低調な国内認知度から一転、チケット販売好調なラグビーW杯
観戦者は多く、テレビ視聴率も高く、マーケットとして魅力がある。しかし、いかんせんチームがいまいち弱い。日本のラグビー界に対する「外からの目」を分析するとこのようなイメージが浮かび上がってくる。
今年9月から、アジアで初のラグビーワールドカップ(W杯)が日本で開かれる。試合の競技会場に当てられた各自治体では、準備がいよいよ最終段階に入って来ている。当初は大会開催の認知度は低く、試合が行われる自治体でもこのような国際大会が開かれることを知る人は5割を切っていたところがほとんどだった。日本では、サッカーと異なり、ラグビーにもW杯があることさえ知られていなかったからだ。
ところが、大会まで半年を切った2019年5月現在、ラグビーW杯のチケット販売は好調だ。予定数の180万枚のうち、130万枚が売却済み。残りの50万枚は市場に残っているのではなく、スポンサーや公式ツアー会社などの残券で、5月以降に一般観客向けに売るために調整が進められているものだ。
この状況について、W杯の主催団体であるラグビーユニオンの国際統括団体 ワールドラグビーは「チケットはほとんど売切れ」と説明している。この数には海外販売分が含まれているものの、初めてのW杯アジア開催というハードルがある中、チケット販売についてはすでに目標数が捌けた、と言って良いだろう。前回の2015年イングランド大会での売却率98%を上回るかもしれない。
着実な人気を得てきたサンウルブズ
開催国としての名誉を背に、日本代表はまず予選プール戦で4試合を戦う。前回2015年に行われたイングランド大会では、強豪・南アフリカを初戦で破り、文字通り台風の目となった日本代表だが、プール戦で3勝しながらトライ数によるボーナスポイントで下回り、決勝トーナメント進出を逃す憂き目にあった。今大会では「何が何でもベスト8」というのが至上目標だ。
この目標に向け、日本のラグビー界は様々な施策を打ってきた。これまでの強化体制ではあまりに国際試合の経験が少なかったといった問題があり、強い相手との試合経験を積ませる必要に迫られていた。上位国との試合が組まれても、相手がベストメンバーを送って来ないケースも見られたからだ。そうした中、日本ラグビー協会(JRFU)は新たに南半球のプロリーグ「スーパーラグビー」に参戦するチームを結成した。これが「サンウルブズ」である。
日本人選手が強豪チームとの試合経験を高めるには好適なプランとなった一方で、地力の差は明白となったのも事実だ。1シーズンで1、2勝しかできないという厳しい結果が続き、目が肥えた南半球のラグビーファンには「サンウルブズは弱すぎる」という悪印象をもたらし、テレビ視聴が離れるのではないかという見方をされる一面もあった。
それでも日本のラグビーファンは積極的に応援した。サンウルブズは、実業団チームで構成されている「トップリーグ」の平均観客数を凌駕し、コンスタントにスタンドが埋まる好循環が始まっていた。トップリーグの2018-2019シーズンの1試合平均入場者数は約5,000人だが、サンウルブズの秩父宮ラグビー場での2018年ホームゲームは、平均12,000人を記録している。
ところが事態は一変する。スーパーラグビーの運営団体SANZAARはこのほど、2021年以降のチーム構成や試合の運営方式を見直した結果、サンウルブズの同年以降の参加を締め出してしまった。他チームの日本への渡航の負担という事情はもとより、参加チーム数を減らす措置を目指す改革だったため、成績の芳しくなかったサンウルブズが締め出されるのはやむなしだったかもしれない。
今回の決定について、SAANZARのアンディ・マリノスCEOは、「JRFUは3月上旬、サンウルブズの2020年シーズン後の参加を、財政的に引き受ける立場にはないと明言して来た」とした上で、サンウルブズの存続の可否は「『代表チームの選手強化の場として、スーパーラグビーが最善の方法ではない』と考えるJRFUの判断に左右されるだろう」と述べている。SAANZARが求めた「参加の為の金額」は10億円とされるが、この拠出をJRFUが拒む格好となった。
それでも日本ラグビーの市場性は魅力的
サンウルブスの除外を決定しながら、日本のラグビーファンベースはSAANZARにとって魅力的なのは変わりない。マリノスCEOは、スーパーラグビーからのサンウルブズ締め出しの方針を発表した一方で、日本をはじめ、サモアやトンガ、フィジーなどの太平洋諸島、南北アメリカ、香港などから成る「スーパーラグビー・アジアパシフィック大会」の創設を検討中といった、新たなアイデアについても口にしている。
日本が参加する新たな大会構想として、SAANZARのプランとは異なる動きもある。それは、ワールドラグビーが計画中の年一回の国別代表による大会「ネーションズ・チャンピオンシップ」(仮称)に、日本やアメリカの代表チームを参加させるものだ。この大会の実施に当たり、欧州の「シックス・ネーションズ」と南半球の「ラグビー・チャンピオンシップ」参加の計10チームに、日米両国を加えた12チームで戦わせようという計画を打ち出した。
ところが、「チームは強いがファンベースが弱い」太平洋諸島のチームを計画段階で締め出したことで、ラグビー界全体の反感を買い、2019年5月現在、運営の是非を含めた大会のあり方について論議が進んでいる状態だ。とはいえ、ワールドラグビーが「ビジネスになる」と見込んで日本代表に参加を促したことは、ある種の大きな評価だったとみていいだろう。
ラグビー界にとってはまだまだアジアは「未開の地」だ。そんな中、先進各国の大会運営者が、日本を軸に新たな動きを進めようとするのは興味ある状況と言える。「W杯後のレガシーは残るのか」と危惧する日本のラグビー関係者が多い中、国外の人々は「2019年W杯はアジアラグビー繁栄に向けた最初のステップ」と位置付ける。そんな関係者たちの目論見に応えるためにも、まずはW杯での日本代表の活躍を期待したい。