【withコロナ】Jクラブ、NPB球団が「スポーツ×食」で新たな取り組みを開始

現在コロナ禍で各スポーツが中断となる中、プロスポーツクラブが地域や企業などステークホルダーと連携して、「食」領域で新たな取り組みを始める動きが広がってきた。地域の食・パートナー企業店舗の応援から、球場グルメのデリバリーまで、JリーグクラブとNPB球団の試みを追った。

アントラーズが取り組む「地域の食と消費者の橋渡し」

鹿島アントラーズは地域の食を届けるプロジェクトに取り組む。画像提供=鹿島アントラーズ

新型コロナの影響下、いち早く「スポーツ×食」の取り組みを発表したのはJリーグの鹿島アントラーズだった。クラブは4月1日に「鹿行の『食』を届けるプロジェクト」を開始した。

これは、ホームタウンである鹿行地域とその近隣で、通販が可能な飲食店舗・事業者を無料で特設サイトに掲載し周知することで、ファンやサポーターのみならず多くの人々に「地域の食」を届ける試みだ。地元経済の活性化だけでなく、地域ならでは商品を網羅することで地域のPRも見据えている。

地域連携チームの櫻井奨貴氏は、 企画のきっかけは、他地域・他業界の先行事例を社長の小泉文明氏が共有したことにあるという。鹿島アントラーズは情報共有と業務効率の向上にSlackを導入していることでも知られている。

「札幌商工会議所が運営している『緊急在庫処分SOS!』を参考にしました。社員同士で面白い記事を共有する習慣があり、社長の小泉がこのサイトを共有すると次々にアイデアが膨らんでいきました。そこで地元の飲食情報を広く提供したいと思い、地域連携チームが着手しました」(鹿島アントラーズ櫻井氏)

プロジェクトを開始したのは緊急事態宣言が7都府県に発令された4月7日より前で、その後社会情勢に合わせて企画を運営してきた。ホームタウンに限らず近隣にまで対象エリアを広げているのもその一つだ。

「プロジェクトは当初、外出自粛となっている首都圏の方々に通販で注文してほしいと考えて立ち上げました。しかし移動制限が首都圏以外にも広がり、地元のニーズにも応えるためテイクアウトやデリバリー店舗も掲載し始めました。今までの関わりに関係なく地域店舗の皆さまにご利用いただけるよう、対象エリアは広く、掲載料は無料にしました」(鹿島アントラーズ櫻井氏)

出店者からの反応は上々だ。「地域を応援してくれているということが何よりも嬉しく心強い」といった感謝の声から、「月3、4件だった通販が1週間で20件程度になった」と販売の伸びも聞くという。これまでの約1か月半で延べ90店以上を掲載してきたことで、「嬉しい反響を数多くいただき、また店舗の周知、売り上げへの貢献も果たしています」と、同氏は活動を評価する。

金沢でつなぐ「サポーター、パートナー、クラブの輪」

ツエーゲン金沢はパートナーの飲食企業を一覧化を行う。画像提供=ツエーゲン金沢

アントラーズに続いたのはJ2リーグに所属するツエーゲン金沢だ。緊急事態宣言が全国に拡大されたのと同じ4月16日、クラブは飲食系のパートナー企業を一覧化した特設サイトを立ち上げた。

先行する自治体や鹿島アントラーズの例も参考にしながら、「SNS上でファンやサポーターの方々の『ツエーゲンのパートナー企業の商品を買いたい』という声を見かけたのもきっかけです」と、事業企画部広報担当の加藤有視氏は明かす。

特設サイトでは、テイクアウトやデリバリー、通販などが可能なパートナー企業の商品を掲載。「チャンピオンカレー」のカツカレー弁当や「加賀守岡屋」の焼きいなり・おやきなどの商品が、店舗情報や応援コメントと共に紹介されている。クラブパートナーの飲食関連企業38社のうち18社が参加しており、後援会企業やスタジアム出店店舗にもさらに広げていくという。

飲食業界ではこの状況下、テイクアウトメニューの新設やオンライン販売の開始など工夫を凝らす店舗も多い。全パートナー企業の10%以上を飲食関連企業が占めるツエーゲン金沢が目指すのは、クラブを支えるパートナー企業の販路開拓と売上回復、そして何より「絆」を強めていくことだ。

「スタジアムに出店している店舗や県内でも店舗数が多いパートナー企業は自然と(ファンや市民に)情報が伝わりますが、そうでないパートナーの情報も含めて届けることで、この機会にファンやサポーター、パートナー企業、クラブの輪が強くなればと思っています」(ツエーゲン金沢 加藤氏)

ホークスはUber Eats 「野球に絡めた食の楽しみを」

ホークスは球場グルメのデリバリーとテイクアウトを始めた。画像提供=福岡ソフトバンクホークス

一歩踏み込んだ取り組みを行うのが、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスだ。4月23日から年間を通して、本拠地「PayPayドーム」で販売する球場グルメをUber Eatsのデリバリーで届ける取り組みを開始した。

球団が目指したのは、外出が少なくなる人々に「楽しみ」を届けることだったという。広報室広報企画課の西岡純氏は、「野球だけでなく様々なエンターテインメントが枯渇している中、何か野球に絡めた食の楽しみを提供できないかと考え、スタートしました」と話す。

球場グルメは軽食やドリンクの他に、高橋礼麺などの人気メニューや選手にちなんだメニューも多数揃える。これをUber Eatsから注文することで、家庭など様々な場所で楽しむことができる仕組みだ。さらには、2020年シーズンから販売予定であった『周東選手のSHUTOカルボナーラ』と『上林選手のハヤシライス』の新商品についても先行販売している。

「ホークスならではの選手メニューはどれも好評です。特に『松田選手のアンガスサーロインステーキ』と、今シーズン開幕より新たに販売予定の新メニュー『上林選手のバヤシライス』が人気です」(福岡ソフトバンクホークス西岡氏)

Uber Eatsは2018年11月から福岡市でサービスを開始。ホークス球団グルメの販売エリアは現在ドーム周辺に限られるが、球団は今後のエリア拡大に向けて調整しているという。これに加えて、5月15日からは球団グルメのテイクアウトも開始。電話で注文後、PayPayドームで商品を受け取ることができる。

「是非、球場グルメを食べて少しでもホークスを感じ、楽しんでいただければと思います」と、西岡氏は野球のない日々を過ごすファンへメッセージを送った。

JリーグとNPBは「新型コロナウイルス対策連絡会議」を3月に立ち上げ、5月11日には第7回会議が開かれたが、現在もリーグ再開・開幕は未定だ。Jリーグは6月7日までの中断延長を発表しており、6月13日以降の試合については今後判断するとしている。プロ野球の開幕も同様に確定していないが、6月19日開幕の可能性を複数メディアが報じている。

5月14日には茨城県を含む39県で「緊急事態宣言」が解除されたが、コロナ禍が完全に過ぎ去ったわけではない。社会・経済活動が少しづつ再開する中、スポーツ界は「withコロナ」時代に対応していくことが求められる。

この環境下でも「スポーツ×食」の新たな取り組みで、ファンとのエンゲージメントを続け、普段チームを支えるパートナーや地域を有事にサポートする取り組みは、スポーツ界の多くで参考になりそうだ。