テニスツアーNo.1ボールのDUNLOP、国内ジュニア大会も開催。「製品だけでなく、ブランドを育てていく」

タイヤブランドとして英国で1888年に創業し、現在スポーツ領域では住友ゴム工業株式会社がグローバルで展開する「DUNLOP」。多くの国際テニス大会の公式球でもあるブランドは、四大大会の全豪オープンとのパートナーシップから日本国内のジュニア大会まで展開する。今月9日に四日市で始まる大会を前に、スポーツ事業本部テニスビジネス部でグローバルマーケティングとプロツアーを統括する鈴掛彰悟氏にブランドのこれまでと未来を聞いた。

テニスはDUNLOPにとって「フラッグシップ」

DUNLOPの歴史は1888年、ひとりのイギリス人発明家から始まった。写真=住友ゴム工業株式会社

DUNLOPはイギリス人の創業者ジョン・ボイド・ダンロップ氏が「息子に安全に自転車に乗ってもらいたい」という願いを込めて作ったタイヤから始まった。ゴム製品の製造を強みに、1909年にゴルフボールを発表してスポーツ事業に参入すると、テニス用品は来年2023年でちょうど100周年を迎える。

日本国内のテニスボール市場でトップシェアを誇るDUNLOPは、テニスでも1923年からの長い歴史を持つブランド。ボール自体の高い品質はもちろんだが、その上で個体ごとの「ブレ幅」を最少に抑え、均質に作る技術で信頼を積み重ねてきた。

1980年代から90年代はシュテフィ・グラフやジョン・マッケンローといったテニスファンにはお馴染みの選手たちがDUNLOPのラケットを使用。スポーツのDUNLOPとしてはそれまで日本、台湾、韓国での製造販売権に限られていたが、2017年に全世界での商標権を取得したことでテニスブランドとしての認知度も一層高まった。

「私たちの会社は約90%がタイヤと産業品のビジネスで、残りの10%がスポーツ用品。しかしタイヤ事業の人間に言わせれば、黒くて丸い(画一的な)タイヤを上手く宣伝するのは難しい。そうなるとスポーツは自分たちにあって他社にはないコンテンツ、強みになるんです」(鈴掛氏)

多くの人々が注目するテニスという競技で、DUNLOP用品を使う選手が活躍することが直接ブランドイメージ向上へとつながる。住友ゴムではゴルフ用品の「SRIXON(スリクソン)」というブランドと共にDUNLOPを育てていき、タイヤのビジネスにも貢献していこうというのが現在の方向性になっている。

「テニスは『会社全体のフラッグシップ』として投資をしていきます。逆にテニスにとってはタイヤ事業が背後にあり、『何か巨大な産業が後ろに付いている』というイメージも持たれていますね(笑)」

こう鈴掛氏が語るように、新生DUNLOPへの歩みが始まった。

「アジア太平洋」でつながるパートナーシップ

DUNLOPは2018年に全豪オープンとの公式スポンサー契約を結び、2019年の大会から公式ボールサプライヤーとなっている。写真=住友ゴム工業株式会社

買収時点では、約70ある男子テニスのATPツアーのうち10以上の大会でDUNLOPのボールが使用されていた。その後、2018年からは全豪オープンや、ランキング上位の選手が参加するATPファイナルズへの協賛も開始。徐々に選手や大会関係者からの評価を得て、他の大会からも声が掛かるようになっていった。

今では世界中で30以上の大会とパートナーシップを組み、ATPツアーの4割以上の大会でボールが使用される。名実ともにツアーにおける「No.1ボール」となっている。

世界中で存在感が高まる一方で、今後アジア市場はブランド成長にとって欠かせない。同じ思惑を持っていたのが全豪オープンであり、大会はアジア太平洋地域で唯一のグランドスラムというアイデンティティも大切にしていた。

全豪オープンの観客はアジア太平洋地域が中心で、大会としてもこの“ホーム”でテニス自体を盛り上げることが命題だった。これはDUNLOPが目指していたこととも合致した。鈴掛氏は「私たちも代理店や子会社がアジアにあり、『タッグを組んで大会やテニスを盛り上げる流れを一緒に作りたい』という想いが一致しました」と証言する。

大会では、協賛ブランドが会場でブースを出展することは一般的だ。だがDUNLOPと全豪オープンは、全豪オープンのジュニア大会のワイルドカードにつながる大会を日本国内で開催するなどの取り組みも行なっている。次世代育成や競技者人口の拡大など「テニスの未来」に向けて協働している点で特徴的といえる。

「全豪オープンがさすがだなと思うのは、業界全体を盛り上げることを考えてパートナーとお付き合いしてくれているところ。DUNLOPもそんなパートナーシップを求めていましたし、私たちテニスメーカーでしかできないサポートの形だと思います」(鈴掛氏)

次世代育成にも取り組むブランドへ

住友ゴム工業株式会社 スポーツ事業本部 テニスビジネス部 グローバルマーケティング&プロツアー統括 鈴掛彰悟氏

DUNLOPは以前から次世代育成に目を向け、米国フロリダ州にあるIMGアカデミー、フランスのニースにあるムラトグルー・アカデミーとパートナーシップを締結。世界を代表するアカデミーから羽ばたいていくジュニア世代の支援をするだけでなく、国内でサポートする若い選手たちに海外でトレーニングを行う機会も提供してきた。

もちろんブランドとして製品供給する市場の拡大も欠かせない。各アカデミーや各国テニス協会との関係を強化することでボールの利用促進を図り、またジュニア大会などで認知度を高めることでDUNLOPのラケットにも小さな頃から親しみを持ってもらう狙いもある。

「ボールもラケットも道具なので『使い慣れている』というのは重要です。そのためにアカデミーとの連携やジュニア大会を行っています。(全豪オープンを主催する)オーストラリアテニス協会とはアジア太平洋地域のテニス人口をどう増やして、どのようにレベルを高めていけるか話し合いを続けています」(鈴掛氏)

その答えのひとつが、日本国内で行われるジュニア大会だ。三重県四日市市を舞台に毎年開催される「DUNLOP Road to Australian Open in Yokkaichi」では、アジア太平洋地域の有望なジュニア選手を招待し、優勝者には主催者枠として全豪オープンジュニア本戦のワイルドカードを贈呈している。

コールマン・ウォン(香港/写真左)はこの大会をきっかけに世界で活躍する選手へ成長していった。写真=住友ゴム工業株式会社

文字通り「日本から世界への舞台」となる。第1回と第2回大会を制したコールマン・ウォン選手(香港)はこの大会をきっかけに現在ジュニア世界12位(2022年11月7日時点)となり、2022年全豪ジュニアダブルスでは優勝するなどグランドスラム大会常連としても世界中で活躍する選手に羽ばたいていった。ジュニア大会は約半数がヨーロッパ開催とアジア圏の選手にとっては参加しづらい状況になっており、より多くの選手に可能性を広げる大会にもなっている。

2022年は三重県の四日市テニスセンターを舞台に、11月9日から12日までを国内大会、13日から16日までを国際大会として実施する。国内大会優勝者は希望により先述のIMGアカデミー、ムラトグルー・アカデミーのどちらかに参加でき、続いて開催される国際大会の出場権も獲得。国際大会で優勝すれば豪州オープンジュニアへの出場権が得られる仕組みだ。

四日市ではATPの下部ツアーであるチャレンジャー大会の開催実績があり、テニスを行う環境が整う。三重県自体も2018年にインターハイを開催しており、大会運営の経験がある。日本、オーストラリア、三重県、四日市市それぞれのテニス協会とタッグを組んで実施される。

「テニスはどうしても欧米中心になりがちです。アジア人は体格的にも恵まれていないだけでなく、地理的にも恵まれていません。というのも大会は欧米での開催が多く、そうするとアジア太平洋の選手は飛行機移動が増えて経済的な負担も大きいんです。そういう選手にチャンスを与えたい、テニスの未来に貢献したいという想いで(日本での大会を)やっています」(鈴掛氏)

各国トップレベルのジュニアの選手が日本に集まって来る。日本の選手たちにとっても世界基準を体感できる場となり、いずれは国際舞台へ挑戦する機会にもなる。

「『希望』や『夢』を感じてもらえる機会を作りたいと思っています。もちろん企業活動なので私たちの商品も使っていただき、『DUNLOPの商品を使っている選手は強いね』と思ってもらえるといいですね」(鈴掛氏)。

注目の大会は11月9日に始まる。来年1月の全豪オープンジュニアの切符を掴むのはいかに――。

■「2023 DUNLOP Road to the Australian Open Junior Series in Yokkaichi」

https://sports.dunlop.co.jp/tennis/updates/detail/20221020192116.html

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