【Jリーグのアジア戦略】地域・業種・営業スタイルの壁を超えて。カギを握る発想の転換(小山恵×岡部恭英)

「Jリーグ、4か月ぶりに再開」日本中を駆け巡った一報は、多くの人々に未来への明るい希望を抱かせる福音となった。それを実現させたのが関係者のひたむきな努力と、結集された叡智であることは指摘するまでもない。コロナ禍が浮き彫りにした課題、そして日本サッカーをさらに飛躍させるために必要な発想とは? Jリーグ グローバルカンパニー部門で海外戦略を練り続ける小山恵氏と、日本サッカー界きっての国際派、TEAM マーケティングの岡部恭英氏が、ポストコロナ時代を見据えた日本サッカーの可能性と、生き残り戦略を語り合った。(聞き手は田邊雅之)

前回:Jリーグがアジア市場で勝利するための 『3つのカギ』とは?(小山恵×岡部恭英)

タイが結びつけた、ガリガリ君と北海道コンサドーレ札幌

チャナティップと赤城乳業「ガリガリ君」©︎2020 CONSADOLE

――前回、岡部さんからは、様々な業種や企業と掛け算的にバリューを創出していくというお話がありました。東南アジアに進出している日本企業なども巻き込んでいくのは、アジア戦略できわめて有用な印象を受けます。

小山恵氏(以下、小山):まさにそこも狙っているところです。Jリーグの場合、従来はほぼ日本国内だけのマーケットをターゲットにしていましたので、スポンサーに対して還元している価値というのも基本的には国内市場での露出やその他が主でしたし、アクティベーションも国内で完結するような内容のものが多かった。しかしアジア戦略を展開していくことによって、新しい価値を提示できるようになってきている。

例えば札幌でチャナティップが活躍していますけれども、彼が入ったことでインバウンド観光の面では、はっきりと効果が生まれているんですね。その一方ではタイをキーワードに、クラブとスポンサーがこれまでにはなかったような形でパートナーシップを組む形も見られている。

「ガリガリ君」の赤城乳業さんがスポンサーにつかれたケースなどは、最も面白い例の一つだと思います。赤城乳業さんは数年前からタイで「ガリガリ君」販売を始めました。日本国内では知らない人がいないほど有名な商品ですが、タイでは必ずしも認知されているわけではない。そこでタイにおける認知度を挙げるために、何かアイコン的なフックが欲しいということでチャナティップに着目し、札幌のスポンサーに就任したわけです。

――従来にはなかった組み合わせが実現したと。クラブ側が企業にアプローチするだけでなく、企業側がこのクラブとなら組めるかもしれないと判断し、双方向からアプローチするような流れが生まれてきている。

小山:赤城乳業は埼玉県に本社のある企業なので、普通に考えると札幌と組む形にはならない。これまでの流れで言えば地元のクラブと連携することが多いですし、Jクラブの場合は自分たちが本拠を構える地域の企業に対して営業することが主でした。

でも赤城乳業さんと札幌の場合は、従来の枠を超えた形でパートナーシップが実現している。しかも札幌を介して、埼玉とタイが結びつく形になった。日本の地方経済は厳しい状況に置かれていますが、Jリーグのクラブは日本中にありますから、他のクラブもアジアで価値を高めていくことができれば、同じモデルを日本全国で転用できるようになる。これは地域活性化という点でも、きわめて有用だと思います。

――業種だけでなく、地域の枠も超えていくというのは興味深いですね。しかもサッカーが一種の「ハブ」となり、国内外の地域と地域がダイレクトに繋がることもできる。

小山:もちろん基本的には日本とその国、あるいはJリーグとその国という枠組みは大前提としてありますが、地方が世界と繋がることもできる。実際、私たちは単純に日本サッカーやJリーグを輸出するのではなく、ある種のハブになれればと思っています。

現在は海外から観光客を呼び込みたい、あるいは特産品を輸出していきたいという要望が高まっています。その状況の中でアジア戦略を充実させていけば、Jリーグと各地のJクラブ、そして日本企業や行政と組みながら、新しい仕掛けをどんどん作っていけるはずですから。

さらに言えばトヨタや日産、ヤマハなどに象徴されるように、Jクラブの責任企業になっているメインスポンサーは、アジアで精力的に事業を展開している大企業が多い。たしかにJクラブのすべてがアジアでマーケティングを展開したいという意向を持っているわけではありませんが、アジアで新たな価値を見出すことができれば、そういったメインスポンサーにもより有効な形で価値を還元できる。

例えばトヨタさんなどはアジア中・世界中で様々なサッカー・スポーツに協賛されていますが、やはりお膝元の名古屋とアジアでも協業いただいた方が、圧倒的にシナジーの高い仕掛けが創れると思います。こうしてサッカークラブの価値を高めていけば、今のメインスポンサーであり責任企業から、さらなる支援をいただいたりとか、マーケティングに活用してもらったりという可能性がさらに広がっていくと思うんです。

「お願い営業」からいかに脱却を図るか

TEAMマーケティング Head of Asia Pacific Sales 岡部恭英氏

――サッカーを介して国内外の地域がダイレクトに結びつくような流れは、ヨーロッパでも顕著になっているのでしょうか?

岡部恭英氏(以下、岡部):あまりなっていないですね。ヨーロッパサッカーにはパイオニアのアドバンテージがありますし、良い意味でも悪い意味でも殿様商売でやっていけるので、Jリーグのようなアプローチはあまりしていなんです。

逆に言えば、日本はそういう工夫をしていかないと、なかなか市場に参入できない。放映権のセールスにしても、「うちのサッカーはすばらしいでしょ。うちのブランドはすごいでしょう」という商売の仕方ではなく、一種の後発勢力として違うアングルから、ローカルに刺さるものをやらなければならない。

そもそもサッカービジネスの展開は、放映権やスポンサーシップのセールス、そしてチケットセールスが柱になっています。特に放映権とスポンサーシップでは、いかに付加価値(バリュー)を創出できるかに尽きる。しかも現在はサッカーを越えたところでも、いかに付加価値をつけられるかが問われているわけですが、これができなければ国内外を問わず、先方の企業にとってサッカークラブと組む理由はあまりないかもしれません。

しかし日本の場合は、付加価値を提示してクライアントを獲得すると言うよりも、「お願い営業」に頼ってしまう発想が強い。こういう魅力やメリット、ベネフィットがありますよとアピールするのではなく、「クラブの経営が大変なんで、支援をお願いします」とアプローチしてしまうようなパターンが多いんです。

現にJクラブでは地方で多くの企業がスポンサーになっていますが、あまりクライアントに対してバリューを提示できていないのが実情です。何に価値を見出すかというのは人それぞれ違いますし、単にJクラブを支援しているというだけで、満足してもらえるケースもあるかもしれませんが、でも、それだけではダメですよね。単純なスポンサーシップではなく、相互にとってメリットのあるパートナーシップを実現させていかなければならないんです。

――根本的な発想の転換が求められている。

岡部:例えばスポンサーシップというと、ロゴがテレビで露出するとかすごく原始的な考えをしている人が多いんですが、スポンサーシップというのはあくまでマーケティングソリューションです。このJクラブと組むと、こういう恩恵があるというのをアピールして実現させていくのが、本来のパートナーシップセールスなんですね。

とは言え実際には、緻密なオペレーションが必要になる。一口にベネフィットと言っても、各企業によってアジェンダはまったく違うからです。従って、そこは徹底的にヒアリングをして、インタビューをして、相手の真意を理解した上で、じゃあJクラブならこういうソリューションが提供できますというやり方をしていく形になる。

これはなんら特別なことではなく、どんな業界でも当たり前と言えば当たり前です。サッカー界でも、ごくごく普通のビジネスを一個一個地道にやっていくしかない。でも、日本ではそこがまだ徹底されていないんだと思います。Jクラブの場合はまだお願い営業が一般的だと思うので、国内でも国外でもバリューの創出にフォーカスして行く必要がある。

アジアとの絆をさらに強固にするために

Jリーグ グローバルカンパニー部門 小山恵氏

――話を戻します。アジア戦略ではローカル・レレバンスの活用がカギを握りますが、例えばアルビレックス新潟は、かつてシンガポールにチームを設けることも行いました。同様の試みが、Jリーグのクラブで増えていく可能性についてはいかがですか?

小山:もちろんあると思います。アルビレックス新潟シンガポールの事例は、このJリーグのアジア戦略と並行して行われていたというよりもっと早い時点から、若手選手等の出場機会・育成機会の創出といった目的のためにシンガポールに拠点を置いたのが始まりだと思います。ただし、今後はそういうクラブがもっと出てくる可能性はあるかと思います。事実、横浜FCが香港にチームを持っていたようなケースもありましたし。

また地元の選手、ローカルヒーローがJリーグでプレーするという展開が一番効果的なんですが、特定の選手がいなくなってしまった時に、一気に人気がなくなってしまったのでは意味がない。その点では継続的にローカル選手を育成して、いかにJリーグとの関係性を維持していくかが問われてきます。

――かつての外国人選手枠とは逆に、アジア系選手を必ず一人試合に出場させるような方式なども検討されるべきでしょうか?

小山:Jリーグでは提携国枠制度を数年前から設けていて、これはまさにローカルヒーローを生み出す出しやすくするための制度です。例えばタイ出身の選手を獲得するために外国人枠を1つ使うとなると、なかなか獲得に踏み切れないというクラブの声もありました。

なので、Jリーグが提携しているASEAN諸国の選手は通常の外国人枠とは別枠で獲得もできますし、試合にも無制限で出場できるようになりました。あくまで選手を獲得するのはクラブですが、リーグとしてはASEAN各国の選手を取りやすい環境を整備しています。

一方で強制的にアジアの選手を獲得させるような試みは、完全に逆効果だと思います。ポルトガル2部リーグに中国企業がスポンサーとして付き、中国人選手の獲得を半強制的に進めるといった計画もあったと聞きますが、これではファンも完全に興ざめしてしまうと思います。やはりフェアな環境で正々堂々と競争を行い、そのうえでアジアの選手が自ら活躍するところにストーリーや魅力が出てくるわけですから。

「地域」の壁、「業種」の壁、そして従来型の「営業スタイル」を超えていくための発想の転換こそが、Jリーグの新時代を切り拓く。岡部氏と小山氏は、興味深い実例を挙げながらこう解説した。掉尾を飾る次回は、日本のスポーツ界が世界に誇る知られざるアドバンテージ、さらにはJリーグ飛躍のために求められる人材について伺う。

◇小山 恵(こやま・けい)
Jリーグ グローバルカンパニー部門。商社にて東アジア・東南アジアのマーケットを中心にセールス、マーケティング活動に従事。2012年に株式会社Jリーグメディアプロモーション入社、Jリーグのアジア戦略室立ち上げメンバーとして参画。現在、Jリーグの国際展開・アジア戦略を手掛ける。

◇岡部 恭英(おかべ・やすひで)
TEAMマーケティング ヘッド・オブ・アジアパシフィックセールス。欧州サッカー連盟(UEFA)専属のマーケティング代理店TEAMマーケティングのアジア・パシフィック地域のセールス統括責任者として、テレビ放映権・スポンサーシップの営業を担当。サッカー世界最高峰の大会UEFAチャンピオンズリーグに関わる初のアジア人。スイス在住。Jリーグアドバイザーも務める。英国ケンブリッジ大学MBA取得。慶応義塾大学ソッカー部出身。


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