テニス・グランドスラムのひとつである全豪オープン。そのジュニア大会への切符をかけて、アジア太平洋の若きプレーヤーが戦う国際大会が三重県四日市市で開催された。全豪オープンのパートナーであるDUNLOPの主催で、次世代選手の発掘・育成を目指す。来年1月のオーストラリアに向けた熱戦が繰り広げられた大会に密着した。(取材・文=新川諒)
国内大会から世界の舞台につながっていく
2022年11月9日。国内17歳以下の有望テニスプレーヤーたちが四日市に集まった。北は北海道から南は鹿児島まで、男女合わせて32名。男女それぞれ16人ずつが4つのグループに振り分けられて総当たり戦を行い、上位1名ずつが決勝トーナメントに進出して優勝を争う。
国内大会となるこの「2023ダンロップ ジュニア ワールドチャレンジ イン 四日市」の優勝者は、続いて開催される国際大会「2023 DUNLOP Road to the Australian Open Junior Series in Yokkaichi」の出場権も獲得できる。そこで優勝すると来年1月にオーストラリアで開催される全豪オープンのジュニア大会本戦に出場できるという仕組みだ。
アジア太平洋から世界に挑戦するプレーヤーを輩出する同大会は、5回目の開催。コロナ禍で過去2年は国内大会のみの開催となったが、3年ぶりに国際大会も実施された。
4日間に及ぶ国内大会を勝ち上がったのは、男子は三重県四日市工業高校の水野惺矢選手。大きな期待を受けていた地元出身プレーヤーの優勝となった。全国大会を勝ち上がるのは初めてだったが、いつも練習していたコートで戦えたことが自信にもつながったという。「他の国の選手たちと戦うことはこれまでなかったので、国際大会でも頑張りたい」とも答えてくれた。
女子では中国地方代表の網田永遠希選手(野田学園高校)が優勝。「優勝を目指していた大会なので嬉しい。海外の選手と試合をしたことは数回しかないので、チャレンジャー精神で頑張りたい」と、翌日からの国際大会へ向けて話した。
2人が共に口にしたのは、海外選手との対戦への期待。この大会が世界へとつながる「夢の舞台」となっていることが分かる。優勝者には国際大会出場権以外にも、海外遠征に使用できるトラベルバウチャーが提供され、DUNLOPが提携する海外の著名アカデミーのプログラムにも参加できる。
withコロナでは初開催の国際大会
国内大会が幕を閉じた翌日、11月13日から始まった国際大会には日本、台湾、韓国、タイ、中国、香港、マレーシア 、シンガポール、スリランカからプレーヤーが集結。
出場予定選手のキャンセルが出たため、国内大会からは優勝選手に加え、準優勝選手、そして男子は3位選手も参加し、計男女16人ずつが競った。3年ぶりとなった国際大会について、住友ゴム工業株式会社 テニスビジネス部長の山元健氏はこう意気込む。
「withコロナでの国際大会は今回が初めてです。5年前に1回目、翌年に2回目と海外選手を招待して開催しましたが、仕切り直しとなりました。来年にも続いていくように、今年はコロナ対応をしっかりしながら進めていきたい」
4日間に及んだ戦いは結果的に2人の日本人選手が制し、女子は第1シードの辻岡史帆選手(SYT月見野テニススクール)がタイのSalakthip Ounmuang選手を破り優勝。男子は第6シードだった富田悠太選手(ノア・テニスアカデミー神戸垂水)が、神山宏正選手との日本人対決を制した。
昨年は惜しくも決勝で敗れた富田選手。「小さい頃からの夢であるグランドスラムに出場できるのはとても嬉しい。ひとつでも多く勝つという目標ではなく、本気で優勝を狙っていきたい」と、力強く次なる目標を語った。
オーストラリアへの切符を手にしたのは2名だったが、大会を戦い抜いた全ての選手にとって、海外選手との交流、対戦は自らの現在地を確かめる良い機会となったに違いない。ここで得た多くの刺激が、これから大きく羽ばたく糧にもなる。
次世代育成にも取り組むDUNLOP
テニスはグローバルでプレーされるスポーツでありながら、大会は欧州中心。同年代のライバルと切磋琢磨するにも、アジア太平洋の選手たちにとっては門戸が狭くなってしまっている。DUNLOPは全豪オープンの主催者である豪テニス協会と共に、現状を変えていこうとこの大会を開催し続ける。
「ヨーロッパの選手たちは隣の国でもすぐに行けますが、日本やアジア太平洋からはそう簡単ではありません。海外に出ていく場が少ない中、少しでも助けてあげられたらと思っています」(山元氏)
DUNLOP Road to the Australian Openは、「世界への入り口」をコンセプトに大会をスタートした。実際、第1回と2回大会を制したコールマン・ウォン選手(香港)は、この大会をきっかけに現在ジュニア世界12位(2022年11月21日時点)となり、2022年全豪オープンジュニアダブルスでも優勝を果たしている。
今後も四日市からよりウォン選手のように、多く選手に機会を提供できるように展開していくことを目指す。
「この大会はジュニア選手から『世界に行きたい』という想いでエントリーしていただいています。ですので、彼らの門戸をできるだけ広げていきたい。人数を増やしたり、全豪オープン以外の大会にもつなげていくなど、さまざまな機会を提供していきたいと思います」(山元氏)
全豪オープンのジュニア大会「Australian Open Junior Championship」は来年1月の21日から28日にメルボルンで開催される。富田選手、辻岡選手の躍進を期待したい。