグ戦が行われるのはシーズンに71、72試合。年間228万人(2019年シーズン実績)の観客が訪れているが、「横浜スタジアムは横浜の発祥の地で、ど真ん中にある。むしろ365日、人の賑わいを創り出すことが重要になってきています」と、試合日以外にも地域の「核」となる必要性を同氏は示す。

これまでベイスターズは、野球を知らなくてもスタジアムやスタジアムのある横浜公園が出会いや憩いの場となる空間づくりを目指した「コミュニティーボールパーク化構想」を押し進めてきたが、現在は横浜の街全体にスポーツでにぎわいを作る「横浜スポーツタウン構想」にその取り組みを進化させている。

「横浜市役所が横浜スタジアムに隣接していますが、来年移転します。その跡地をDeNAが三井不動産さんを代表企業とするコンソーシアムに加わり一緒に開発することで、球団が都市空間を作るというところまで見えてきています。コア・コンテンツがプロスポーツ、場所はスタジアム、その周辺領域に飲食やグッズだけでなく様々なイベントも行って、街全体の賑わいを作ります」(DeNA岡村氏)

この横浜での「成功事例」を基に、川崎ブレイブサンダースを通したバスケットボール×アリーナ×川崎市という組み合わせを現在進めており、さらにはサッカーにも関心を持っていることを明かすと、モデレーターの大浦氏と登壇者らは驚きの表情を浮かべた。

V・ファーレン長崎はスポーツで「理念を表現」

株式会社ジャパネットホールディングス取締役/株式会社V・ファーレン長崎代表取締役社長 髙田春奈氏

DeNA岡村氏に続いて話したのは、株式会社ジャパネットホールディングス取締役で株式会社V・ファーレン長崎代表取締役社長も務める髙田春奈氏。2017年の経営危機で地元クラブの存続をサポートするため、ジャパネットが100%株式を取得し、昨年からは通信販売と並ぶ事業の柱としてスポーツ創生事業が据えられ、2024年の竣工を目指して長崎市内にスタジアムも建設を進めている。

長崎にも地元との取り組みの成功例がある。それが「V・ファーレンロード」だ。現在のスタジアムは最寄り駅の諫早駅から徒歩30分ほどかかるが、それを逆手に取り、途中にある商店街と協力して手厚い歓待でホーム、アウェイ関係なく来訪者を楽しませている。

「前社長(ジャパネット創業者でもある髙田明氏)の逆転の発想だったのですが、おもてなしの精神がすごく長崎らしさを表している。やはり長崎は平和を発信するべき土地。競技の外では敵も味方も関係なく平和を実現したいという理念を表現する場所として、おもてなしの空間が機能しています」(ジャパネット/V・ファーレン長崎 髙田氏)

土地柄にマッチした試みは、クラブにとっても地元にとっても大きなプラスをもたらしている。横浜や長崎の例を通して、プロスポーツ経営は競技の勝ち負けという枠組みを超え、地域活性にもつながる社会的意義の大きな存在となっていることが示された。

東京2020から「ジャパン2020」へ。日本一丸のオリンピックを目指すコカ・コーラ

日本コカ・コーラ株式会社 東京2020オリンピックゼネラルマネジャー 髙橋オリバー氏

ではパートナーから見たスポーツとは、どのようなものなのだろうか?大浦氏からの問いかけに、長年オリンピックなどのスポーツコンテンツを支援してきた、日本コカ・コーラ株式会社 東京2020オリンピックゼネラルマネジャーの髙橋オリバー氏が答えた。

コカ・コーラ社は1928年のアムステルダム大会からオリンピックをサポートし、大会ごとのノウハウを次の開催地へ繋げる事で膨大なデータを蓄積している。だがスポンサードの目的は、時代を通して大きく変わっていくという。

「最初はコカ・コーラという製品を観客、選手の皆様にエンジョイしていただくのが大きな目的でした。1964年の東京大会では、より多くの方にコカ・コーラというブランドと製品を認知してもらう。1972年の札幌大会も北の大地・北海道でコカ・コーラの製品を広く展開して、認知を上げるのが目標でした。1998年の長野大会は日本でできたジョージアのブランドの促進でした」と髙橋氏は明かす。

そして今回の東京大会では、コカ・コーラ社は3つのプランを掲げているという。それは、東京2020を「ジャパン2020」として全国に展開し、新しいスポーツアセットの活用方法を見出すこと、そしてデジタルを活用したアクティベーションを実施することだ。これを根幹に展開プランが構築されている。

その最たる例が、通常の大会ではコカ・コーラと並んでスポーツ飲料とミネラルウォーターを加えた3種類を前面に押し出していたが、今回はその主役を5ブランドに増やしたことだ。「コカ・コーラ」、「アクエリアス」、「い・ろ・は・す」に加えて、日本発のコーヒーブランドである「ジョージア」、そしておもてなしを象徴するお茶の「綾鷹」が名を連ね、「Team Coca-Cola」としてプロモーションを行っている。

「この5つのブランドにより、すべての年代層のお客様に向けたプロモーションができ、日本を一丸にまとめたアクティベーションが可能になりました。これが今大会における活動の象徴だと思っています」(日本コカ・コーラ髙橋氏)

プロからマイナーまで。「する」スポーツを支えるモルテン

株式会社モルテン 代表取締役社長 最高経営責任者 民秋清史氏

これに続いたのは、株式会社モルテン 代表取締役社長 最高経営責任者の民秋清史氏だ。国際バスケットボール連盟(FIBA)、国際ハンドボール連盟(IHF)、欧州サッカー連盟(UEFA)、アジアサッカー連盟(AFC)などの国際競技団体と契約をして公式試合球を提供するモルテンは、東京2020でも複数の競技でボールが採用されるなど、「する」スポーツを支える立場だ。

「モルテンは常にパートナーという形で色々な団体、リーグ、協会と話をしています。僕らは用具を提供しているので、スポーツをやる人が増えないと価値は見いだせない。見る人が増えるだけでなく、みんなが体を動かしてスポーツをやる。そういう人が1人でも多く増えるように活動をしています」(モルテン民秋氏)

競合他社を見るとナイキとアディダスが売上高3兆円規模のガリバー企業。プーマやアンダーアーマー、アシックスなどが数千億で続き、モルテンは約600億円。選択と集中で世界のトップレベルを目指すために、スポーツ団体との連携を強く進めてきた。

「岡村さんが街を作る、髙田さんが人と商店街をつなげると話されていましたが、僕らはスポーツの価値を“リアルの距離で人間がつながる”ということに見出しています。人が接触して、ハイタッチして、ハグをすることに価値を見出すために、僕らはハードウエアにこだわって、様々な競技団体さんと取り組みを進めています」(モルテン民秋氏)

これからのパートナーシップの形とは

コカ・コーラ社は1928年から90年以上にわたりオリンピック・パラリンピックをサポートする

髙橋氏と民秋氏の話からも分かる通り、スポーツへの支援は、試合会場に看板を出すというような時代はとうに過ぎている。その点も踏まえてモデレーターの大浦氏は、これからのパートナーシップの形について両氏に質問した。

髙橋氏は「時代に合った取り組みはもちろんですが、開催国や地域が抱えている問題を、我々がどう手助けできるかを常に考えてアクティベーションを行っています。今回の東京2020の例でいえば、環境に配慮したプラスチックごみへの取り組みです」と、飲料メーカーならでは考えを提示した。

日本コカ・コーラでは、今年3月に100%リサイクルで作られたペットボトルの「い・ろ・は・す」を、また4月からはラベルレスのボトルで発売を開始。今後もさらにリサイクルへの取り組みを拡大させていく予定だという。

「会場で使用される数百万本に及ぶペットボトルを回収してリサイクルを行うことで、資源の有効活用方法を見出すのが今回の大きな柱であり、この先の大会でも引き継がれていくものと捉えています。特に(大会が)1年延期されたことで、さらに深く掘り下げて、より環境に配慮されたアクティベーションを目指したい。組織委員会やIOCも(環境への取り組みを)念頭に置いて活動していますので、そこに我々もどれだけ寄与できるのかを考えたいと思います」(日本コカ・コーラ髙橋氏)

スポーツを通した社会課題への取り組みに深く納得した大浦氏は、民秋氏にも今後のパートナーシップへの見解を聞いた。すると同様に、その目線は「スポーツを通して何ができるのか」という課題解決に向いていた。

「今回のコロナで、戦争以外で初めてアマチュアスポーツが止まっています。先日もインターハイが中止になり、公園に行っても子供たちが狭いところで体を動かしてストレスを感じている。これをいかに解決していくか、スポーツをいかに止めないか。ある程度目途がついた時に我々がやるべきことは、どうやって子供たちをスポーツに戻すかです。そういったことをパートナーと一緒に進めていきたい」(モルテン民秋氏)

コンテンツホルダーが考える「スポーツの価値」

DeNAが球団・球場の一体経営を進める本拠地「横浜スタジアム」。©YDB

パートナー企業の広い視点での取り組みを踏まえ、大浦氏は次にクラブ経営を司る立場の2人に、今後パートナー企業とどんなことをしていきたいか、また自分たちもどのように変化していきたいかという質問を投げかけた。

岡村氏は「パブリックに対してどういう貢献ができるか、それが一層問われる。まして新型コロナ感染症拡大も考えると一層そうなっていく。ベイスターズもスタジアムも、我々はスポーツという“公共物”をみんながうまく使って価値を出せるように、コーディネートすることが役割だと考えています」と即答した。

前出の「横浜スポーツタウン構想」は、DeNA、行政、パートナー企業が参画して成り立つ。岡村氏は、「KDDIさんとは5Gを活用しながら、どんなスマートスタジアムを作りあげようかと検討を進めています。最終的にはスマートシティーの試みとして、エネルギー、モビリティー、スポーツなどの都市空間にあるコンテンツをみんなに提供していく。我々はスポーツからスマートシティーまで、人のライフスタイルを支えていくことになります」と宣言した。

V・ファーレン長崎の社長就任以前はジャパネットで広告や広報などコミュニケーション領域を管轄していた髙田氏は、スポーツをスポンサードする立場で考えれば、出した分の見返りを考えるのは至極当然だとの認識を示しながらも、「それだと限界がある。返ってこなければ終わり。(パートナーと)同じ目指すべき方向性を共有していかないと、長い信頼関係は築いていけないとクラブ側に立った時に感じました」と身を以て振り返った。

そして同氏は続けて、「私たちのクラブが社会に対して果たすべき使命を共有して、一緒にそこを作り上げる企業であっていただきたい。かつ、その企業にとっての発展にもつながっていく形が必要かと思います。長崎が目指すべき理念、平和という概念を共有して、そこに参加していただける企業を増やしていければ」と、ビジョンこそが重要であるとの考えを示した。

「遊びが文化を作り、次世代に継承されていく」

パーソルキャリア株式会社 執行役員 dodaエージェント事業部長 doda編集長 大浦 征也氏。パーソルグループはパ・リーグのオフィシャルスポンサーであり、同社はスポーツ業界での仕事を知り転職のきっかけを作り出すサイト「SPORTLIGHT(スポーツライト)」も運営している。

セッションの終盤には聴講者からの質問も受け付けられた。多かったのはスポーツならではの力とは何か、スポーツの可能性はという問いかけだった。大浦氏が水を向けると岡村氏が答える。

「スポーツって“気晴らし”で人間しかできないことなんです。インターネット、AIの時代で、新型コロナウイルスのような問題が起こった時に、改めて人間に何ができるだろうと考えると、スポーツだろうと。スポーツは語源から紐解けば気晴らし、遊びという意味です。その遊びが文化を作る。人が最も熱狂できてつながることができる。この100年の間にサッカー、バスケットボール、野球のように洗練されて、かけがいのない文化になっている。これを次世代に継承してくということなのかなと思っています」(DeNA岡村氏)

遠隔からの参加というオンライン開催の障壁をものともせず、熱く盛り上がったパネルディスカッション。最後に民秋氏が「スポーツを止めない。今閉じこもっていますけど、どこかの時点で外に出て、特に若い人たちにスポーツを取り戻すことを、みんなでやっていきましょう」と熱く呼びかけて、セッションは締め括られた。

スポーツの持つ力とは何か、また果たすべき役割とは何か。日本のスポーツビジネスをリードする登壇者の議論を通して、今回参加した500名を超える聴講者は、スポーツ自体に改めて向き合い、その考えを未来につなげることができたに違いない。

次回は、オリンピックメダリストの太田雄貴氏と野村忠宏氏、元プロサッカー選手の鈴木啓太氏、そしてスポーツブランディングジャパン代表取締役で東京2020オリンピック・パラリンピック開閉会式エグゼクティブプロデューサーも務める日置貴之氏を迎えた、セッション2「メガスポーツイベントの価値とレガシー」の様子をお届けする。


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